3.約束の未来へ
自分でも呆れるぐらい、オレの毎日はチェファ次第なんだな、ってつくづく思う。チェファを失いそうな不安でいっぱいだった撮影初日には全然うまく笑えなくて、そんな自分が情けなくて、めちゃくちゃ落ち込んだのに、チェファとのことがうまくいった途端、プリンススマイル全開でさ。カメラマンさんにも、「今日は絶好調だね!」って褒められたよ。それからは、毎日の撮影に自信を持って臨めた。
その動くきっかけくれたセナには、嫉妬の原因だったこともあって何だかちょっと悔しいけど、感謝しなきゃって思ってる。いつまでも子供みたいだな、って思ってたけど、いつの間にか大人になってるんだな、ってちょっと感慨深くもあり…。一緒に過ごしてきたこの10年の長さを改めて思った。
そんな想いの交差したロスでの撮影を満足いく結果で終えて、オレはチェファの待つソウルに帰って来た。
帰宅したその足でチェファの家にお邪魔して、今回のオレの不手際をチェファのご両親に詫びた。そして改めて、将来チェファと結婚したいことと入隊前に身内だけでの婚約式をしたいとお願いをした。本当は、正式な婚約発表ができればと思ったこともあったけど、正式な婚約を公表すれば、恐らく望まない個人情報の拡散や、チェファやチェファの家族への嫌がらせが無いとも限らない。オレのいないところでそんなことになったら、逆に婚約を後悔することになるから、止めたんだ。幸いご両親共に異存は無くて、オレもチェファもホッとした。
そして、お願いついでにもう一つ、入隊までの間も、二人の都合が合う時は、チェファと一緒に過ごさせてもらえないか、と図々しいお願いもしてみた。今回のことで、まだまだオレ達の間には、一緒にいられなくても揺るがない確かな関係ができあがってはいないことを痛感したんだ。これまでほぼずっと一緒にいたオレ達が迎える11月に迫っている入隊からの約2年間。会うことはもちろん、簡単には連絡を取ることすらできなくなる。それをちゃんと乗り越えて、約束した未来を迎えたい…。そんな気持ちを改めて伝えることで、それもOKいただけて、晴れて今夜からチェファとの婚前同居が始めら れることになった。とはいえ、別に新しく部屋を借りる訳じゃなく、隣のオレの家で過ごすのだけれど。
それでも、オレにしたら、夢にまで見たチェファとの毎日な訳だから、うれしくて幸せで、そしてドキドキが止まらない。
ロスからの電話で宣言したとおり、今夜オレはチェファを自分だけのものにする。今までの幼なじみの関係を卒業して、本当の恋人同士になる。それがオレにとってどれだけ大きなことか…。
オレがチェファをはっきり女として意識したのは、チェファが中学に上がる直前だった。
それまでだって、オレにとってはかわいいチェファで、このまま大人になってチェファと結婚したいな、と漠然とは思ってたし、他の男に興味を持たれないように排除もしてた。けど、それは気持ちの部分の問題だった。
ある日、チェファが届いたばかりの中学の制服を着て、オレに見せに来てくれた。誰よりも先にオレに見てもらいたいって、うれしそうなその制服姿のチェファを見た時、オレの中にチェファに対する男としての欲求が湧き上がってきたんだ。オレとは全然違う華奢な手脚。膨らみ始めた柔らかそうな胸。透き通るような白いうなじ。触れたい。オレのものにしたい。誰にも渡したくない。そんな強い欲望に、自分がどれだけチェファを女として好きなのか自覚させられた。
あれから、もう10年以上経っているのだから、本当にここまでよく堪えてきたと思う。
いや…実は、一度だけだけど、それがあんまり辛くて、おまけに仕事もうまくいかなくて、無性にむしゃくしゃして、他の女の子としてみたことがある。でも、その一度で懲りた。だってオレは、女が抱きたい訳じゃなくて、チェファを抱きたいんだって思い知らされただけだったから。気持ちよくもなんともなかっただけじゃなく、チェファに対する罪悪感でいっぱいになった。
それが、今夜やっと願いが叶う。
オレの家に連れて来て、両親にも一緒に過ごすことを伝えると、母親なんか大喜びしちゃって。この調子だとひどく干渉されそうだったから、できるだけ2人にしてくれるように釘を刺した。「あんた、ホントにチェファちゃんに対しては独占欲の塊だわね。あんまり度を越すと、チェファちゃんに嫌われるわよ。」なんて言い返されたけど、そんなの気にしない。チェファだって、そんなオレをわかってるから。
チェファはチェファなりにだんだん大人になって、オレは男で、自分は女なんだってことを、いつの間にか感じてたんだな、って気づいたのは、いつだったかな。チェファが高校2年の時だっただろうか。
まだ、事務所の研究生だったオレが久々家に帰ったその日。いつものように、ふざけたフリでチェファを後ろから抱きしめようとした。なのに、なんかのはずみでうまく抱き止められなくて、思いっきり胸に触れてしまったんだ。その時、チェファからむちゃくちゃ甘い声が漏れた。オレは一気に体が熱くなっておかしくなりそうだったけど、チェファ自身は、そんな自分の反応にビックリして、真っ赤になり、両手で顔を覆って、「ヤダ!恥ずかしい。」ってぺたんと座り込んでしまった。その時のチェファの心境は、どうもオレが意識して触れたわけでもないのに、自分の体が過剰に反応したみたいに思って恥ずかしかったんだとわかった。その時、子供っぽく思えてたチェファの気持ちも体も少しずつ大人になって、オレに追いついてくれているようでうれしかったのを覚えてる。
母親のからかいを無視して、オレの部屋にチェファを連れてきた。
先ずは言葉より何より、ずっと会いたくてたまらなかったチェファをぎゅっと抱きしめた。チェファもオレを抱きしめてくれる。やっぱりオレ達は同じなんだな、と思った。大袈裟じゃなく、いつでもお互いを必要としていて、1人ではきっと生きていけない。
離れている間に足りなかったチェファのぬくもりで体を十分満たしてから、そっと体を離し、かわいいチェファの唇に触れるだけのキスをする。この間のひどいキスを忘れてもらえるように、何度も何度も繰り返し、その甘さだけが伝わるように。飽きるぐらい繰り返した後、恐る恐るチェファの顔を見ると、ふんわり頬を染めて幸せそうにかわいい笑顔を浮かべてくれていた。あのキスがトラウマになっていないか心配してたけど、そうはならなかったようで本当によかった。
「おに…チャンス、大好き。」
ニッコリ笑ってそう言ってくれたから、オレも心込めてチェファに伝えたんだ。
「チェファ、愛してるよ。ずっと一緒にいような。」
「うん。」
心がお互いでいっぱいに満たされて、幸せで、自然と笑顔になる。それから2人ベッドに並んで腰掛けて、これまでの思い出の出来事を語り合ったり、ため込んできたいろんな想いを打ち明け合ったりした。これから先ずっと2人で進んでいくために、お互いを今以上にわかりあえるように。
そんな中で、自然にチェファが漏らした一言にオレは心が震えたんだ。
「やっとチャンスの想いに応えられるんだよね。あんな想い、もう絶対したくないから、ホントにうれしい…。」
言われなくても、それが何を指しているのかすぐわかった。チェファはオレが一度だけ他の女を抱いたことに気づいていたんだ。
「チェファ…。」
「大丈夫、もう今は気にしてない。あの時の私はまだ子供で、お兄ちゃんの想いに応えられなかったの、自分でもわかってるから。でもね、その時はやっぱり泣きたいくらいショックだった。ううん、家に帰ってから泣いちゃった。仕事から帰ってきたお兄ちゃんからいつもと違う香りがして、いつもなら毒を吐きそうなところでもひたすら優しくて、そして何よりお兄ちゃん自身がすごく傷ついてて…。だから、お兄ちゃんの前では気づかないフリしたの。それじゃないとお兄ちゃんがもっと傷ついちゃうから。私だけが、本当のお兄ちゃんを守ってあげられるの、ちゃんとわかってるもん。それに、その一度だけだよね。それもちゃんとわかってる。だから、もう時効だよ。」
ふふふって笑ってくれるチェファが、本当に大人になったんだなって改めて驚いた。オレの知らないところで泣いていたチェファ。オレのために平気な顔をしてくれてたなんて…。
「チェファ、ありがとう。ホントにこれからはおまえだけを大事にするから。あんなことは二度とないから。おまえには何も隠したりできないよ。オレの全部をおまえにだけは見せられる。だから、オレの全部を受け止めて、チェファ。いい?…。」
返事の代わりに、オレにぎゅっと抱きついてくるチェファの体をそっと横たえて、オレ達は思い出の夜を2人で作った。お互いの全部を教え合って、愛し合って…。ちょっぴりの感激の涙と、抱えきれないぐらいのいっぱいの幸せに包まれた。
小さい頃指切りした2人の約束の未来を迎えるために、これからもいろんなことを2人で乗り越えて行かなくてはいけないと思う。でも、きっとオレとチェファの2人なら大丈夫。大切に守り育ててきたこの想いを永遠にするために、これからもこの手を離さずに一緒に歩いて行こう。その先にきっと、約束の未来はあるから。
-完結-
ということで、スピンオフ作品、チャンスと幼なじみ・チェファの「守りたい恋」のお話『指切りした未来』は、全3話でとりあえず完結です。できたら、また別のエピソードも書けたらいいな、と思います。
お付き合いいただきありがとうございました。
なお、他のメンバーのお話も準備中ですので、そちらでまたお付き合いいただけたらうれしいです。どうぞよろしくお願いします。