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5.見捨てられた王子

 アルス、エレイン、ランスロット、モルドレッド。

他にも後から出てきますが、某有名神話からです。

そういう楽しみ方もありますでしょうか。


 モルドレッドが広間の扉にそっと耳を当てている。王子も同じように聞き耳を立てた。扉の向こう、かすかに聞こえるのは王と王妃の話し声。

「王様はまだ魔法使いの呪いとやらを気にしておられるのですか。そんな昔の話、もういい加減お忘れになってもよいのではありませんか」

「いやいや、用心するに越したことはありませんぞ。王位を続けていく秘訣は用心すること。あの予言をけっして忘れるわけにはいきません」

「息子が15才になったら、気をつけなければならないなんて、妙な呪いですこと」

 なんだそれは? 王子はモルドレッドと顔を見合わせた。

「呪いと言うより予言と思って用心してきた結果が、今でも王であることなのですから、ありがたいと思わなければ」

「でも、それで兄二人がいなくなってしまいましたわ。王もお世継ぎをするおつもりはないのですか」

「ははは、まだまだ若い者には負けませんぞ。世継ぎなどとんでもない」

「あら、それではアルスにも譲るつもりはございませんの?」

「あんなひよっこでは、王位は重荷になるだけでしょう。とてもとても王の器ではありません」

 王の言葉に王子の表情が凍る。

「とはいっても、もうアルスの下に王子はおりませぬ。アルスまで帰ってこなかったらどうなさるおつもりですか?」

「それなら、また新しい御子をもうければいいだけの話ではありませんか。さっそく寝所のほうへまいりましょう」

「あら、お昼間からでございますか、致し方ありませんわ、ほほほ」

「ははははは」


 二人の笑い声が遠ざかっていく。扉の隙間に耳を当てていた王子の眼には涙が浮かんでいた。

「僕は、僕は、見捨てられたんだ……」


     ○     ○     ○


「王子殿、お気持ちを確かに」

 モルドレッドが冷静に言う。

「王様が呪いだか予言だかを気にしておられることはわかりました。どんな呪いなのかはもう少し探りましょう。王子殿、その間の時間を稼いでください。対策もわかろうかというものです」

 ランスロットも言う。「王子殿、決して二人の兄のようにはなりますまいぞ」

 でも王子には聞こえてない。すっかり落ち込んでぐずっている。

「王子……様?」

 呼びかけるようなエレインの声に王子は顔を上げた。そこにエレインの平手が飛んだ。派手な音を立てて王子の頬が赤くなる。

「い、痛ってえ! エレイン、何をする!」

「めっちゃくちゃ甘やかされて育ってきたのね。親の顔が見たい……ってさっき見たけど、まあ、あの親にしてこの子ありだわ。泣いてりゃ周りが何とかしてくれるっていうのは、子供も子供よ。意気地がないっていうか。こんな子供、魔物の巣窟に差し出したら、あっという間に片付けられておしまいよ。あんた達、考え直した方がいいわよ」

「こ、子供だと! 僕のことを子供だなんて!」

 王子は怒りのこもった瞳でエレインを見つめた。

「子供よ! ちやほやされるとのぼせ上がって、ちょっと辛いことがあると落ち込んで。そうじゃないっていうんなら、ちゃんと男らしく振る舞って見せなさいよ!」

 王子は怒りに任せて腰の剣に手をかけた。抜くやいなや、エレインの首に切っ先を当てる。

「殺しなさいよ。どうせ、あんたに付き合ったあげくに魔物に殺されるのなら、今殺られたほうがましかもね」

 だが、その激しい口調とは違ってエレインの指がブルブル震えている。そのことに気がついた王子は剣を鞘にもどした。


「ああ、お前の言うとおりかもしれんな。僕はまだまだ子供のようだ」

「王子殿、それに気がつくようになっただけ大人になりましたな」

 ほっとしたようなランスロットの声。モルドレッドは笑みを浮かべている。

「にしても、この娘、たいした肝っ玉ですね。王子殿を引っぱたいて、本当のところを遠慮無しにつく。侮辱罪に加えて暴力行為と不敬罪も追加しないと」

「勘弁してください。これから魔物の巣へ行かなきゃいけないというだけで頭は真っ白なんですから。それに口と手は借金取りに対抗するために身につけたやり方です」

 安堵のため息を吐き出しながらエレインが言う。

「いやいや、どうして。その手と口の早さは貴重な戦力ですよ。王子殿も心強いのではないですか」

 モルドレッドが笑いをこらえながら言う。

「じょ、冗談じゃない、敬語も使えない無教養の暴力女だぞ!」

「あたしだって、戦力なんかに入れて欲しくないわよ!」

 二人の声に、モルドレッドもランスロットも笑っていた。


「では王子殿、さっそく出発の用意にかかります」

「うん。モルドレッド、後を頼む。ランスロット、エレイン、用意しろ」

 エレインがもじもじっとした顔で言った。

「あのー、出る前に顔ぐらい拭きたいんですけど」

 お前、それでもやっぱり女というつもりなのか? と言わんばかりの顔で王子はエレインを見つめた。その視線に気がついたエレインがむすっと睨み返した。


ようやく王宮を出るチームができたようです。

次回は 第2章.ふとっちょの敵

     第6話.くたびれた馬車

道中はのんびりとした旅になるといいな。

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