新しい朝が来やがった。
ペットボトルのお茶とかを光にかざしてユラユラさせて、ぽや〜っと眺めると簡易アクアリウムみたいで和みます。
ふぁあ〜。寝過ぎたかな。あんな風にスイッチ切れたみたいに眠ったのって、小さい頃以来だな。
…しかしまあ、よくこれだけ呑んだな。日本酒に焼酎にビール、ワイン。げっ。隠しておいた、ばあちゃんの特製梅酒まで呑まれた!最低だ…
PWの水槽の前にも、空き缶のタワーが出来上がっていた。ゴミを散らかした張本人達は、姿が見えない。その辺に埋まってんのか?
「あ〜もう、ひどいなー。」
ブツブツ言いながら、俺は自分の部屋の現状回復作業を始めた。
ガシャッガシャンッ。カラン。チャプッ。
「うわっ中途半端に残ってる!!最悪だっ。」
眉間に皺を寄せながらも、だいぶ床が見えてくると多少気分が楽になってきた。とはいえ、胸糞悪いのは相変わらずだが…
水槽もやっと全部見えた。縁にスルメの足が引っ掛かってる。
「はぁ〜。お前も大変だったな。災難もいいとこだ。」
これって昔テレビで見た、家族に相手にされず飼い犬に話し掛けるお父さんみたいだな。返事が返ってこないぶん、虚しさはかなり上回ってるけど。 ハハ…
「プクンッ」
…?何か音がしたような。気化したアルコールにでもやられたか?
「コプコプンッ」
!!??
空耳でも幻聴でもない。泡プクプク出しながら…PW…あれ?
「これで違ったら馬鹿みたいだけど…おーい、おはよう。」
「コポコポコポコポッ!」
え。えー…えっ、えええ!!!進化!?か、化学反応!!?今までこんな事無かったよなあ?反応っつっても、ユラユラ光るのと腹減ったら噴き出すくらいで…
でも、今のは明らかに反応というよりは
「返事」だった。返事、返事。ええー…??
一人、PWとジッと向き合う。思わず正座して、睨むように観察してみる。腹は…減っていないようだ。いくら考えても答が出て来るもんでは無いけど、思考をストップすると頭から煙が出そうだった。その時、部屋の片隅で布の塊のような物がゴソッと起き上がった。
「おはよ〜。怪我の具合はどう?お、ミーちゃんご機嫌だね♪」
爽やかな声。無防備なまでに屈託の無い笑顔。胸元まである髪は、窓から差し込む光でキラキラした輪郭を作っている。
そして、彼女の肩幅には全然合わない俺のTシャツは、ミニのワンピースみたいになっている。
俺の…いつの間に…
…!!
「ちょっと、何て格好してるんですか!?何勝手に着てるんですか!!」
「あー、ゆうべお酒こぼしちゃってさ。いくら呼んでも起きないから、無断で拝借しちゃった。大事な服だった?ごめんね。」
「いや、あの、そうじゃなくて。そんな誰かに見られたら9割方誤解されそうな格好…特に、あの馬鹿に見つかったら何て言われるか」
「スエキチっ!お前…お前何て汚らわしいっっっ!!イヤッ、来ないでぇ!!」
己の回りにある物を利用し、武器とする。気の抜け切ったビールで、敵の味覚及び精神を軽く破壊する。鎮圧成功。
「何だ〜。スエキチ君、結構動き俊敏じゃない。あの時は、油断してたか手を抜いてたんでしょ。」
「いや、これは日々の積み重ねというか、反射的な動きというか。まあそれはさておき、ミーちゃんって何です?」
「このPWの名前わかんなかったから、とりあえず水のミーちゃん。へへ。」
「へへって…(可愛く言っても、センスはチューキチ並だな…)あの、ご機嫌って言ってたのはどういう意味です?これ、どうも昨日までと様子が全然違うんですけど…」
「ん?ああ、それはこのオヤツの効果だよ。多分ね。」
彼女はあっさりサッパリそう言い、小さなケースに入ったパールによく似た物を取り出して見せた。