第11話 昔話…終話
リースが”リーダー”になって間もなく、大事故が起きた。
地下施設全体に、振動が響き渡る大爆発。
鳴り響く、警報。
多数のシステムが作動せず、原因も被害状況も判らない。
現状の警備システムでは役に立たず、リースは直属の部下へ命じて”能力”を駆使した現状把握に努めた。
「爆発元は、最下層機密研究施設」
「死傷者、行方不明者、多数」
「外へのゲートが開いています」
「ゲートを閉めろ。二次爆発を防げ。システムの回復、生存者確認、被害状況報告、急げ!」
突然の大事故にも関わらず、慌てる素振りを一切見せずに、リースは次々と指示を出した。
右往左往するだけしかなかった研究者達が、それを見て感心する。
早々に出た被害者リストに、元リーダー、元サブリーダーの名前をリースは確認した。
リースの、父の名も。
同時に、あの子供達と赤ん坊を示す”実験体”と書かれた項目もリストに載っていた。
リースの直属部下による決死の行動で、数時間後、ようやく事態は落ち着いた。
あの子供達がいた機密研究施設へ行ってみると、跡形もなく何もかもが焼け、二度とこの場で研究など出来ない状態になっていた。
勿論、生物兵器関連のデータも、すべて失われた。
様々なデータ破壊の為、気付くのが遅れたが――
”外”へ行くための防護服複数と、軍用車が数台なくなっていた。
「これはテロだ!」
リースの祖父が、騒ぎ立てた。
「元リーダー、元サブリーダー、そして儂の息子は、研究方針について異議を唱えていた。大多数の研究者が賛同するというのに! なにが道徳だ! 今更そんなものをクチにする方が恥ずかしいわ! 奴等がやったに決まっておる! 大勢の犠牲者を出しおって……。
奴等が実験体を連れて、逃げたんだ! 追え! 今すぐ追うんだ!」
現リーダーであるリースに、祖父は詰め寄った。
しかしリースは微動だにせず、高い背丈から低い祖父を、見下ろすようにして言った。
「現状回復が最優先だ。追跡に割く人員など、今はいない。
第一、防護服が必要な”旧世代”の人間が、ここを出て、生き延びられると思うのか?」
追跡隊を出そうとしないリースに向かって、祖父は叫んだ。
「儂が行く! 探し出して、あのバカたれを、とっちめてやるわ!」
「……許可は出す。好きにしろ」
祖父は探した。あてもなく、毎日……毎日。
そして、死の床に就いた。
防護服は、能力者達が使う”防御結界”とは違い、汚染の完璧遮断ではない。
――間もなく祖父は、この世を去った。
リースは根底から、組織を作り変えていった。
前リーダーへ告げたように、バリバリの軍隊に仕立て上げ、完全な縦社会を形成した。
同時にリーダーの権限を拡大し、逆らう者は「追放」とまで明示した。
恐怖政治のようなやり方に、研究者達が不満を上げたが、全員追放されてしまった。
ようやく安定して来た頃には、あの大事故より三年が過ぎていた。
”生物兵器”に関しては――
あの大事故で、殆どの関係者の死亡が、確認された。
生死不明なのは、前リーダー夫妻、リースの父、実験体のみ。
生存者の中でこの一件の詳細を知るのは、実質リースだけとなった。
――あの大事故から五年後……ようやく探し物がみつかる――
まるで大爆発が合図のように、爆風で抉れた森の中に、それはあった。
酷く遠くまで飛ばされた箱の中に、一人の男の子がみつかる。
大怪我をしていて意識も朦朧としていたが、何とか話が出来た。
「名前は?」
「……ユウ」




