憂鬱の行方はいつも出家。
忘れられているのは、ある意味で残酷だが婉容にとっては取るに足らないことだった。
しかし、これが冠婚葬祭なら話は別だ。
一応、側妃としてのプライドがある。側妃としてのプライドと愛は関係ない。
寝台でごろごろしている婉容のもとに貞が呆れ顔で現れた。
「側妃さま、また仮病でご挨拶をお休みに?」
「仮病じゃないわ、寝不足よ、寝不足」
「はぁ、四側妃さまの侍女が仮病だと噂しておりましたよ?」
「言わせておけばいいわーねぇ、お菓子が食べたいわ!」
「側妃さま!」
「な、なによ!?」
「この屋敷で側妃さまの噂をしない者はいません!ご寵愛がない側妃は子どもがいない限り、離婚されてしまいます!」
「あーもう!明日にでも出家してやる!」
「また、出家などっ!」
貞とのこのやり取りは週に何十回も繰り返されていた。
婉容にとって三王はどうでもよかった。
嫁げと言われたから嫁いだだけの相手に愛情など全くない。
愛を求める他の側妃たちと一緒に愛を求めるのも嫌だった。だから、他の側妃たちと仲良くしたくなかった。
「こんな部屋住み三男坊なんか好みじゃないのよっ!」
そう言うと婉容は布団を頭から被り不貞寝を決め込んだ。
貞は深いため息をついて部屋をあとにした。
部屋の外には婉容の棟に勤める下女たちがひそひそ話をしている。
貞が咳払いをすると下女だちはひそひそ話を止めて持ち場に戻っていた。
貞は悔しかった。
自分の仕える主人が蔑ろにされているような気分だったからだ。
しかし、婉容は特段、気にしてはいない。
嫡妃なら少しは気にする。だが、自分は何人もいる側妃に過ぎない。
側妃は本当に憂鬱だ。
少しも気持が晴れることはない。