左賢王。
西域の王子は左賢王と呼ばれた。
左賢王は西域では太子、つまり世継ぎの位である。
三王と左賢王は馬が合うのか仲良く、よく草原から抜け出して遊びに来ていた。
自由に草原を駆け回る彼らに婉容は一抹の憧れを抱いていた。
侍女に案内されて左賢王が現れた。
長い髪を何束も結って、毛皮を身につけている。
あの七公主も彼を見た瞬間、頬を赤らめた。
「三王、久しぶりだな!」
「左賢王!元気そうだな」
三王は席から立ち上がり、彼の元に歩み寄った。
婉容はその様子を見つめていた。
「男らしい…」
思わず婉容は呟いた。
三王は線が細くて力仕事に無縁の体格をしている。
一方の左賢王は衣服の上からでも分かるほどがたいが良い。
婉容は左賢王の方が女として好みであった。
その好みは偶然にも七公主も同じであった。七公主は左賢王に吸い寄せられるように近づいて言った。
「三王の妹か。話は聞いている、男勝りだって」
「剣を振り回す女は嫌い?」
七公主は本気で聞いた。
「嫌いじゃない。それより三王、今日はお前に相談があってきた」
「わかった。堅苦しい話の前に飲め。それから聞こう」
こうして急遽、婉容のつい向かいに左賢王の席が設けられ七公主の誕生日を祝う宴が再開された。
七公主はじっと左賢王を見つめている。
その様子を九姨娘・蘭怡は見逃していなかった。
「殿下、七公主は左賢王が気に入ったようですね」
「蘭怡もそう思うか?」
「はい」
蘭怡からすれば兄として三王を慕う七公主は邪魔だった。蘭怡は嫉妬深い女であった。