第17話 短期集中強化訓練
一時間後、二十人を超える精鋭部隊が、広い講堂へ集まっていた。
リーダーから聞いたユウの実績はまだ半信半疑だったが、短時間で強化は魅力がある。
まるで何かのイベントのようで心が躍った。
後ろに控えている、回復部隊の多さが気になるが。
「最高出力で防御結界、お願いします」
ユウはそう言うと、遥か遠くまで移動して、手を上げる。
「いきまーす」
先程リーダーに行ったと同じく、無数の光のエネルギー弾が精鋭部隊を襲った。
予備知識のあるリーダーはともかく、殆どの者が油断しており、いきなり壊滅状態だ。
慌ててユウが戻って来て、治癒能力を施していく。
回復部隊も、大わらわだ。
「最高出力って、言ったのに……」
仕切り直して、もう一度。
今度は、気を引き締めて臨む。
昼時――
食堂へ珍しく、精鋭部隊が集団でやって来た。
子供達は、大喜びだ。
しかし何故か全員憔悴し切っており、食事もあまり喉を通らない様子。
挙句の果てに、その場で熟睡する者もいた。
ゴードンがユウの傍にやって来て、聞いた。
「今日は出撃していないだろ? なにか、やっているのか?」
「強化訓練」
いそいそと食事を摂りながら、ユウはぶっきら棒に答えた。
続いて第一回復部隊が、やはり集団でやって来た。
これも珍しい光景だ。
そして精鋭部隊と同じく、疲労困憊だった。
何をやっているのか気になり、ゴードンと子供達はこっそり後をつけて行くと、一般も使用可能な講堂へ入って行った。
鍵が掛けられていて、中へは入れない。
しかし派手な打撃音や、悲鳴が聞こえる。
回復部隊と思われる、慌しい声も聞こえて来る。
「な、なにをしているんだろう……」
怖いもの見たさで、小さな窓を探し当てた。
そっ……と覗こうと、音を立てないようスルスルと窓を開けると、目の前にユウがいた。
「見ちゃダメ」
「……なにをしているんだ?」
聞きながら、ゴードンはユウを避けて中を見ようと右往左往してみるが、邪魔されて見えない。
その間にも悲鳴や何かが壊れる音が、聞こえてくる。
「強化訓練って言ったろ。流血沙汰で子供には目の毒だから、見ちゃダメ」
「お前だって、子供だろ」
「僕は戦場で、見慣れているから」
完全に閉められてしまった。
「あ……あいつ、なに、あの余裕……」
ボロボロになりながら、ゼイゼイと息を切らしているリーダーがいた。
ユウは子供達の侵入を防ぎに行って相手をしているのに、そのユウから発せられる光弾は、全く変化せず絶え間なく精鋭部隊を襲っている。
光弾の威力は最初とは比べ物にならないほど強力になっていて、防御結界を最高出力で長時間維持するのも体力の限界だ。
かといって少しでも気を緩めると、光弾の餌食になり、大怪我じゃ済まない。
「鬼か、あいつは!」
文句を言いながらも、必死に耐えるしかなかった。
体力の化け物と称されるリーダーでさえこれなのだから、たまったものではない。
――翌日。
疲れが抜けない精鋭部隊は、また、あの講堂に集まっていた。
回復部隊が治癒してくれたとはいえ、身体のあちこちが、まだ痛い。
今日も、またあの地獄の特訓を受けるのかと思うと、気が滅入って来た。
「いきまーす」
ユウの無数の光弾が、炸裂する。
しかし、今日はそれほど痛くもなく、跳ね飛ばされる事もない。
「こらっ、ユウ! 手ぇ抜くんじゃねぇ!」
リーダーが叫んだ。
誰もが余計な事を言わないで欲しいと思った。
攻撃を止めて、ユウがにっこりと笑った。
「手抜きなんて、してないよ。昨日の終了間際より威力上げたのに、みんな平気だった」
「……という事は……?」
「防御結界の強化終了。外部攻撃に対する耐性強化と、無意識レベルの揺らぎの穴補正を同時にやったから、厳しかったと思う。痛い思いさせて、ごめんなさい」
ユウが、珍しく饒舌に説明した。
精鋭部隊のメンバーは、明らかに強化された防御結界を自己認識し、歓喜した。
僅か一日に満たない時間で、これだけの変化を臨めるとは予想もしていなかった。
同時に地獄の特訓から解放されたのも、正直、嬉しかった。
「教育係……向いてるんじゃねぇの、お前」
結果に満足したリーダーが、ユウを褒めた。
……にこにこして、ユウが言った。
「じゃあ次は、攻撃の強化訓練……いこうか」
時が止まったように、鎮まり返った。
全員、耳を疑う。
「え……?」
――今日も講堂から、激しい打撃音と悲鳴が聞こえていた。




