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指切りした未来  作者: オクノ フミ
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2.確かな言葉で

 当話は、本編『いつまでも君と見続ける夢』の「19.ロス・写真集撮影」とリンクしたお話となっています。よろしかったら、そちらも併せてお読みください。

 オレ達が到着した時から、ロスは真っ青な空に太陽の輝く素晴らしいお天気だった。


 そんな中、久々の写真集撮影にみんな張り切っているって言うのに、大事なチェファとのことを何とかしたくても動けない日が続いているオレは、見る人が見ればきっとその表情が冴えないことに気づいてしまうのだろう。みんなで一緒に撮る場面では、少しは気が紛れて明るいいつもの顔でいられたと思うけれど、ソロショットの撮影になるとやっぱりダメだった。自然な笑顔が作れなくて、カメラマンの要求にうまく応えられない。「体調悪いのかな?ソロショットは明日に延期しよう。」そう言ってもらって、オレはひたすら頭を下げた。モデルとしても活動しているオレにとって、メンバーの誰よりも地道に積み上げてきた、自信をもって臨める仕事のはずなのに、こんな風にうまくやれない自分が情けなくて…。ますますオレは落ち込んだ。



 「チャンス兄さん、今いい?」


 ホテルに戻るとすぐ、セナがオレの部屋を訪ねてきた。遊びの誘いならとても無理だと断ろうかと思ったけれど、何となくセナの声がそんな感じじゃないような気がして、とりあえずドアを開けた。そこに立っていたセナは、本当に心配そうな顔をオレに向けていた。


 「入ってもいい?ちょっと話があるんだ。」

 「わかった。どうぞ。」


 部屋に入った先から、いきなりセナは核心をついてきた。


 「兄さん、チェファちゃんと何かあったんでしょ?あの日、チェファちゃんとケンカして仲直りできてないってこと?」


 平静を装うこともできずムッとしたオレを見たセナは


 「あ~あ、ホントにチェファちゃんかわいそう。優しそうに見えて、ホントは意地悪で素直じゃないわがまま兄さんに心底惚れちゃって。」

 「は?」


 コイツは何を言ってるんだ?どうして、チェファがオレに惚れてるなんて話になるんだ?


 「あの日、迷子のチェファちゃんに声掛けて、僕が兄さんと同じグループの人間だってわかった時の顔、兄さんに見せてあげたかったよ。泣きそうだった顔がぱぁ~っと輝いて、「これでお兄ちゃんに会える。」ってさ。ホント恋する女の子そのもので、キラキラしてて。チェファちゃんの気持ち、すぐにわかった。それで、チェファちゃんを連れて行った時の兄さんの顔も見ものだったな。チェファちゃんの顔見て、すごくホッとして、一緒のオレを見て思いっきりムッとしてさ。なんだ、二人しっかり両想いなんだって。人目も気にならないぐらいお互いに夢中なんだって、なんか微笑ましかったよ。なのにさ、その後戻ってきた兄さん顔が真っ青だった。みんな気にしてたけど、触れられたくないことだと思うってオレが言っといたから、みんな黙ってたんだよ。今日だって、ホントにヒドイ顔してる。MaHTYの王子様・チャンスが笑顔をふりまけないなんてありえないでしょ?何とか今日中にきちんと謝って片付けて、明日はしっかりやってよね。じゃないと、僕が2代目プリンスに就任しちゃうからね。じゃ、お邪魔しました。チャンス兄さん、ファイティン!」


 最後にオレに向かってファイティングポーズを作って、セナは出て行った。



 ドアが閉まって、一人になって、オレは改めてあの日のことを思い出してみた。何をしてても、ふっと気が抜けた瞬間に思い出すチェファのあの泣き顔。あんな風に泣かせたのはオレで、本当にヒドイ男で。でも、オレには絶対チェファが必要だから。オレの全部をさらけ出せる唯一の存在。そして、どんなオレでもちゃんと受け入れてくれると確かに思える存在なんだ。そんなチェファのいない毎日なんて考えられない。けど、謝ろうにも、電話もメールもオレから直接じゃ拒否られる。一体、どうしたらいい?余裕のない頭でオレは必死に考えた。


 オレはまず自分の親に電話した。「何時だと思ってる?時差を考えろ、バカ息子!」と電話に出た父親に叱られたけど、とにかく謝って、チェファのお母さんの電話番号を教えてもらった。さすがに今度は時差を考えて、大丈夫な時間になるまで待った。



 チェファのお母さんには、予めうちの親から連絡が行っていたらしく、オレからの電話の用件は既にわかっているようだった。「チェファが枯れちゃいそうよ、チャンス君。早く何とかしてやって。」と言ってくれた。


 オレはそうさせた原因はオレにあって、それが嫉妬からだったということを正直に話した。「そんなオレでもチェファと話させてくれますか?」と聞くと、


「だって、結局そんなチャンス君でなきゃ、チェファはダメなんですもの。昔からそうだったでしょ?熱が出て苦しい時も、母親の私じゃなくてチャンス君に傍にいて欲しがって。あんまり泣くから、夜なのにムリして来てもらったこと覚えてる?結局あの時から、チェファは全然変わってないの。チャンス君がいてくれないとダメなのよ。もういつでもお嫁にもらってくれて大丈夫よ。あ、でも、年末に入隊するのよね?それから帰ってきたらよろしくね。じゃ、今チェファの部屋に行くから、このままつないでて。」


 チェファのお母さんがチェファの部屋に向う様子が電話越しに伝わってくる。緊張で手に汗が…。謝っても許してくれなかったらどうしよう。オレはこのままチェファを失うなんてできないよ。ドキドキして、ほんの2、3分がやたらと長く感じられた。少し揉めてるような話し声が遠くに聞こえて、それから、バタンとドアが閉まる音がした。密やかな息遣いが電話の向こうに聞こえる。


 「チェファ?オレ。」

 「…うん。」


 元気のない、本当に萎れたチェファの声が聞こえて、オレは胸が痛くなった。そんなチェファにオレが言わなきゃいけないことは、他のどんな言葉でもなくて…。


 「チェファ、愛してる。心から愛してる。世界中の誰よりもおまえだけを愛してるから。オレを待ってて。結婚しよう、チェファ。オレのお嫁さんになって。昔指切りした約束、オレはちゃんと守るから。ね、チェファ、結婚しよう?」

 「…お兄ちゃん。」


 グスグスと電話の向こうでチェファが泣き出した。


 「あの日のお兄ちゃんが怖くて…。いつもの優しいお兄ちゃんじゃなくて、強引で有無を言わせない怖い知らない男の人みたいで…。そんなお兄ちゃんにあんな風にキスされてショックだったの。だから、何も言えずに家に入っちゃって…。けど、少し落ち着いてから思ったの。あんな風に逃げ出しちゃって、お兄ちゃんもっと怒ってるかもしれないって。嫌われてたらどうしよう、おまえなんかもう要らないって言われるんじゃないかって思ったら、電話もメールも怖くて出られなかったの。…好きなの。お兄ちゃんが大好き。お兄ちゃんのお嫁さんになりたい。ホントにしてくれる?」


 泣きながらのチェファの告白に心からホッとして、じわじわと幸せな気持ちが湧いてくる。


 「チェファ、愛してるよ。チェファは?オレのこと愛してる?」

 「うん。私にはずっとお兄ちゃんだけ。愛してる。」

 「じゃあ、オレはもうチェファのお兄ちゃんは止める。今日からはチェファの彼氏。すぐに婚約者だ。だから、チェファ、オレのこと名前で呼んで。」

 「お兄ちゃんを、名前で?」

 「そう。名前、呼んで。」

 「…チャンス。」

 「チェファ。オレだけのかわいいチェファ。何度でも言うから。愛してる。」

 「私も愛してる。チャンス。」


 チェファからちゃんと愛の言葉が返ってきて、オレはやっといつもの調子を取り戻した。


 「よかった。チェファを失うんじゃないかって、オレ本気で悩んでたんだから。オレを悩ませた罰。帰ったらお仕置きな。」

 「え?ヤダよ。また、あんな怖いお兄ちゃん。」

 「あ、またお兄ちゃんって呼んだ。」

 「うわっ!ゴメンナサイ、おに、じゃなかった、チャンス!」

 「ホントに、早く慣れろ!それと…このロスの撮影旅行終わってそっちに帰ったら、おまえんちに行って挨拶するから。おばさんにも心配かけたみたいだし、そう伝えておけよ。」

 「うん、わかった。…ね、これ、夢じゃないよね?夢なら覚めないで欲しい…。」

 「大丈夫、夢じゃないから。あ、次に会える時までに、ちゃんと元気になってろよ?それじゃないと抱けないからな。」

 「なっ!…。」


 いきなりのことに絶句するかわいいチェファ。やっとオレ達の長い長い春に終わりを告げる時が来るんだ。実際には、11月の入隊や仕事上のいろんな契約問題もあるから、すぐに結婚って言う訳にはいかないけれど、ずっと言いたくて言えなかった言葉をはっきり口にできて、本当によかった。



 さ、ダメだった今日の分まで明日はしっかり取り返すぞ!MaHTYの王子様の座は、当分渡さないぜ、セナ!誰もが認めるプリンススマイル、しっかり見せつけてやるからな。




 無時仲直りできた二人。次話では、小さい頃の約束を果たすべく一歩前へ進みます。

 よろしかったら、またお付き合いください。

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