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第10話 昔話…8年前

 やがてリースは成長し、立派な青年になった。

 しかしその頃には、どこで見つけて来たのかミリタリー系の本を読み漁り、見事な軍人モドキとなっていた。


 研究者達は、そんな彼をさげすみ一線を置いていたが、一部からは絶大な支持を得ていた。


 体力もあり判断力も抜群で、しかも多能力高出力……

 複数の超能力を持ち、いずれも強力な効果を示すちからを持っていた。


 研究者達の長年の成果より、天然の彼の方が、ずっと役に立つし頼りになる。



 リースはリーダーの呼び出しを受け、軍服に身を包んだまま部屋へ訪れた。

 軍人らしく、キビキビとした挨拶をする。


 リーダーは穏やかな人で、そんなリースをにこやかに迎えた。


「君に、次期リーダーを務めて貰いたい」


 予想もしない言葉に、驚く。

 代々研究者がリーダーなのだから、同じ研究者がリーダーになるのが順当だ。


「何故、俺を? 適任者は、いくらでもいるでしょう」

「君しか、いないんだよ」


 リーダーとサブリーダーが二人並んで、笑顔を向けていた。


「……何故ですか? 引退するには早い」

「そうでもないよ、私達はもう年だ。これからは、君のような若者が率いて行くのが正しい」


 サブリーダーの女性が、正面の画面を点けた。

 そこには生まれて日が経たない、無垢な赤ん坊が映し出された。


「可愛いでしょう……。生まれたばかりなの、男の子よ」

「我々の、研究成果の集大成だ」


 リーダーが補足した。

 リースの目には、やはり、ただの赤ん坊にしか見えなかった。


「何でもない普通の子に、見えるだろう? ……その通りだよ」


 もう一画面、並んで表示されたのは、一番大きい子で七歳前後だろうか。

 五歳、四歳、三歳と続いて、年の差が一年ほどの子供達が、全部で四人見えた。


「君も知っての通り、我々は長きに渡って生物兵器開発の研究をしている。それが、この子達だ。我々の望むクオリティに達しなかった”失敗作”だよ」


 画面の中には、リースが過去に見た面影がある子供がいた。


「能力が、我々の求むクオリティに達しない上、この子らは普通の子供達なんだよ。ちゃんと自立した意識を持った”人間”なんだ」


 サブリーダーが続ける。


「研究者が求めるのは”生物兵器”です。命令を遂行するだけの存在で、自我はいらないの」


 リーダーとサブリーダーは、更に続けた。


「暫定的に失敗作と言ってはいるが、能力は成長と共に大きくなる可能性が高い。

 その時に自我を持っていると厄介なので、今のうちに薬物でなくしてしまおうと先日、決まったのだ。四人の子供達は、既に投与されている」


「この生まれたばかりの子だけは……赤ん坊という事で、私達の管理下において保護しているけど、時間の問題なの……」


「どうしてそんな最高機密を、俺に?」

「君を次期リーダーに任命したのを、忘れたのかね? 知っておく必要がある」


 リースは冷めた目をして言った。


「俺がリーダーになったら、バリバリの軍隊にしますよ?」

「好きにしたまえ」


 この地下施設には軋轢あつれきを生まないよう、いくつか掟がある。

 その中のひとつに、リーダー制について厳しく決められた項目がある。


 次期リーダーは、前リーダーの指名制。

 反論も、拒否も、認められない。

 だがこれに不服を唱える者はいなかった。


 現段階においてリーダーとは指導者というより、まとめ役でしかなく、もっと言えば雑用係だ。

 研究者にとって、研究以外に時間を割かれるのは、嫌なものだ。


「謹んで、お受けします」


 リースの答えを聞いて、リーダーもサブリーダーも、ほっとした。

 この段階をもって”リーダー”の権威は、リースへと移行した。


 元サブリーダーが画面の赤ん坊を見て、穏やかな笑顔を見せて言った。


「この子に名前をつけたの。優しい……と書いて、”ユウ”よ。研究の集大成だけど、まだこの子は何のちからも示さない、ただの赤ちゃん。

 このまま普通の子として、……私達の子として、育てていきたい」


 夫の元リーダーが、仲睦まじく元サブリーダーの妻の肩を抱いた。

 妻はうっすらと涙を浮かべ、夫の肩に顔をつける。


「頼んだよ……」


 二人の優しい笑顔を見たのは、これが最後になった。







タイトルの、由来の話となりました。

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