漂う
溶けかけてシャバシャバになったかき氷を、どのタイミングで飲み干すか迷います。
………?薄暗くてフワフワする。嗚呼、俺は夜の海を彷徨うクラゲに生まれ変わったのか。もうちょいかっこいいのが良かったな。
ま、このままでも悪くはないか。気の向くままに旅してさ。
それにしても、何か酒臭い海だな。海の神様達が、酒盛りでもしてるのかも。あ、楽しそうな声もする。いいなー。
あっちがぼんやり明るい…あそこで神様の宴かな。どんなもんか、ちょいと覗いてみたいな。
「ヒャハハハハハ」「もっと呑むぞー!!ふはははは!!!」
…邪神……?
あー…天の神様、やっぱり別のに生まれ変わるの駄目ですか?シャコ貝あたりになって、静かで穏やかな生活を送りたいんですが。癒したっぷりのオーシャンライフ。
見つかりたくないです。巻き込まれたくないで…す…
「お!スエキチ、やっと目が覚めたか?」
うぅわ。神も仏も見捨てたっ。って、あれ?部屋?
「は?何言ってんだ。まだ夢見てんのか?また水かぶるか?」
水。
そうだ。あの時、変なジェットシャワーみたいなのにやられて…何か頭にものすごい衝撃が…
頭を触ると、処置したらしいテープの感触と共に、鈍い痛みが走った。
「あ〜、起きた?ごめんねー。痛かったでしょ?一応、細胞再生促進パット当ててるから、傷はすぐに良くなると思うよ。」
ハイ?あー、え〜と、此処は野郎ばっかの寮のはず。何で女性の声?しかも、管理人のおばちゃんとは全然違う若い女の子の声…っって、エエエエエ!?誰!!?
「あの〜、すみませんがどちら様でしょうか???」俺は、恐る恐る声の主の、えらく可愛らしい小柄な女性に尋ねた。
「ああ、スエキチ、こちらが俺達が探してた[アクア]ことヒロミさんだ。客人に失礼の無いようにな。」
「改めて、初めまして。ヒロミです。本当にごめんなさいねー、話は全部マウス…チューキチ君から聞いた。わざわざ心配してくれてたのに、そうとは知らず撃退しちゃって。」
「あ、いえ、こちらこそ。俺が勝手に入ったんだし…」
「しかし、あんなに簡単にのびちゃうとは思わなくって。軽〜くみねうちにしただけだったんだけど。」
嘘だっ!!思いっきり始末するつもりだった!!!絶対免許皆伝だ!!
「いや〜ハハハ、すみません。あんまり武道とかスポーツとは縁が無くって。」
「ふ〜ん。あー、ところでさぁ?」
「何ですか?」
「…その格好、そろそろ何とかならないかな?」
「へ?」
言われて己の姿を振り返る。装備品:パンツ一枚。
イヤァアアアアー!!!何だこれ!?俺、そんな趣味は無い…はずですぅ!!
「お前をここまで運びはしたが、さすがに着替えまではさせてやれなくてなー。濡れた服脱がすのも一苦労だったんだぞ。後は、自力で何とかしろ。」
「あーハイハイ…そりゃどうも。」
もう、あれこれ言い返す気力も無かった。
「何か、ちょっと寒気もするんで風呂行ってきます。」
掛け布団にくるまりながら、モソモソ移動する。もう格好悪いのもどうでも良くなった。とにかく、一人になって落ち着きたかった。
「さっさと行ってこい〜。こっちは、歓迎会続けてるからな♪早くしないと酒もつまみも無くなるぞ〜」
「いや、傷に響くから…酒いらねぇ…」
「ねえ、このPW可愛いねー。オヤツあげてもいいー?」
「(可愛い…?)ああ、はい。どうぞ。」
生返事を繰り返しながら、俺は風呂場へと逃げた。
何なんだよ…ふぅ。さっさと休もう。疲れとショックで頭が回らない。
結局、風呂から上がると宴会そっちのけで爆睡していた。邪神達?は、タフに呑み続けていたようだ。
コポコポ…プクン。コポコポコポ………