第12話 英雄の謂れ
リーダー執務室で静かに話を聞いていた、親衛隊と、ユウ。
……言葉が出ない。
リーダーは話し疲れたように、だるそうにしながら端末を操作した。
正面の画面へ、行方不明者リストが表示される。
「前リーダー夫妻と親父は、今も行方不明者扱いだ。死体が確認された訳じゃないからな」
重い空気が圧し掛かる。
確かに、ユウの能力は常軌を逸している。
遠視能力、透視能力、感知能力、精神感応力、念動力、瞬間移動、飛行能力、治癒能力、結界能力、殺傷能力……。
ここまで多数の能力を一度に使える者はなく、しかもどれも高出力で強力だ。
”研究者の目指した、最高傑作の生物兵器”
そう言われれば、頷けるような気もしてくる。
しかし……。
「話してくれて、ありがとう……」
苦笑して、ユウが席を立った。
「もう、あんな暴発すんじゃねぇぞ」
「うん……大丈夫」
部屋を出て行こうとするユウに、追い掛けるようにリーダーは言葉を付け足す。
「判っていると思うが、これはトップシークレットだ、良いな」
「……うん」
ドアを開けると、更にリーダーは付け足した。
「ユウ」
振り向くと、まるでリーダーは睨むように――
しかし真っ直ぐな瞳を向けて、ユウに言った。
「俺には、お前が必要だ」
ユウは少し驚き、戸惑って……
微笑んでから、部屋を出て行った。
ユウとリーダーのやり取りを見ていた親衛隊の女性が、ようやく言葉を口にする。
「覚えていますよ……ユウを保護した時の事。他にも子供はたくさん保護しているのに、妙に気を掛けると思っていたら……。
最初から、ユウを探していたんですね」
「危険だからな……」
かったるそうにリーダーは答えた。
「あの当時は、まだろくに能力は発現していなかったが、時間の問題だろ? 間に合って良かったぜ」
「間に合って?」
親衛隊の男性が、聞き直す。
「あんな高出力、コントロール出来なきゃ、すべてを破滅させるぜ。自分も、周りも……すべてな」
ユウの能力が発現してからは、専門の研究者が付きっきりで、毎日同じような能力コントロール専用の教育プログラムを繰り返し、飽きるほど行わせていた。
お陰でユウはそういうものだと認識して、普段から教育プログラム以外の時間の潰し方を、知らない子供になってしまった。
「他の奴等の手に渡らなくて良かったぜ。あんなの敵に回したら、こっちが死ぬ。それに……」
リーダーは遠い目をして続ける。
「あの高出力を見たら今の世の中、大抵の奴はユウを”道具”として扱うだろう。過去の研究者共と同じように、ユウの自我を消すかも知れん」
「……自我がなければ、コントロールも出来る筈ねぇ。結局は、破滅さ」
能力者であるリーダーから見れば、長年掛けたこの地下施設の研究が、どれほど愚かだった事だろう。
研究者が目指した完成形とは、基本が抜け落ちたものに過ぎなかった。
それでも再び、同じ過ちを犯そうとしていたのが、大型軍事基地だ。
いや、この地下施設の末端研究員が追放されて、運良く生き延び――
直接携わっていなかったにも関わらず、”理想の生物兵器”を夢見て、研究を続けていたと考えるのが妥当だろう。
親衛隊の女性……サーラは、昔を思い出していた。
(そう、私も……)
実験体の子供達を探す過程で、リーダーは襲撃を受けて死に直面した者達を、大勢保護して来た。
この地下施設にいる沢山の子供達は、そういった子達だ。
サーラもまた同じく、このリーダーに、命を救われた一人。
戦闘員が全員殺され、恐怖と絶望の淵にいたサーラを、颯爽と救った”白馬の王子様”。
恩人の力になりたくて己を磨き、短期間で精鋭部隊に起用されたものの、更に近くの親衛隊になって気付く。
この男は、乙女が夢見る”白馬の王子様”とは程遠く、紳士性の欠片もなかった事に。
それでもサーラは傍にいる事に、満足していた。
視線を感じて、リーダーが胡散臭そうに顔を向けた。
「……あんだよ?」
「いいえ」
サーラは、苦笑した。
この大型軍事基地の一件は、極秘任務だった筈が、どこから漏れたのか――
一般の耳にも、入ってしまっていた。
ただ、事実と少し違った形で噂となる。
『人類の存続を脅かす、新兵器運用を目前に控えた
総武装千人規模の大型軍事基地を、ユウが一撃壊滅させた』と――
お陰で、この日からユウは”英雄”扱いされる事となった。
過去話、から、一年も前ではない少し前の話、まで、これで終了です。
そして通常の時間へ戻って行きます。
ユウが同年代のゴードンと試合をした、あの時間へ。




