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指切りした未来  作者: オクノ フミ
1/3

1.小さな嫉妬

<主な登場人物>

・チャンス 〜ボーイズグループ「MaHty」所属(年長組) 歌手兼モデル

・チェファ 〜3歳年下の幼なじみ 現在家事手伝い


<本編での会話に関するお約束>

 舞台が韓国ですが、本編での記述はもちろん日本語のみです。

 ただし、設定上は現地言語の韓国語で会話しているものとお考えください。

 テオクが、彼女とのことで悩み続けているのを見守っている内に、今度はオレまで大きな悩みを抱える羽目になった。


 オレには、小学生の時から隣りに住んでる3コ下の幼なじみ・チェファって子がいる。お隣りさんで、幼なじみで、腐れ縁で、家族同様で、ってか家族にしてやろうと長年着々と画策してる子なんだ。


 小柄のメガネっ娘で、パッと見地味だけど、実はメガネは伊達で、恥ずかしがりのまあるい瞳を隠すためのカムフラージュだってことをオレは知ってる。肌が透き通るように白くて、顔なんかホントにちっちゃくて、だけど、体つきは女らしくて、ツインテールなんかしようもんなら、アニヲタの皆さん垂涎の某アニメヒロインそっくりなチェファ。そうだよ、実際はめっちゃカワイイ子なんだ。


 小学校に上がるタイミングで隣りに引っ越してきたチェファに初めて会った時から、オレはそのかわいらしさに無条件に惹かれてた。だから、自分だって子供のくせにせいぜいがんばって、小さいチェファの世話を焼いた。するとチェファも優しい隣りのお兄ちゃんが大好きになって、すぐに相思相愛。それ以来ずっとオレ達は仲のいい幼なじみを続けている。



 ホントはかわいいチェファだけど、パッと見地味なせいで今までは大して男にモテずにきた。それは、オレのたくらみもあったせいだ。


 学生時代、身近な男が何となくでもチェファに興味を示せば、ちょっとした欠点、例えば泣き虫なトコとかを、実際より何倍にも膨らませて力説し、チェファは付き合うと面倒な女であるかのように装った。オレがチェファにとって身近な存在なのはすぐにわかることなので、それが重なればその噂が勝手に一人歩きして、男連中の間ではチェファ=対象外ってことになる。まんまと排除に成功した訳だ。


 どこかでそんなヒドイ自分の噂を聞きつけて、「どうしてなの?」って泣きつくアイツに、「誰が何て言ったって気にするな。おまえの良さはオレがちゃんと知ってるから。」って優しい隣りのお兄ちゃんとして慰めてやる。すると、「うん。」って潤んだ目でオレを見上げるんだ。それが、また堪らなくかわいくて…。


 だけど、そこで甘やかさないのも大事なポイント。「おまえ、ブサイクなんだから簡単に泣くな。ブサイクがもっとひどくなるから。」って毒を吐くのがお約束。「お兄ちゃん、ヒドイ!」って、今度はプクって頬を膨らませて怒る。よっぽど機嫌の悪い時は、軽く殴ってきたりもして。そんな怒る顔もまたかわいく感じるんだから、我ながら相当だと思う。膨れたほっぺをツンってつついたり、殴りかかってくる腕をつかんで押さえ込んだり。今度は「止めてよ!」って、バタバタし出すから、それをギュッと後ろから抱きしめてしまう。すると、顔を真っ赤にして大人しくなるんだ。


 そうさ、はっきりしてる。オレがどんなチェファもかわいいと思ってしまうように、チェファもオレのことが大好きだ。どんなに悪口を言われても、何があっても、オレさえ家にいれば毎日のようにオレのトコに来て、さんざんイジられて、最後はこうやって抱きしめられて大人しくなる。「お兄ちゃん、放してよ…。」ホントはずっとオレの腕の中にいたいから、抗う声はよく聞こえないくらい密やかで甘い声になる。「イヤだ。絶対逃がさないからな。」耳元でそう囁くオレの声も、いつもの優しいお兄ちゃんじゃない男の声だ。


 そんな風にほんのり甘い関係でいたオレ達だけど、オレが高校に入ってから、今の事務所の研究生になり合宿所に入るため家を出たことで、よりはっきりお互いのことを意識することになった。毎日一緒にいた相手が、そばにいない寂しさ。かわいいチェファのいろんな表情を思い出しては、ため息をついた。レッスンでガッツリ絞られてへとへとになって倒れ込んだベッドで、チェファの夢を見ては癒され、でも、すごく会いたくなった。ごくたまの休みに家に帰って、チェファに会えた時には、いろんな感情が湧いてきてたまらなくなった。でも、オレの活躍を期待して応援してくれるチェファのためにも、と必死でがんばった。


そして、デビューできて、合宿所を出ていいと言われた時は、また、チェファに毎日会える!とそっちの方が先にうれしかったのは、誰にもナイショだ。家に戻ったオレを迎えてくれたチェファが、途端に泣き出したのも忘れられない。


 オレとチェファにとって、こんな日々がずっと続いて、そして、いつか…。そう、思っていたのは、実は、オレだけだったのだろうか?



 大学を卒業する直前に体調を崩して入院してしまったせいで、卒業はできたものの決まっていた企業OLの就職がダメになったチェファ。友達がみんな新社会人として輝いているのを、病院のベッドの上で沈んで見ていた。3か月入院してやっと普通の生活ができるようになったが、仕事に就くにはまだ体力が心配で、チェファの両親もオレもムリして外で働く必要はないから、と改めての就職活動をさせなかった。実際チェファの家は、財閥グループ勤めの父親だけでなく、母親も本の装丁の仕事をしていて、チェファが家で家事や母親の仕事の手伝いをしてくれると助かると言う事情もあった。


 この日、オレはなかなか現れないチェファをイライラしながら待っていた。ちょうどうちの事務所で、急な事務員の欠員ができて、とりあえずバイトを入れて凌ぐことなった、という話を聞きつけたオレが、スタッフに頼んでみたら、チェファの採用を検討してくれることになったんだ。1度も外で働いたことのないチェファに、短期間でもその機会を与えてやりたかったし、オレの身近な目の届くところならば、少しは安心できるから。そのための面接の時間が迫っている。来る約束の時間をもう15分も過ぎているし、その上何の連絡も入れてこないから、まさか途中で何かあったんじゃないか、とイヤな予感がよぎって…。


 「チャンス兄さん、いる~?」


 そんなオレの心境も知らず、能天気な声で入って来たセナ。


 「こっちにいるよ。何か用?」

 「あ、やっぱりここにいた。ほら、早く入りなよ。」


 そのセナの声に、おずおずと部屋の中に入ってきたのは…。


 「お兄ちゃん、ゴメンナサイ。ビルの中で言われたのと違うエレベーターに乗っちゃって…。グルグル迷っちゃって遅くなったの。本当にゴメンナサイ。」


 見るからにシュンとしてうなだれるチェファ。オレはいつものようにそんなチェファに追い打ちをかける。


 「おまえ、人にどれだけ迷惑かけたら気が済む?わざわざおまえのために事務所のスタッフに時間作ってもらったんだぞ?それを何の連絡もなしに約束の時間に15分以上遅れて来て。ギリギリ間に合ったからよかったようなものの、こんなんじゃ仕事なんかさせられないだろ?」

 「ゴメンナサイ。ゴメンナサイ、お兄ちゃん。」

 「何でも謝って済むと思うな。ホントにおまえときたら…」


 オレがついてなきゃ何にもできないんだから、とまたオレの存在を強く意識させようとしたのに。


 「まあまあ、チャンス兄さんそんなに怒るな、って。かわいそうじゃない。このビルのエレベーターがややこしいの分かってるんだからさ。最初からエントランスまで迎えに行ってやればよかったでしょ?たまたまオレが通りがかって声掛けたからよかったけどさ。チャンス兄さんも悪いよ。」


 ったく、セナのヤツめ。余計な助け舟出しちゃって。ほら、おまえの言葉でチェファがちょっとホッとしちゃったじゃないか。オレはあからさまに機嫌が悪くなった。


 「フン。行くぞ、チェファ。もうスタッフとの約束の時間だ。最初から時間を守れないようじゃ、採用なんかされないぞ。」

 「はい、お兄ちゃん。」

 「じゃ、チェファちゃんがんばってね、応援してるから!」

 「セナさん、ありがとうございます。」


 何が、「セナさん、ありがとうございます。」だ。まったく面白くない。いつになくプリプリしているオレを、セナがおかしそうに見ていることにも気づかないぐらい、その時のオレは、オレ以外の人間をちょっとでも頼ったチェファが許せなかった。たとえ、それが家族同然のメンバーでもだ。



 別の階にある事務部門へ向うため、専用のエレベーターに乗った。その瞬間、オレはチェファをエレベーターの壁に追い詰め、思いっきり深いキスをしていた。


 これまで、ふざけたフリで抱きしめることは日常でも、それ以上のことをしたことはなかった。いろんな状況を考えると、まだオレとチェファは、男と女の関係になっちゃいけないとわかっていたから。気持ちをオブラートにくるんで、世間に都合のいい幼なじみでいる方が、いろんな障害からチェファを守ることになると、知っていたのに。時間に遅れた怒りと連絡が無いことへの心配と、そして何よりセナへの嫉妬の気持ちが、オレから理性を奪ってしまったんだ。こんな罰するようなキスをして…。後になって、オレはこのキスを本当に後悔した。チェファとオレとのファーストキスだったのに、チェファにとってはイヤな記憶しか残らないこんなキス。それでも夢にまで見たチェファの柔らかく甘い唇にオレは手加減なんかできなかった。息の続く限り貪り尽くして、やっと唇を離した時には、チェファの頬には大粒の涙が流れていたんだ。


 その哀しい涙に、ようやくオレは我に帰り、そして大事なチェファをオレ自身がどれだけ傷つけたかを知った。


 とてもそんな状態でスタッフに会わせる訳にはいかなかったから、事務所の階には寄らず、そのままビルの玄関に向い、タクシーを拾って、チェファを家まで送った。その間中、チェファは無言で俯いたまま、オレの方を向こうともしなかった。


 チェファの家の前に着いた。オレが先に降りてチェファを降ろし、改めてタクシーの清算をしようとしている間に、チェファは何も言わず家に駈けこんでしまった。


 そこで、オレも降りて、チェファにちゃんと謝って許してもらうべきだったのに、オレはここでも失敗したんだ。きっと今の傷ついたチェファには、オレの言葉がいつものようには響かないだろうと思った。約束を放って来たスタッフにも謝らなくてはならないし、オレ達の仕事の打ち合わせの時間も迫っていたから、オレは降りずにそのまま事務所に戻ってしまった。


 そして、その日以来、チェファがウチに来ることは無くなり、それどころか、メールもLINEもカカオトークも無視された。当然電話も着信拒否だ。オレは自分の小さな嫉妬が、こんな事態を招いたことに愕然とした。悔やんでも時間は戻ってくれない。


 チェファを失いそうな不安とどうしたらいいのかわからない苦悩を抱えたまま、その3日後、オレは写真集の撮影でこうして10日間のロス滞在になってしまったんだ。




 当話は都合3話の予定です。

 次話は、二人の仲直りの展開となります。

 よろしかったら、またお付き合い下さい。

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