主人公が邪魔者になる、「囚われのヒロイン」という超補正シチュ
十月二十日 十九時十三分 古見掛市役所 安全センター 即応対策室
古見掛市の安全維持の為の組織は、単なる一ピラミッド状の造りにはなってはいない。
複数系統の組織がそれぞれに異常に備え、日夜活動している。当然、別系統組織との連携はしっかりと取られており、何か事があれば即時に統括部である市役所に報告が入るのだが。
「士長、気象課から連絡です。市の外れ近くにおいて、短時間ですが空間境面の破損が観測されたとのことです。たった今、城南大学研究室からも同様の通報が入りました」
若いオペレーターから報告を受けたアーサー・ホイットモア情報士長は、パンチの利いた髪を掻き、フンと鼻を鳴らした。
「またか……詳細なデータを回せ。周辺の防犯カメラと衛星からの映像記録を確認しろ。わざわざ異界の扉が開いたんだ。恐らくは招かれざる客が来たに違いない。クソッ、今日何度目だと思っているんだ」
いささかうんざりした様子のホイットモアは、それでも自身の端末に送られてきた情報を即座に睨み付ける。
ホイットモアがこの仕事に着いて既に五年。三十後半という若さながら、ホイットモアが担っている責任は大きい。
この即応対策室は、要するに警察の指令センターの様な役割を担っている。即ち市内の異常を察知し、必要であれば即座に実働要員を向かわせて事態を収拾する事だ。
警察と違うのは、目に見えた事件や事故ではなく、その兆候や痕跡から事の次第を探り当てる必要があるという事だ。見落としが出やすいが、それが大きな事件に繋がりやすいのが古見掛だ。一度異常があればかなり詳しく精査しなくてはならない。
「士長、警察の方から問い合わせが入ってるんですが」
「別件ならおまえが処理しておけ。今忙しいのは分かっているだろう」
若い情報士には目もくれず、ホイットモアは気象課のデータと当該地域の記録を照合していく。
空間境面の破損は、次元に多少なりとも振動を発生させる。その範囲や波形を観測すれば、おのずと震源地も特定できるのだが、今回は規模も小さく、破損時間も短かったため、空間の裂け目が現れた詳細な場所は分からない。おおよその予想範囲内で異常を探していくより他に手が無いのだ。
大量の情報を高速で処理する頭脳労働に、ホイットモアは神経をすり減らした。
「生憎と同じ件みたいです。当該地域で男女二名が異次元空間に拉致されたとの通報が入ったそうで、調査を依頼したいと」
「そういうことは先に言え! 現場の位置情報と次元振動範囲を照合、もし合致しなかったら別件として保安部に引き継ぎ、いいな」
「あ、照合は済んでます。ばっちり、次元振動の範囲内ですね。まだ震源地は特定できていませんが、まあ十中八九震源地が現場ですね」
「だったらそう言え。保安部と技術部を向かわせろ。俺はこのまま詳細の分析に入る」
防犯カメラ、衛星の情報に加え、付近の電波状況や空間境面の情報を片っ端からかき集めて、これから救援に向かう実働部隊に連絡しなくてはならない。
また忙しくなるな、とこぼしながら、ホイットモアは現場周辺の情報収集機器にアクセスを始めた。
「ごめんよ、ラヴィニア……今はそれで我慢して欲しい。あと、古見掛に帰ったらぶん殴ってくれて構わない。本当に、ごめん……」
「……別に、おまえが謝る事ではないだろう。一切の非はあいつにあるんだ。この状況を勝ち取ってくれただけ、むしろ感謝している」
「散々駄々を捏ねた挙句に二人の世界か。いい気なものだな」
沈みきった表情で詫びる正也に、ラヴィニアはそっけなくも気遣う。そんな二人のやり取りを少年は退屈そうに眺めている。
状況は先程と大きく変わってはいない。〈コンキスタ=ナントカ〉は相変わらず不気味に蔓を蠢かせているし、白装束は相変わらず大人数で少年の背後に控えている。
ラヴィニアは相変わらず十字架に捕らえられていたし、正也の身体からダメージは抜けきっていない。しかし、正也とラヴィニアの精神状態は大きく改善している。少なくともある程度以上まともに会話するだけの余裕はある。
その理由が、ラヴィニアの纏っているキトン(ギリシャ神話の女神が着ているアレ)だ。
ラヴィニアはほんの少し前、正也が地面に額を擦り付けていた様子を思い出す。
「うわあああああっ! ごめんなさいいっ!」
無配慮な一言でラヴィニアの心の、その最終防衛線をぶち破ってしまった正也は、固い岩盤の地面に思い切り額を叩きつけた。土下座だ。
(ああっ、僕は救い様のない大馬鹿だ! 最低のゴミクズだ! 必死に辱めに耐えている乙女に、止めを刺す阿呆がどこにいる! 僕はひどい奴だ、ろくでなしだ!)
強烈な自己嫌悪と罪悪感に精神をズタズタにされ、とても顔を上げられる状態ではない。
もっとも、顔を上げるとラヴィニアが視界のど真ん中に入ってしまうので、そもそも上げられはしないのだが。
ラヴィニアはラヴィニアでその精神状態は最悪だった。
これが正也に非があってのことなら、怒りが他の感情を塗りつぶしてくれたろうし、感情に任せて罵倒するなりすれば多少は気も晴れただろう。しかし実際は彼に一切過失はない。余計な呟きをしたのは事実だが、それだけだ。そしてそれだけで土下座をしてくる誠意が余計に痛い。
「まったく、つまらないことで何を泣き叫んでいるのか、騒々しいうえに見苦しいぞ」
呆れてものも言えない、といった様子の少年に、二人は殺意さえ籠った視線を向けた。
「誰のせいだ、誰の! 一から十まで全部おまえのせいじゃないか!」
「おまえにだけは何も言われたくないぞ! 必然性もなく服だけ溶かす変態め!」
立ち上がった正也はずんずんと地面を踏み鳴らし、少年に向けて歩いていく。
当然、と言っていいのか、白装束の雑兵たちが間に割って入り壁を作る。しかし。
「これはラヴィニアの尊厳、そしておまえたちの指揮官の性癖に関する重大な問題提起と抗議活動だ! おまえたちに足止めされる謂れはない! 自分が変態の手下と思う者以外はどけぇっ!」
脳が沸点に達した正也は、地面に擦り過ぎた額から流した血で顔を真っ赤に染め、雑兵たちを怒鳴りつける。
その剣幕に押されたのか、あるいは言い分に納得する部分があったのか、雑兵たちはあっさりと左右に分かれ、少年へと続く道を開いた。
「貴様らあとで廃棄処分だ」
忌々しげに呟く少年に向け、正也は雑兵たちの間をモーゼの様に進む。
「なんだ、随分と偉そうな態度……おおっ!?」
「態度云々をおまえに言われると必要以上に腹が立つ!」
少年の法衣の襟首を掴み、激情に任せて締め上げる。そのまま絞め殺さんばかりの勢いで振り回して怒鳴りつける。
「着替えだっ、着替えを用意しろ! 布製の服ぐらいあるだろうっ!? 出せっ! つべこべ言わずに服を出せ! 乙女の柔肌を何だと思ってるんだ! おまえの気まぐれで外気に曝していいものじゃないんだぞお!?」
「き、貴様……誰に向かって……」
「おまえが誰かなんぞ知る必要はない! でもそう言えば自己紹介がまだだったね! 僕は本条正也! この名乗りを冥土の土産にされたくなければ服を出せ!」
「な、何が悲しくて奴隷に施しなど……!」
「おまえのセンスは認めよう! 囚われのヒロインとくれば磔、そこが分かっている点は評価してやる! 変な形じゃなくてちゃんとした十字架だし、手足が無意味にへにゃってないし、お約束の美をわかっていることは褒めてやる! だがそれだけだ! 合意も無しに女の子脱がしてへらへらしてる時点で、やってることはその辺のチンピラ性犯罪者と同じだ! 施しじゃなくて責任を取らせてやると言っているんだ、感謝しろ!」
悪事を叱責しているのか、こだわりを語っているのか恐らく本人も分かっていないが、とにかく正也は怒鳴り散らした。怒りでタガが外れているのか、一切相手に口答えさせずに叫び、吠え、要求とも説教ともつかないクレームを撒き散らす。
「だいたい、おまえが妙な真似をしなければ僕もアホなこと言う事はなかったんだ! おまえのせいで僕もラヴィニアも余計に傷ついたんだよ、どうしてくれる!」
「完全に貴様の失言だろうが! 人に濡れ衣がどうのこうとの言っておいて貴様はあ!?」
「今、僕はおまえにラヴィニアの着替えを要求しているんだ! 言い逃れする暇があるならさっさと用意しろ!」
「ぐぐぐ、貴様がさっきから話をあっちへこっちへ脱線させているのだろうが!」
「言い訳をするなあ!」
結局、正也は力ずくで自分の要求を押し通したのだった。
すなわち、ラヴィニアに服を着せた上で流れを仕切り直すことを了承させたのだ。正也が読んだ通りに少年が所有していたキトンを着せるため、ラヴィニアを一度地上に下ろし、雑兵の手で着付けた上で再度磔にするという、極めて七面倒な手順を経て、二人はようやく小さな安寧を手に入れたのだ。
「その、なんだ。すまないな、気を遣わせて」
「いや、こっちこそ……」
言いながら、正也はどこか気まずげに視線を逸らす。
「ど、どうした? 別にもうこっちを見ても……」
「え、ああ……何と言えばいいのかな」
困った様子できょろきょろとしていた正也は、遠慮がちにラヴィニアに視線を向けて、ぼそりと呟く。
「その、あんまり綺麗で似合ってるものだから、なんかドギマギしちゃってね……」
人差し指で頬を掻きながら、正也は照れくさそうに言った。
「な……」
ラヴィニアの頬に朱が差し込む。
「何と痛々しい……」
少年の顔から血の気が引く。
「は、ははははっ! ごめんごめん、忘れてくれると嬉しいな」
気恥ずかしい上に場違いな発言を自覚し、正也は明後日の方を向いて裏返った声で笑う。
(けど本当に、似合うというか映えるというか。恐ろしく絵になってるんだよね)
横目でラヴィニアの姿をしげしげと眺めながら、正也は感慨深げに何度も頷く。そんな正也の視線に気づき、ラヴィニアは所在なさげに視線をさ迷わせる。
「いい加減にしろ! 貴様らの漫才を見に来たわけではない!」
二人の様子に、少年がとうとう我慢の限界を迎えた。
よそ見をしていた正也の背中を思い切り蹴り飛ばし、ラヴィニアとの間に割って入る。結果、磔にされた囚われのヒロイン、その足元に仁王立ちする悪役という完璧な立ち位置が完成した。
「さて、何の話だったか……」
「……ラヴィニアがあの怪獣の部品とか言ってる辺りでおまえが余計なテコ入れしたんだよ」
蹴飛ばされた正也が「諸悪の根源が偉そうにするな」とばかりに視線を突き刺すが、少年は涼しい顔でそれを受け流して話を続ける。
「そう。そうだったな。単純な話だ。〈コンキスタ=クノスペ〉はその巨体に相応しい破壊力を持ってはいるが、エネルギーの生産性は低くてな。単独で行動させればすぐに活動する為のエネルギーが尽きてしまう。そこで、外付けのエネルギー生成装置を用いることにしたのだ」
「それが私だと言うのか」
頭上から掛かるラヴィニアの声に、少年は振り向きもせずに答える。
「そういうことだ。その為に私はわざわざ貴様を作り出したというのに」
「……何?」
聞き逃せない言葉に、正也は思わず問い直す。
「聞いての通りだが?」
「おまえが作ったとかなんとか、そんな寝言が聞こえた」
「聞き違いではないぞ。正しく、私はこいつの創造主だ」
正也は眉を顰める。先ほどの領地発言同様の妄言なのか、事実を話しているのか判断が付かない。
しかし、ラヴィニアが苦い顔で俯く姿を見て、正也はそれが事実なのだろうと考える。
「どういうことだ? まさかおまえが父親だとか言い出さないよね?」
「言っただろう、創造主だと。私がこの世に生成した人形、文字通りの被造物がコレだ」
視線も向けずにラヴィニアを指さし、少年は堂々と宣言する。
「そう。詳しい説明どうもありがとう」
それ以上の追及をせずに、正也は話を打ち切った。
「意外だな。しつこく聞き出そうとして来ると思ったが」
「必要があれば、本人が話してくれるでしょ。おまえの口からだと余計なバイアスが掛かってそうだ」
ラヴィニア本人の前である事ない事を喋らせることもないだろうと判断し、それ以上の話はきっぱりと拒絶する。
「ふむ、ではそろそろ雑談は切り上げだ。さっそくコイツを〈コンキスタ=クノスペ〉に組み込むとしよう」
「……しまった、そういう流れだった」
時間稼ぎの機会をふいにした事に気づき、正也は僅かに焦りを覚える。
未だに腰の端末は救難信号を発し続けているが、それが古見掛に届いているかすらわからない。仮に届いていたとして、未だに救援が来る様子はない。次元の壁を越えた事態なのだから、そう簡単に来れるわけがないのも事実だが。
(こうなったら自助努力で何とかするしかないか。最悪でも救援が来るまで持ちこたえる、ベストなら自力でここを脱出する)
決意を新たに、正也は周辺の地形、敵の配置を素早く確認する。前方二十メートル程にラヴィニア、その足元に少年、その間には雑兵のバリケードが築かれている。少し離れた地点で唸りともさえずりともつかない奇声を上げている怪獣は、逃げの一手を打つほかないだろう。
「さて、それでは始めよう。貴様も〈コンキスタ=クノスペ〉完成の瞬間に立ち会わせてやる。光栄に思うがいい」
「そうは問屋が卸すもんか。〈ナンタラ=カンタラ〉は永遠に未完の大作として、大事に保管しておいて下さい。そもそもスペイン語とドイツ語の合体なんてこの国じゃあんまり通じないよ」
言うが早いか、正也は素早く地面を蹴った。跳躍ではなく、一歩一歩地面を蹴りつけて駈け出す。
「馬鹿正直に突っ込んでくるか。ならば望み通り相手をしてやれ」
指示を受けた雑兵たちはローブの下からナイフを取り出し、正也に向けて一直線に突っ込んでくる
「馬鹿正直に突っ込んでも、おまえ達の相手は望んでないよ!」
突っ込んでくる雑兵たち、もっとも近い位置の二人に向け、正也は両腕を振り上げた。
二の腕を相手の喉元にぶち当てて打ち倒し、そのまま少年に向けて突っ走る。
「もらった! 本条パンチを受けてみろ!」
「馬鹿めが!」
正也が拳を振りかぶると同時に、その足元から蔓が飛び出す。固い岩盤をぶち抜いて、正也の足をからめ捕りにかかる。
「馬鹿はおまえだ! ちょっとばかりワンパターンに過ぎるぞ!」
しかし、正也は背中に目があるかのように蔓を躱した。やはり跳躍することはなく、走る方向を変えるだけで対処する。
「ぬっ!? 貴様!」
「この固い岩盤の中を無理矢理移動すれば、どうしたって振動が発生するからね! 攻撃の予兆は感知できる! 空中で身動きは取れないけど、普通に走ってるぶんには進路変更など容易いこと! そして僕の狙いはまず、この空間から脱出する事! ひとまずおまえに用は、ない!」
捲し立て、正也は少年を駆け抜けざまに全力で突き飛ばす。数百キロの重量も軽々と撥ね飛ばす腕力に、少年はその場から弾き飛ばされる。正也はそれに目もくれず、巨大な十字架の足元へと駆け付ける。
「あくまで本命はこっち! ラヴィニア、ちょっと揺れるけど我慢してね!」
「ゆ、揺れ? 正也、おまえは一体何を……!?」
「本条パアンチ!」
気合と共に、正也は十字架の根元を叩いた。神速の拳を打ちつけられ、石造りの十字架はあっさりとへし折れる。同時に、正也は軽く十字架を押し倒す。
「な、な、うわあああああああっ!?」
磔にされた状態で、自らが縛り付けられた十字架が倒れる。想像するだけで恐ろしい状況に陥り、ラヴィニアは思わず悲鳴を上げる。せめてもの救いは、前向き、うつ伏せになる方向に倒れていない事ぐらいか。
「はい、キャッチ」
巨大な十字架を両手で受け止め、正也は不敵に微笑む。
「では、さいなら」
「うぅわあああああああっ!?」
下手をすればトン単位の重量に達しているだろう十字架を引きずり、正也はその場を遁走した。
ラヴィニアを十字架から下ろし、本人だけ抱えて逃走すればいいのだが、それには敵が近すぎる。慎重な正也は、敵を背にしたままのんきに鎖を解きにかかるという選択肢を即座に排除した。
決してラヴィニアの磔姿を見納めにすることを惜しんだわけではない。
大荷物を抱えていながら、獣の様に突っ走る。足場の最悪な岩場でも、速度をどんどんあげて駆けてゆく。ただでさえ高所を後ろ向きに、仰向けに近い状態で引きずられている上、不自由なまま上下左右に激しく揺さぶられるラヴィニアは生きた心地がしないだろうが、この際やむを得ない。
「!? 正也!」
しかし、突然ラヴィニアが鋭い声を上げる。
「どうし……うあっ!?」
何事かと問う前に、正也は担いだ十字架にかかった強烈な制動によってつんのめる。どうにか転倒だけは防ぎ、慌てて振り返った正也は思わず目を見開いた。
「そ、そう来たか……」
ラヴィニアを十字架に括りつける鎖、その一部が有機質な蔓へと変貌し、固い岩場に根を張っている。幾本もの蔓が十字架を地面にしっかりと固定し、その移動を阻んでいた。
「ええい、もう〈奴ら〉はそれなりに引き離したし、そろそろいいだろう!」
正也は中空に縫いとめられた十字架から一度手を放し、その大荷物の上に飛び乗る。
「はい、ちょっとごめんね!」
ラヴィニアの身体に跨る形で組みつくと、鎖に素早く手を伸ばす。
「このまま引き千切って……」
「! 正也、離れろ!」
鋭い声に反応するより早く、鎖の一部が変化した蔓が正也のみぞおちを突いた。
強烈な一撃だった。正也の身体を五メートル近く撥ね飛ばし、地面に放り出す程の衝撃だ。転がった正也は、数秒間完全に身動きが取れなかった。
「っ、くあ……げぼっ、げぇ……!」
痛みと嘔吐感にのたうちながら、正也は立ち上がろうともがく。遠くでラヴィニアの声が聞こえるようにも思えるが、それが幻聴かどうかも定かではない。
「くっ……そ、やってくれちゃって……」
震える足で大地を踏みしめ、どうにかこうにか立ち上がった正也はみぞおちを押さえて毒づく。そんな正也の足に振動が伝わり始めた。
「しまった……!」
正也がラヴィニアの元へ駈け出そうとするのと同時に、地面を割って数本の蔓が飛び出す。それらはさも当然の様に十字架に絡みつき、持ち上げた。
そのまま正也達の元いた方向、大怪獣の方へと移送を始める。
「待てっ!」
力を振り絞り、正也は十字架に向けて跳躍する。しかし、ダメージを負った身体で十分な距離を跳ぶことは叶わなかった。伸ばした手だけが空を切り、正也はそのまま地に落ちる。
地面に身体を打ち付けた正也が、それでも素早く顔を上げて目にしたのは、既に十字架ごと〈コンキスタ=クノスペ〉の発光部へと磔にされたラヴィニアの姿だった。




