嫡妃。
蘭怡は何かと兄である三王に近寄ってくる七公主が嫌いだ。
この機に七公主と左賢王をくっつけてしまおうと考えた。
「殿下、七公主は貴族に嫁ぐより広い草原に嫁いだ方が良いと思います」
蘭怡は猫なで声で言った。
「蘭怡もそう思うか?左賢王なら知っている仲だから安心でもある」
「なら、早く陛下に申し上げましょう」
そんな話が進んでいるとは知らずに婉容は左手に持っていた扇で顔を隠した。
ちらりちらりと左賢王に視線を送る。
それを四側妃は見逃していなかった。
そして悪辣な考えを巡らせた。
「げほっげほっ!」
嫡妃が激しく咳をした。嫡妃は咳で息苦しいのか宴を途中退場した。退場する侍女に紛れて婉容も退場する。
婉容はよい覚ましに中庭で梅を眺めていた。
紅梅は月光に照らされて、その紅い花を咲かせている。
「三男坊なんかより左賢王に嫁ぎたかった…あーもう出家したいなぁ…」
「俺が好みか?」
背後から声がした。
婉容は慌てて振り向くと左賢王が立っていた。
「私は三王殿下の側妃です!」
「知ってる。宴の最中、視線を何回も感じていた」
「気のせいです…」
「出家したいのか?」
「殿下に愛はありません。毎日が憂鬱なのです」
「出家する方法がある…」
そこに侍女の貞が息を切らせながらやって来た。
そして言った。
「嫡妃さまが亡くなりました!」
婉容の手から扇が滑り落ちた。
突然、消えた命の炎をどう見送ればよいのか婉容には分からなかった。