第18話 異常上昇
短期集中強化訓練により、精鋭部隊は大幅な水準向上に成功した。
人によっては従来の二倍近く強化された者もいる。
同時に参加していた回復部隊も、出力及び精度の上昇を得られ、大成功を収めた。
敵の襲撃もなく平穏で、精鋭部隊出撃が必要な案件もない。
嵐の前の静けさでない事を祈りながら、平和な日々を送っていた。
ユウの助言による成績急上昇の噂を聞きつけ、多くの子供達が殺到した。
部隊の強化にも一役買っていると知り、大人気だ。
戦いの無い日々が続く事もあって、ユウに変化が見られていた。
「最近、よく笑うようになりましたね」
「口数も増えていますよ。少し前まで、殺伐としていましたが」
親衛隊の二人が、ほのぼの話していた。
今日も、子供達に囲まれているユウ。
穏やかな笑顔で対応している。
いや……元々は、こんな感じだったのだろう。
リーダーは子供達の輪に直進して行って、ユウの頭を小突いた。
「お前、本当にサブリーダーになれよ」
「やだって、言ってるだろ!」
子供達が驚いて、歓声を上げる。
”英雄”の名を馳せる”精鋭部隊”のユウが、ついにサブリーダー任命!
同じ子供として、夢と、憧れと、希望の……まさに、象徴のような存在!
もう、お祭り騒ぎだ。
リーダーは、してやったりな顔をしている。
ユウは不機嫌になって、去って行ってしまった。
廊下でゴードンと会い、また訓練室へ誘われる。
だが、何だかユウが不機嫌だ。
ゴードンは、毎日のように指導して貰って、自分は目に見える上達があって楽しいが……
ユウに時間を割いて貰っている事から、ユウがしたい事が出来ないのでは……と、考えを巡らせる。
「そういう訳じゃないんだけど……」
また思考を詠まれた。
「詠むなって、言ってんだろー!」
ゴードンに軽く叩かれて、ユウは苦笑して謝る。
こんな遣り取りは、日常茶飯事になった。
もう、すっかり”友達”だ。
二人は会話をしながら訓練室へ向かい、ユウはゴードンの訓練に付き合う。
ゴードンは必須カリキュラムを終了させ、今は初級戦闘プログラムに入っていた。
「う~~ん、クリアは出来るんだけど、どうもうまく行ってないんだよな……」
ゴードンは以前の『クリアすれば良い』から、『納得するまで繰り返す』に考えを変えていた。
ユウの影響だ。
どの基礎コースを選んでも、ランキングは上から下まで全部ユウの名前で、今現在も繰り返し行っている事から、基礎の重要性を感じたのだろう。
ユウに助言を頼もうと、目をやると……
――ユウは、蒼褪めた顔をしていた。
驚いて、駆け寄るゴードン。
「どうしたんだ? 具合……悪いのか?」
「………」
何かを言い掛け、唇が動くが、聞き取れない。
ユウは、力なく倒れ込んだ。
報告を受け、リーダーと親衛隊が医務室へやって来る。
ユウはベッドに寝ており、まだ意識は戻っていない。
すぐ傍で、心配そうにゴードンが寄り添っていた。
「何が起きた?」
倒れた当時の情報を、ゴードンから受け取っても、突然としか言いようがない。
検査情報を、親衛隊が持ってくる。
「能力値が、異常上昇していますね……」
ユウの能力値は、元々高い。
通常の測定器では測れないので、専用の特製をわざわざ作った程だ。
能力者は全員定期的に測定してはいるが、ユウの検査情報は、その値が前回測定したものと比べ、急激に上がっていた。
あまりにも大きな力は、身体に負担をかける。
緩やかな上昇なら問題は無いが、急激な上昇は、下手をすると命に関わる。
医務室に、レイカが飛び込んで来た。
ユウが倒れたと聞いて、慌ててやって来たのだ。
目の前にリーダーと親衛隊がいて吃驚するものの、挨拶をして、ユウの傍へ走って行った。
ユウの様子を見て、ゴードンに経緯を聞いている。
親衛隊のサーラがリーダーに指示を受け、ユウを見守る二人にそれを伝えた。
「ゴードン、レイカ。ユウを頼みます。出撃命令が出ても、行かせてはなりません。ユウには休養が必要です」
ゴードンとレイカは頷いた。
何が起きたのか判らなかったが、相当具合が悪そうなのは、理解出来た。




