皇帝陛下と林昭儀さま。そして尼のわたし。
婉容は左賢王を惑わせた罪で廃妃となった。
そして願い通り、出家を果たした。
出家して髪を切り、一介の尼僧になった婉容は名前を捨てた。明修という新しい名前で暮らしていた。
皇宮では三王と福禧公主の生母、静妃が死んだ。
皇帝陛下は静妃の死を悼んだだが、新たな妃子を求めた。
皇帝陛下の妃子は何人もいた。
静妃の死後はとりわけ若い宮女を愛した。
しかし、若い宮女は若いだけで直ぐに飽きてしまった。
宦官の楊仁は皇帝陛下が密かにある人物を求めていることを感ずいていた。
だが、それは到底、叶わないことだった。
「陛下、林昭儀さまがおめ通りを願っております」
「昭儀?朕は誰も召したくはない。はぁ…」
「しかし、昭儀さまはどうしてもと…」
「下がれ!」
皇帝陛下は手にしていた茶碗を投げつけた。
陶器の割る音が部屋中に響いた。
部屋の外にいた林昭儀は皇帝陛下の虫の居所が悪いと早々に退散した。
林昭儀は長年、皇帝陛下に仕えている。
長年の功績により正二品の位を賜っている。
だが、林昭儀は正二品で満足するような女では無かった。
明修は粗末な庵で祈りと安寧の日々を過ごしていた。
心に漂っていた黒い憂鬱という雲は晴れていた。