第15話 針の糸通し
最近、子供達のカリキュラム消化が激しかった。
今まで停滞続きだった子が、急激に必須カリキュラムを次々クリアしていく。
ゴードンを筆頭に、そんな状況が急増していた。
「ここ数日、精鋭部隊の出撃回数、少ないですしね」
「明らかに誰の仕業か、明白ですね」
親衛隊の二人が、ほのぼのと話していた。
ユウはといえば、珍しく人がいない食堂で、服を繕っていた。
ゴードンが、やってくる。
「なにしてんの? 裁縫……?」
返事もせず無言で手仕事をするユウは、相変わらず口数が少ない。
それなりに仲良くなり、ゴードンから親友宣言までしたというのに。
「裁縫なんて、女の仕事だろ」
「君が破いたんだよ」
「え……」
よく見ると、破けた箇所に見覚えがある。
ユウと初めて対戦した時に借りた、精鋭部隊の制服だ。
「……お前のだったの?」
「精鋭部隊で子供なんて、僕しかいないじゃない」
何だか悪い気がしてきた。
「お……俺がやるよ」
「いいよ、得意だし。もうすぐ終わるし」
”英雄”の名を馳せるユウが、裁縫が得意というのも初めて知った。
「珍しい趣味してんな……お前」
「別に戦ってばかりじゃないよ」
そんな淡々とした会話をしているうちに、仕上がったようだ。
人が増えてくる。食事の時間だ。
ユウの周りに、子供達が沢山やってきた。
よく見れば、いつもの小さな子供達だけではない。
ユウと同年代の子供達も、多く含まれている。
どうやらここ数日で、ユウが助言をして成績を急激に伸ばして行った、子供達のようだ。
「やっぱりお前か」
トレーに食料を山積みにしたリーダーが、子供達を割って無理矢理ユウの隣へ座って来た。
子供達にとってはリーダーは畏れ多くて、一気に遠巻きになる。
「なにが?」
「しらばっくれんなよ。ガキ共の成績が急上昇だって聞いたぜ。お前だろ?」
リーダーは丸飲みするような勢いで、固形物を平らげていく。
「なにもしてないよ。それより、もっとよく噛んで食べなよ……」
言ってるうちに、きれいさっぱり無くなってしまった。
「そんなに得意なら、俺にも助言して貰おうか。どうやったら、もっと強くなれる?」
明らかな冷やかしだ。
ユウは嫌そうに、裁縫道具を仕舞いながら答えた。
「針の糸通しでも、やったら?」
ユウの返答に、大笑いしながらユウの背中をバンバン叩いて、リーダーは去って行った。
リーダー執務室に戻って、ふと思い出して試してみる。
針の糸通し。
なかなか、難しい……。
「こんな小さな穴に、どうやって通すんだ……」
食堂から戻って来た親衛隊の二人は、珍しい光景を見て驚く。
「何やっているんですか?」
何故か、全員で針の糸通しをする羽目になった。
「ユウの奴、こんなのが得意とか……絶対、変人だろう」
段々、苛々してくる。
流石に女性のサーラは、難なく通す。
「……どうやってんだ。教えろ」
そんな事、命令しなくても……と苦笑しながら、サーラは丁寧に手解きをした。
「よっしゃぁあ! 出来たぞ!」
早速ユウへ見せに行ってしまった。
残された親衛隊の二人は、何だかよく判らない。
「……ずっとやってたの?」
わざわざ見せに来られて、ユウは吃驚している。
そういえば、何故こんなに夢中になっていたんだか。
急にリーダーは冷めて行った。
「邪魔したな」
「リーダー、それあと百本やって」
「はぁ?」
「百本」
ユウは、にこにこと笑顔で言った。
「俺はそんな暇じゃねぇんだよ!」
リーダーは執務室へ戻って行った。
しかし、そうは言ってみたものの、負けたようで気に障る。
結局リーダーは一日かけて百本の糸通しを達成していた。
「……俺は何をしていたんだ」
貴重な時間を、こんな無駄な事に割いてしまった事を後悔した。




