陛下と元旦那。
住職は皇帝陛下が明修に会いたがっているのだと直ぐに分かった。そして尼のひとりを走らせた。
明修の元に走った尼は順修という。彼女は庵の扉を力いっぱい叩いた。
「尼君!住職がお呼びです!」
「住職が?」
声と同時に庵の扉が開いた。
「とりあえず来てください!」
そう言って順修は明修の腕を引っ張り、庵から出すと住職がいる中庭に向かった。
明修は訳が分からなかった。
しかし、順修の様子からただらぬ何かを感じていた。
中庭に向かう石畳は苔が生えていた。
清貧を尊ぶ尼寺によく似合っている。
「尼君!順修!」
住職が中庭から出迎えた。
「住職、なんの御用ですか?」
「皇帝陛下が尼君を案じておられて…」
「明修の尼君!」
住職の言葉を遮るように皇帝陛下が言った。
明修は目を丸くして、頭を下げた。
「陛下…」
「庵での暮らしは不便ないか?」
「はい。私は廃妃された身です。不便があって当たり前でございます」
その様子を遠くから眺めていた三王は気が気でなかった。
明修こと婉容は皇帝である父が愛した淑妃によく似ていた。
皇帝陛下は彼女の面影を求めていた。寂しさから抱きしめた妃子を見ては淑妃に似ていないことに絶望した。
だが、林昭儀は淑妃に似てはいなかった。
林昭儀は皇帝の寂しさを縫い合わせるのが巧みである意味で狡猾であり賢い女だった。
淑妃に似ている婉容をきっと手に入れるつもりだと三王は思った。