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ファイランド  作者: CAJ
1/4

【プロローグ】

見にくかったのでまとめただけです前にあげたものと一緒です

(2013/11/20)

◆プロローグ◆


 ―――ここはとある市内某所にある高校


 県内では有数の進学校として

それなりに知られてもいる

全国的にも知名度はそこそこ

近県からの進学者も多数迎え

通っている生徒のほとんどは

県内にある有名大学へと進学する


私立星輪高校――


 季節は秋、時刻は16時半

西の空が朱に染まり

部活動を終えた生徒たちは

方々の家路へと帰っていく


グラウンドからは

未だ練習中の部活から

勇ましい怒号にも似た声が

聞こえてくる


学校を象徴する校門には

待ち合わせでもしているのか

数人の生徒が佇まい

何やら話し込んでいる


 決して大きくはない門構え

おそらく大人20人程が

横にならべば隙間はほとんどなくなるだろう


 そんな校門の向かって左側

1人の女子生徒がいた


彼女は他の周りにいる生徒とは

少し毛色が違うようだ



見た目が特別どうこうと

言うわけではない

その行動が特殊なのだ


他の生徒達はそれぞれ

仲間同士で会話したり

ふざけあったりする輩もいる

彼女と同じように独りで

待つ者達も各々に携帯を

弄っている者もいれば

校舎側に気を向け待ち人を

気にする者もいる


 女生徒はというと――

何やら虚空を見つめ

ブツブツと呟いている

彼女の見た目は決して悪くはない

むしろ美少女と言っても

差し支えはないだろう


別に彼女のことを

皆が避けている訳ではないが

この半年で自然とこうなった




――入学式から一週間

この期間はどこの学校でも

慌ただしいものだ


新入生は新しい生活に胸踊らせ

在校生は新人歓迎(勧誘?)

に躍起となる


そんな慌ただしい空気の中

新入生の男子の間では

ある女生徒の話題で

盛り上がっていたようだ


長く艶のある黒髪は

肘の辺りまであるだろうか

その顔立ちは

幼さを幾分か残しつつも

まるで人形のように整っている

体つきは華奢で転んだら

ポッキリと折れてしまう

のではないかと思えた

その雰囲気はよく言えば荘厳

悪く言えば近づき難い

といった印象をうけた


だからどうしたとばかりに

何人かの男子が彼女にアタックをかけるも――

あえなく撃沈


やんわりとお断りされる――

キッパリと断られる――

まったく無視される――

といった返しがあれは

あるいはこんな状況には

ならなかっただろう


彼女は一言も話さなかった

話せない―――というわけでは

なさそうだか彼女と同じ

中学出身の生徒に聞いてみても

声を聞いたことがないという

やつまでいるほどだった


そんな彼女だがやはり

見た目が見た目だけに

告白じみた攻勢が

連日かけられていたようだ

ここにもそんな男子生徒が

ひとりいた



 ――朝霧 陽一

(あさぎり よういち)この学校の三年生で学園でも

一二を争うプレイボーイである

女子生徒からの人気は絶大

男子生徒からの人気は

敵も多いが味方も多い

そんな感じである

陽一は今新たなターゲットに

向け闘志を燃やしていた


 ――長谷部 麗奈

(はせべ れな)

彼女の名前はわかった、、、が

これは本人に聞いた訳ではない

彼女のクラスメイトである

彼の後輩に聞いたのだ


(まあ、名前がわかっただけよしとするか、、、)


さっそく声をかけてみる


「こんにちは」


時間はお昼休み

方々で昼食を終え雑談する生徒達

麗奈もちょうど弁当を

食べ終え片付けるところだ


コクン


小さく頷く


「突然ごめんね

 実は今度新しいクラブを

 立ち上げることにしてね

 いま興味がありそうな子に

 声かけてまわってるんだ」


とここで相手の目を見つつ


「、、、ていうのは建前で

 実は君のことに興味があって

 できればお近づきになりたい

 な、、、と思っ、、、て」


絹のように細い自慢の茶髪を

かきあげながらキザッたらしく

流し目で誘う


大概の女の子は彼のこの攻撃に

なんらかのリアクションを示す

彼の経験上――

いきなりOKな子はそう多くない

大抵は無視されるか

あるいは拒否される

それが彼の手口だ


最悪から始まる出会い〜

そこから仲のいい友達へ〜

そして恋人へのプロセス


それが彼の美学とも言える

万人には理解しがたいが

これが彼のやりかたであり

長年、多くの女性と

よろしくやってきた方法だった


、、、が

麗奈は全く動かなかった


肯定、、、はないにしても

無視するわけでも

拒否するでもなく

ただじっと彼の方を見ていた


――――長い沈黙


いつの間にか事態を見守っている

他の生徒までも静まり返っていた

「えーっと、、、」

さすがに無表情で長時間

見つめられるというのは

想定外だったようで陽一も

困っているようだ


「彼女、困ってるみたいですよ

 朝霧センパイ?」


唐突に後ろから声をかけられて

おもわずビクッとする


「なんだ、わた、、、

 根岸くんか」


二人は知り合いであるが

学校ではお互い不干渉の

立場をとることにしていた


理由はいくつかあるのだが

そのまえにこの少年の

紹介をしよう


 ――根岸 亘

(ねぎし わたる)

今年入学してきた新入生で

やや白に近い茶髪の少年

背格好は陽一とほぼ同じで

顔もどことなく似ている

ただし目付きが悪く

視力が低いためかその印象は

不良そのものである

陽一とは中学以来の知り合いで

いわば友人である


 まあ、そんなことを知らない

周りの生徒たちから見れば

『学校一の不貞の先輩が

不良っぽい新入生に絡まれてる』

そう見えたのかもしれない

誰か先生呼んでこい!!


なんて声まで聞こえてくる


――不干渉の訳

ひとつはコレだ

亘はその風貌から要らぬ誤解を

招くことが多々ある

同じく陽一も要らぬ厄介事を

常に抱えている

(こちらは自業自得だが)


お互いがお互いの厄介事に

なるべく巻き込まないように

学校では不干渉の立場でいよう

いつからかそんな流れになった

ただし、誤解のないように

言っておくと

二人は非常に仲が良い


今の状況もお互いに

『まずい、やっちまった』

と思っている


麗奈のほうを見ると

未だ相変わらずの無表情で

こちらを見ている


(ここは一旦退散しよう)


陽一は麗奈のほうを見ると

得意の笑顔をむけ

「今日はちょっと都合が

 悪くなっちゃった

 日を改めてまた来るよ」

そう言って教室を去っていった



「悪かったな

 余計なことしちゃったか?」

陽一が出ていったのを確認すると


亘は麗奈に話しかけた


麗奈はフルフルフルと

首を振りジッと亘を見ていた


――真顔で相手を観察する

無意識で行われるこの行為が

麗奈の心象を下げる要因に

なっている


普段ならそら気にすることでも

ないのだろうが、、、

彼女の場合

主に人に話しかけられた時に

それが起こる

人並み外れた美貌も相まって

話しかけづらい

⇒話しかけても無反応

と人を寄せ付けないという結果に

繋がっている


――入学から半年以上経過し

彼女の噂も大分広まってしまった

もともと無口なことも災いして

友達らしい友達は出来なかった


まあ、それを彼女が気にしている

かといえば"ノー"である




さて、話がそれてしまったが

季節は秋、場所は校門前

そんな性格の麗奈が

誰を待っているというのだろうか


麗奈には尊敬する人が3人いる

父親と母親そして姉のように

慕っている先輩である

いま待っているのは彼女だが

――どうやら待ち人が来たようだ


「おまたせ、麗奈」

明るい声と共に彼女は現れた


――織部 操

(おりべ みさお)

星輪高校三年生

そして同校空手道部部長

やや癖のあるセミロングの髪に

切れ長の目が特徴である

性格は明るく温厚

面倒見も良いため男女共に

人気がある


二人が知り合ったのは半年前

麗奈にしつこく付きまとっていた

ある男子生徒を操が懲らしめた

のがきっかけである


大概の男は例の対応をすれば

意気消沈するか

怖じ気づくものだが

陽一だけはしつこかった


日頃から口説いてくる行為を

いい加減煩わしく思っていた頃

見事彼を撃退してくれたのが操だ


操が二言三言言い含めると

あれほどしつこかった口説きは

嘘のようになくなった

その時の光景が麗奈にとっては

とても衝撃的だったのだろう

それ以来すっかり麗奈は

操に懐いてしまった陽一の魔の手から助けて以降

麗奈は操に追従するように

なってしまった


―――実のところ

操と陽一は知り合いである

それも家が近所で小さい頃から

一緒に育ってきた仲

いわゆる幼なじみである


今日は初めて麗奈を家に招いた

操はあまり乗り気ではなかったが

前々から一度来てみたいという

麗奈たっての願いだった


操の家は空手の道場をやっている

道場主である父はごく普通の

サラリーマンであるが

毎週土曜日曜だけ道場に顔を出す

空手の腕っぷしだけなら操の方が

上だろうが、

指導者としてはおそらく

足元にも及ばないだろう


普段、道場の経営は師範代である

上木さんという人がやっている

彼は操の母親の兄

つまり伯父にあたる


小さい頃から面倒を見てもらって

いるため操もよくなついている


今日も道場からは練習生たちの

威勢のいい声が響いている

操が道場に入ると何人かが

手を止めこちらに挨拶してきた

それらに丁寧に返事をしながら

操は道場を抜けた先の自宅へと

麗奈を導いた


「まあ汚いとこだけどあがって」

お茶でいいかしら?

などと考えながら麗奈を居間へと

案内する


麗奈はいつも通り一言も喋らず

ここまで操についてきた

ただ、やはり目立つ容姿のためか

道場を抜けるときにも何処からか

嘆息とも感嘆ともつかないような

動揺の声が聞こえた


麗奈はどちらかというと目立つ

が、本人はそれを望んでいない

少なくとも操はそう考えている

陽一に付きまとわれているのを

助けようとしたのも何となく

嫌がっているような雰囲気を

感じたからだ


実際、麗奈は助かったと思ったし

操も間違った判断ではなかったと

考えているのだが―――


それでも今の関係は想定外だった


いまや麗奈は操にべったりだ

極端な話、家にいる時以外は

ほとんど後ろについてきている

もはやストーカーと変わらない


はじめの頃こそ――

妹ができたような気がして

操も放っておいたのだが

最近は周りの声もあり

そうもいかなくなってきた

今日はその事について

話し合おうと思い連れてきたのだ

「麗奈――」


「はぃ、なんですか?せんぱぃ」


麗奈の声は鈴の音のようにか細い


とても清んだきれいな声なのだが

音量がちいさい

しかも語尾になるほど

徐々に小さくなっていく


普段は無口で無表情なうえに

声もちいさいのだ


コミュニケーション能力に

欠けていると云わざるを得ない

当然の事だが友達がいない


「あなた、友達って作ってる?」


一瞬動きを止め

そのままこちらを見据えたまま


「必要ですか?」


質問を質問で返された


まあ、予想通りだったので

そのまま続ける


「私がいる間はいいけど

私が卒業したあとはどうするの」



―――――沈黙



「どうしましょぅ…」

考えてなかったらしい

まあ、これも予想通りだったので

わざとらしくフーッと一呼吸おき

麗奈の目を見て言った


「麗奈は少し他人に対して

依存って言うのかしら?

どこか他人任せなところが

あるのよね」


この半年間ほとんど毎日のように

麗奈と行動を共にしてきたので

操には彼女の性格がある程度は

把握することができた


一見、麗奈は無愛想キャラなので

なんでも自分でやってしまいそう

に見えることもあるが

実際は一人っ子なうえに

彼女の両親は彼女にとても甘い


一度、彼女の家に行ったとき

あまりのお姫様扱いに思わず

唖然としてしまったくらいだ


いや、下手をするとあれは

赤ちゃん扱いかも知れない


そんな感じなので

麗奈は自立心が希薄だ

かといって何にも出来ないか

と言えばそうでもなく

才色兼備を地でいくタイプだから

たちが悪いとも言えよう


何でも一人で出来るのに

自分からは一切動かない

それが操から見た麗奈の印象だ


「どぅしましょぅ」


確認するようにポツリっと呟いた


操は麗奈に向かってニッと笑うと

大丈夫っとポンッと肩を叩いた


「ちょっと心当たりがあるんだ」


そう言って操は道場へと向かった






「おまたせ」


しばらくして戻った操の傍らには

見覚えのある男がいた


その顔を見て麗奈の顔が少しだけ

ひきつったのを操だけが気づいた


「よう、麗奈ちゃんじゃない」

お久しぶり〜と手を振ったのは

あの陽一だった


「あんたはお呼びじゃないのよ

紛らわしい」

操によって陽一はフェードアウト


「こっちよ、入って来なさい」

陽一のあとに続いて現れたのは

見覚えのある少年だった


「紹介するわね、根岸亘くんよ

というかもしかして知り合い?」


麗奈の微妙な反応で察するあたり

さすがだが紹介するのが不良ぽい

外見をした"異性"というのも

どうなんだろう―――


「クラスメイトですよ」


ぶっきらぼうに亘が言った

あらそうなの――

と特に気にするふうでもなく

麗奈に向き直って話を続けた


「麗奈、彼とお付き合いなさい」


「………………………」


黙って話を聞いていた陽一ですら

いきなりの科白に驚き声も出ない


亘は顔を真っ赤にして操を見つめ

操は――どーよこの名案

と言わんばかりに得意気な様子だ


麗奈はというと―――

相変わらずの無表情で

暫し沈黙のあとに


「わかりました

 先輩がそう仰るなら」


と肯定の言葉を口にした


――よしよし

と頷いている操とは対照的に

亘は「えっ!?」という顔で

完全に固まっている


陽一は面白いオモチャを見つけた

子供のようにニヨニヨしている


麗奈は固まっている亘に近寄ると

「不束者ですが

 よろしくお願いします」

と言って手を握った


「こ、、、こちらこそ

 おね、おね、願いしまます」

操と陽一は顔を見合わせて笑った




亘と付き合うことになった日から

初めての日曜日―――


駅前のロータリー前に

少し緊張した面持ちの麗奈がいた


薄い桜色のフリルのワンピースに

ボルドーのカーディガンを羽織り

ベールのついたニット帽を被っている


年齢よりもやや大人びた雰囲気に

道行く人の中にも思わず感嘆の

辞を陳べる輩もいるようだ


デートのセッティングをしたのは

もちろん操だが彼女も麗奈を見て

思わず息を飲み溜め息を吐いた


「相変わらず可愛いわね〜」

なんて冗談のような口振りで褒め

られると麗奈は心なし嬉しそうだ


麗奈も実は楽しみにしていたので

30分ほど早くきてしまっていた

さすがに亘の姿はまだなかったが

こうして待つという行為自体が

麗奈は初めてで新鮮に感じられた


しばらくすると亘が現れる


息急きかけてくる亘を見ていると

待ち合せをしているのが自分だと

再確認できて少しだけ興奮した


黒のTシャツに紺のジーンズと

麗奈に比べると地味さは否めない

だが生来の髪色と独特の雰囲気が

やおらカッコいいようにも見えて

くるから不思議なものだ


「おはよう、待たせちゃった?」


努めて平静を装おうとしているが

彼が緊張しているのは誰がみても

明らかだった


いつものように麗奈は黙って亘を

じっと見つめていたが

ハッと思い付いたように首を

フルフルと振って答えた


デートは順調に進みやがて夕方に

なると操に薦められたある公園へ

やってきた


そこは市内では珍しい緑地公園と

なっている場所で桜や銀杏など

四季折々の雰囲気が楽しめる

今の時期ならちょうど紅葉狩りの

時期にぴったりだろう


やがて夜の帳が降り赤や黄色に

彩られた木々がライトアップされ

少し離れた町並みを鮮やかに飾る

それはとても幻想的な雰囲気を

かもし出していた


二人は公園を散策しながら

その景色を存分に楽しんだ


「一応、成功したみたいね……」


心配になって後をつけていた操は

誰に言うともなく呟いた


「だな………」


本日のデートコースは陽一に相談

して決めたものだったので彼の

日頃の手腕の見せ所だ


出発前に亘に軽くアドバイスして

それでも心配で様子を見に来たが

どうやら徒労におわったようだ


なんとはなしに空を見上げれば

満天の星は二人を祝福するように

輝いていた



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