表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/89

第17話 短期集中強化訓練

 一時間後、二十人を超える精鋭部隊が、広い講堂へ集まっていた。

 リーダーから聞いたユウの実績はまだ半信半疑だったが、短時間で強化は魅力がある。


 まるで何かのイベントのようで心が躍った。

 後ろに控えている、回復部隊の多さが気になるが。


「最高出力で防御結界、お願いします」


 ユウはそう言うと、遥か遠くまで移動して、手を上げる。


「いきまーす」


 先程リーダーに行ったと同じく、無数の光のエネルギー弾が精鋭部隊を襲った。

 予備知識のあるリーダーはともかく、殆どの者が油断しており、いきなり壊滅状態だ。


 慌ててユウが戻って来て、治癒能力を施していく。

 回復部隊も、大わらわだ。


「最高出力って、言ったのに……」


 仕切り直して、もう一度。

 今度は、気を引き締めてのぞむ。




 昼時――

 食堂へ珍しく、精鋭部隊が集団でやって来た。


 子供達は、大喜びだ。

 しかし何故か全員憔悴し切っており、食事もあまり喉を通らない様子。

 挙句の果てに、その場で熟睡する者もいた。


 ゴードンがユウの傍にやって来て、聞いた。


「今日は出撃していないだろ? なにか、やっているのか?」

「強化訓練」


 いそいそと食事を摂りながら、ユウはぶっきら棒に答えた。


 続いて第一回復部隊が、やはり集団でやって来た。

 これも珍しい光景だ。

 そして精鋭部隊と同じく、疲労困憊だった。



 何をやっているのか気になり、ゴードンと子供達はこっそり後をつけて行くと、一般も使用可能な講堂へ入って行った。


 鍵が掛けられていて、中へは入れない。

 しかし派手な打撃音や、悲鳴が聞こえる。

 回復部隊と思われる、慌しい声も聞こえて来る。


「な、なにをしているんだろう……」


 怖いもの見たさで、小さな窓を探し当てた。

 そっ……と覗こうと、音を立てないようスルスルと窓を開けると、目の前にユウがいた。


「見ちゃダメ」

「……なにをしているんだ?」


 聞きながら、ゴードンはユウを避けて中を見ようと右往左往してみるが、邪魔されて見えない。

 その間にも悲鳴や何かが壊れる音が、聞こえてくる。


「強化訓練って言ったろ。流血沙汰で子供には目の毒だから、見ちゃダメ」

「お前だって、子供だろ」


「僕は戦場で、見慣れているから」


 完全に閉められてしまった。



「あ……あいつ、なに、あの余裕……」


 ボロボロになりながら、ゼイゼイと息を切らしているリーダーがいた。


 ユウは子供達の侵入を防ぎに行って相手をしているのに、そのユウから発せられる光弾は、全く変化せず絶え間なく精鋭部隊を襲っている。


 光弾の威力は最初とは比べ物にならないほど強力になっていて、防御結界を最高出力で長時間維持するのも体力の限界だ。

 かといって少しでも気を緩めると、光弾の餌食になり、大怪我じゃ済まない。


「鬼か、あいつは!」


 文句を言いながらも、必死に耐えるしかなかった。

 体力の化け物と称されるリーダーでさえこれなのだから、たまったものではない。




 ――翌日。

 疲れが抜けない精鋭部隊は、また、あの講堂に集まっていた。


 回復部隊が治癒してくれたとはいえ、身体のあちこちが、まだ痛い。

 今日も、またあの地獄の特訓を受けるのかと思うと、気が滅入って来た。


「いきまーす」


 ユウの無数の光弾が、炸裂する。

 しかし、今日はそれほど痛くもなく、跳ね飛ばされる事もない。


「こらっ、ユウ! 手ぇ抜くんじゃねぇ!」


 リーダーが叫んだ。

 誰もが余計な事を言わないで欲しいと思った。


 攻撃を止めて、ユウがにっこりと笑った。


「手抜きなんて、してないよ。昨日の終了間際より威力上げたのに、みんな平気だった」


「……という事は……?」


「防御結界の強化終了。外部攻撃に対する耐性強化と、無意識レベルの揺らぎの穴補正を同時にやったから、厳しかったと思う。痛い思いさせて、ごめんなさい」


 ユウが、珍しく饒舌に説明した。


 精鋭部隊のメンバーは、明らかに強化された防御結界を自己認識し、歓喜した。

 わずか一日に満たない時間で、これだけの変化をのぞめるとは予想もしていなかった。

 同時に地獄の特訓から解放されたのも、正直、嬉しかった。


「教育係……向いてるんじゃねぇの、お前」


 結果に満足したリーダーが、ユウを褒めた。


 ……にこにこして、ユウが言った。


「じゃあ次は、攻撃の強化訓練……いこうか」






 時が止まったように、鎮まり返った。

 全員、耳を疑う。


「え……?」


 ――今日も講堂から、激しい打撃音と悲鳴が聞こえていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックマーク、感想、評価、など。是非、皆様の声をお聞かせ下さい。
レビューを頂いたら、天にも昇るほど嬉しいです!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ