九姨娘さま、はよ寝ろ。
婉容が昼寝から目を覚ますと既に夜だった。
隣の棟から華やかな灯が差し込んできた。
隣の棟は空いていたのに不思議だと思っていたら、蘭怡が引っ越してきたと貞が説明してくれた。 蘭怡は九姨娘になったのである。
側妃は基本的に嫁いだ順番で呼ばれた。
婉容なら六番目に嫁いだから六側妃と呼ばれる。しかし、侍妾たちは妾の意味がある姨娘と呼ばれて側妃たちとは一線を画す存在だった。
正室の嫡妃は王妃であり、絶対的な存在だ。しかし、三王の嫡妃は病弱で屋敷の家政は二側妃が取り仕切っている。
煌々と灯がこぼれてくる中で婉容は気だるそうに立ち上がり、鏡台の前に座った。
「あーかつらが重くて肩がこるわ」
「仕方ありません。殿下の側妃である以上は綺麗にしておりませんと…」
「綺麗にしても、誰も綺麗ねーなんて言わないもの。髪飾りも、白粉も全部、無意味だわ!」
「そう仰られても」
貞が困っていると下女が現れて夜食の粥を運んできた。ちらりと婉容は粥に視線をやったが、今は食欲がなかったから無視をした。
冷めてもそのまま温めずに食べればいいと思った。それを貞はハシタナイというが待つのが面倒だった。
「顔を洗うわ…お風呂は明日でいいわ。寝ましょう、寝ましょう」
鼻歌交じりに寝巻きに着替えて寝台に体を沈めると貞は帳を下ろした。
沈黙が流れる。
隣から派手な管弦が聴こえてくる。
寝付きの悪い婉容は布団を頭まですっぽり被って、ぎゅっと目を閉じた。