第19話 動き始めた何か
リーダーが執務室へ戻ると、待っていたように緊急連絡が入った。
離れた場所でだが、戦闘時の波動を捉えたという。
どこかが襲われたらしい。
「確認しに行くぞ」
一見、他人事のようだが、我が身に脅威が及ばないかを見極める為、現場へ確認に行くのも精鋭部隊の役目でもある。
警報が鳴り、精鋭部隊出撃命令のアナウンスが響いた。
医務室でも、それはよく聞こえたが、ユウは目覚める気配を見せなかった。
リーダーを含めた精鋭部隊が現場に着いた時は、既に戦闘は終了していた。
――破壊された建物、多数の遺体。
精鋭部隊は戦闘に不可解な部分がないか、襲撃の原因は何かを調査していった。
探査能力を持つ者が、リーダーを呼んだ。
……生存者だ。
怪我はしているものの、意識はしっかりしている。
「何があった?」
リーダーは質問と同時に、生存者の意識を詠んだ。
だが、まるで情報がない。
生存者の男は、怯え、恐怖に震えていた。
リーダーは一考した後、生存者の男を保護し、地下施設へ連れ帰った。
襲撃の恐怖で、一時的に記憶喪失になる事は、稀にあるのだ。
保護された男は正体不明の為、見張り付きの個室監禁となった。
身体に、異常がないか。
能力の有無、の検査が行われる。
過去の記憶が戻り、敵でない事が判明すれば、自由行動が許されるのだが……。
リーダーが医務室へ行くと、ユウの意識は回復していた。
「おかえり」
見慣れた表情。顔色も悪くない。
親衛隊が『再』検査データを持ってくる。
能力値の異常上昇は収まり、前回測定時より少し高い数値で安定していた。
先程、倒れた時の身体への負担は見られるものの、他は特に異常はない。
「これが初めてか?」
リーダーの問いに、ユウは思い出すようにする。
「前にも、あったよ……。能力が発現した直後だったかな……」
しかしデータには残っていない。
「……よく、あるのか?」
「ないよ。体調が悪いのかと思った」
とりあえず、一安心のようだった。
「も~! ユウったら、脅かさないでよ! 心配しちゃったじゃない!」
「吃驚したぜ! 急に倒れて全然目を覚まさないから、このまま死んじゃうのかと思ったぜ!」
縁起でもない事をゴードンが言う。
レイカもゴードンも、それだけ心配したのだろう。
普段通りのユウを見て、緊張が溶けた。
「ユウ、ちっと付き合え。見せたいものがある」
リーダーは先程保護した男の部屋へ、ユウを連れて行った。
部屋の外から、モニター越しに男を見せる。
ユウは驚いた。
「イチニイ……!」
リーダーはユウの反応が想定済みのように、冷めた目をして聞いた。
「知っているか?」
「兄さんだよ。一番上の兄で、名前はハジメ。僕はイチニイって呼んでいた。何故、ここにいるの?」
親衛隊のサーラは、先程の出撃で保護した経緯をユウに教えた。
ユウは面会の許可を取ると、部屋へ入って行く。
「兄さん……!」
男は、ユウを見ても少しの間……反応しなかった。
しかし段々と記憶が蘇ったように、表情が生き生きとして言った。
「……ユウ? ……ユウなのか……!」
――余りにも、久し振りの再会。
「今まで、どうしていたの? ……死んだのかと、思っていた」
「それはこっちの台詞だ。よく生きていたなぁ、お前!」
壁に凭れ掛り、遠巻きに見ているリーダーに、親衛隊の男性が聞いた。
「ユウの関係者だと、知っていたんですか?」
「いや……」
リーダーの眼は、射貫くようにハジメを見ていた。
――面影がある。
リーダーが過去に見た、生物兵器として作られた実験体の子供達の一人に……ハジメは似ていた。
あの大事故の前後を思い出せば、大体の想像はつく。
前リーダー夫妻は、実験体の子供達を、実の子として育てたいと言っていた。
だからユウが――
実験体の面影のある、この男……ハジメを兄と呼ぶのなら、そういった家庭を築いていたのだろう。
だが、何か腑に落ちない――
ユウとハジメの再会の喜びが一段落すると、リーダーは再びハジメに問いた。
「あの場で何があった? お前は何をしていた?」
ハジメの脳裏に、浮かぶ映像……。
流れてくるイメージ。
「物質……転送能力?」
あの場にいた全員が殺され、一人残ったハジメは、襲撃者をその能力で飛ばして生き延びたという。
親衛隊が、ハジメの検査結果を見て補足した。
「もうひとつ、探査能力もあります。どちらも高い数値を記録しました」
ここでいう高い数値とは、威力がある、強力であるという意味だ。
「…………」
――やはり、腑に落ちない。
そんな能力があるのに、何故、始めからそれを使って、襲撃者を撃退しないのか。
ハジメの記憶が途切れていて、能力発動前の状況が判らない。
ユウを思い出したのに、何故、未だに記憶が途切れたままなのか……。
「他の兄さんや、姉さんは? 父さんと母さんの事は、知ってる?」
「全員、死んだと思っていたよ。ユウが生きているんだから……」
どこかで生きているかも知れない希望が湧いて、ユウは嬉しくなった。
ユウの兄だと判っても、ハジメは監視付き監禁を、解かれなかった。
記憶が完全に戻るまでは、保留だという。
ユウは身内という事もあり、また、情報を聞き出すにも適しているとして、常時の面会が許可された。




