第16話 才能
「ほれ」
リーダーは翌日、食堂にいるユウへ百本の糸が通った針を渡した。
ユウは、ちょっと吃驚して礼を言う。
「本当にやったんだ。ありがとう、被服部が助かるよ」
何の事はない。
やはり、ただの無駄な時間だった。
「リーダー、ちょっと付き合って」
珍しくユウから誘うので付いて行くと、いつも対戦に使うトレーニング室へ入って行った。
「リーダー、防御結界張って、そこ立って」
別に対戦、という訳でもなさそうだ。
ユウはかなり離れた位置まで遠ざかった。
「いくよー」
「?」
ユウから無数の光のエネルギー弾が弾かれた。
「っちょ……!」
光弾は雨あられと降り注ぐ。
凄まじい打撃音と共に、光弾はリーダーに直撃した。
もうもうと立ち上る、煙の中から……
激怒したリーダーが足早にやってきて、ユウの胸倉を掴んで空中に持ち上げた。
「俺を殺す気か!!!!!」
「怪我してないでしょ?」
「そういう問題じゃない!!」
「今迄のリーダーなら、何発か当たっていたよ」
「……なに……?」
手を放し、ユウを床へ置く。
落ち着いて、自分の防御結界の強度を確かめてみる。
「…………。マジで……?」
冷やかしに言ったつもりが、本当に強化されていた。
それは、ほんの僅かな差だが、戦場では生死を分ける。
「リーダーは出力あるから誰も気が付かないけど、大雑把なんだよ」
「……いつ、気が付いた?」
「最近かな……。ゴードン達の練習を見ていて……なんとなく判るように……」
……何の能力だ。いや……才能か?
にわかには信じ難いが、現に子供達の成績は急上昇しているし、リーダー自身も今、まさに身をもって実感した。
「……もっと強くなれるか?」
「なれるよ」
「……マジで?」
「うん」
「……精鋭部隊の奴等は?」
「リーダーより大幅アップするんじゃない?」
「…………俺より強くなるの?」
「いや、伸びしろって意味で。リーダー今でも十分強いじゃない。なに、不満そうにしているの……」
リーダーは、顎に手を当てて思考を巡らす。
リダクションデバイスなんて物が、あったばかりだ。
現状、確認されているものは破壊したが、今後強化版が出ても、おかしくはない。
ユウや自分は出力を上げれば良いだけだったが、他は苦戦した。
全体の戦力向上は、緊急必須課題だ。
――ちょうど良い。
「精鋭部隊を強化するのに、どの位、時間がかかる?」
「基本プログラム全部十回ずつ、クリアすれば良いんじゃない?」
基本か……。
確かにユウは、リーダーの命令で、今も基本を繰り返しこなしている。
しかし、それでは時間が掛かり過ぎる。
「もっと短時間で。可能か?」
「うーん……出来ない事ないけど、かなり荒っぽくなるよ……」
リーダーはニヤリと笑って、出口に向かって歩きながら指示をした。
「それで良い。一時間後、開始する。すぐ準備しろ! 必要なものは用意する」




