7.18才、貧乳、苦手なもの
まったりと話は進んでいるようです。
作者からすると、伏線張りまくりなんですけどね。後で回収できてるのかなあ?
笑顔の二人は会話が弾み出す。荒れた道に車輪を取られて馬車は時々大きく揺れるけど、それも気にならない。
「王子様はおいくつなんですか?」
「15歳になったばかりだ。エレインはいくつだ?」
いい調子で聞く王子。
「女性に年を聞くのは失礼だと思いますけど、18歳です」
「18とな!?」
驚きで勢いよく立ち上がった王子は低い天井に頭を打ち付けた。頭を抱えてしゃがみ込んでいる王子を見て、エレインは笑っている。そんなエレインを見ながら、王子はつぶやいた。
「普通、18才と言ったら、もうちょっと大きくて肉付きがよくて、胸なんかも豊かで……」
「胸のことは言わないで!」
今度、頭をしたたか打ち付けることになったのはエレイン。王子は笑いをこらえている。
「王子様にはわからないかも知れないけど、ろくに食べてなかったせいよ。お腹が空いても働くしかなくて、あたしの身体には余分なものなんかこれっぽっちもないんだから」
「つまり、その小さな胸は乳房ではなくて筋肉だというのか」
「筋肉胸なんてめちゃくちゃ失礼よ!」
真っ赤になって思わず立ち上がったエレインがもう一度、頭を打ち付けてしゃがみこんでいる。それを見て、王子は大笑いをしている。
「悪かった。もう、筋肉胸とか、貧乳とか洗濯板とか言わない。言ったら怒ってよい」
「なんか、もっと酷いことを言われているような気もするけど、いいわ。わかったわ」
王子の、さっきまでの落ち込んでいた気分がすっかり直っている。先の不安が消えたわけではないのに、それでも何とかなるような気持ちになっているから不思議だ。
(こいつのおかげかな)頭のたんこぶを撫でているエレインを見る。
「すまない、エレイン」
さっきは言えなかった言葉が今度は素直に出る。なにという顔でエレインは王子を見る。
「こんな形で同行させることになったことを謝る」
王子の謝罪にエレインは笑顔で答えた。
「いいですよ。少しはショックだったけど、王子様も本意じゃなかったみたいだし。それに……」
「それに、なんだ」
「この王子様はあまりに子供っぽくて、放っておけないっていうか、目が離せないっていうのか、面倒見てあげなきゃって気持ちにさせてくれるものですから」
そう言ってエレインは笑う。
「まったく、お前にはかなわないな」
「もし、あたしに弟がいたらこんな感じなのかなって」
(なんだ、弟か)エレインの言葉に王子はちょっと残念な気がした。
(どうして残念なんだ?)そう思ったとき、また車輪が石に乗り上げて、馬車がガタンと揺れた。その揺れで天井からでも落ちてきたのか、それとも風に乗って窓から飛び込んできたのだろうか、一匹の小さなクモがエレインのスカートに取り付いた。
「ひっ!」
エレインは両手でスカートを払ってクモを落とそうとする。クモは揺れる布地に必死でしがみついているようだ。簡単に落ちない。
「お、王子、王子様、取ってください。お願い、取って!」
「何を泡喰っておる。こんな小さなクモごときに」
「いやです。大きさじゃなくて、クモは嫌いなんです!」
エレインは涙目になっている。可哀相になって王子はクモをつまみ上げると、窓からひょいと投げ捨てた。
「お前に怖い物はないのかと思っておったが、クモが怖いとはな」
「怖いんじゃありません。苦手なだけです」
「同じ事よ。だからか、わかったぞ。お前の店がどうにも掃除が行き届いてないように見えたのは、お前がクモを嫌がっていたからだな」
当てられたエレインはぶすっとした顔。
「クモは噛むんです。そんなに腫れたりはしないけど、ちっちゃなころに噛まれたから痛みは覚えているんです。だからイヤなんです」
「そりゃ生きていくためには噛まなければならないときもあるさ。しかし、お前がクモが苦手とは。これはおもしろい」王子は笑い転げている。
「王子様にも苦手はあるんでしょう?」
「そうとも、いっぱいある。一番は父上かな。実力も名声もある父上にできないことはない。父上の言うことに従っていればよい、少なくとも今日まではそう思って従うだけだった。反抗したいと思ったことは何度もあったが、できなかった」
エレインは肯いている。
「それから兄者達も苦手であった。上の兄は賢くて、物事を良く理解できる人であった。何を聞いても返事がすらすら返ってきた。当然次の国王になると思っていた。次兄は武器を使わせたら、負けることはなかった。僕も一度も勝てなかった。当然魔物にも勝って帰ってくると思っておった。だからどうやって魔物が兄者達に勝ったのか、わからないのだ。そこが僕は怖い」
次話 第8話.消えた姉
おお、誰の姉だ? って、エレインの姉しかいないじゃん。