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4.あたしはエレイン

 読み返してみると、このあたり、暗いですね。

この話は能天気で明るく~のつもりだったんですけど、

もう少しすれば、能天気がでてくると思います。

ちょっと辛抱を~!


「あたしの名前聞いてどうすんの?墓碑銘に刻もうっていうつもり?」

(墓碑銘とくるのか。こいつ、一つ言えば三つぐらいは返してくるな)王子は舌を巻いた。

「いい加減にしろ! お前を殺したいとは思ってない」

「わかるもんか。いいわよ、名前ぐらい教えてあげたって。エレイン。エレイン・マロニー」

(ああ、『マロニー鍛冶屋』だったっけ)王子は汚い看板を思い出した。

「もっと素直に言えよ。エレインか。いい名前だな」

「褒めても何にも出ないわよ。あんたはなんて名前なの?」

「あんたじゃない。王子と呼べ。僕はアルス。ヴァロン王家の三男だ。とは言っても、僕の兄たちももういない。魔物との戦いに出かけていったきり帰ってこなかった。二人共、行方不明だ。何の連絡もないんだ」

「ふうん……死んじゃったのかな?」

 少しも感情が入ってない声。

「もう少し、敬語を使えよ。いや、何でもない。死んだかどうかもわからない。でも、王はひどく魔物を恐れているような気がする。若かった頃は怖い物知らずだったのに、やっぱり兄たちが帰ってこないことが原因なんだろう。」

 王子は声の調子を落として続けた。

「そして、今度、僕に魔物からの挑戦が届いたんだ。僕は闘いに行かなきゃいけない。戦って勝って戻ってくるつもりなんだ。僕は兄たちと同じ運命にはなりたくないんだ」

 エレインは王子を見つめていた。


☆      ☆      ☆      


 王宮の広間で王子は青い顔で立っていた。エレインはその横に立ち尽くしている。その薄汚れた顔は涙の跡が付いて、ますます見られたものではなくなっていた。

「王子よ。魔宮へただちに出発するがよい。この娘も魔宮へ連れて行き、武具の調整は道中でさせればよい。王子の活躍があれば、二人もいればよいであろう」

 王の言葉を聞いた二人は呆然と立ち尽くしている。

「ま、まきゅうって、いったい、何? 何のことなんでしょうか。なぜに私が行くことになるんでしょうか」

 わめくエレインを無視して、モルドレッドが一歩前に出る。

「お待ちください。王様。是非私も同行させてください」

「ならぬ。親衛隊長が不在では、我が王宮の守りが成り立たぬではないか。お前が不在の間に敵に攻められでもしたら、いったいどうなる。王宮の守り、この街の守りを手薄にすることは一切まかりならぬ」

 王の言葉にモルドレッドは唇を噛む。その横で王子は不安におののいていた。(なんの応援もなしで、一人で僕は戦わなくてはならないのか)

「ただ王子も娘と二人だけというのは不安であろう。ランスロットを同行させる」

 部屋の隅にいたランスロットが前に出でくる。古めかしい甲冑姿。

「では三人よ。直ちに出発せよ!」

「し、しかし、父上」

 王子が抗議しかける。

「なにか、アルス。私の決定に不服でもあるのか? それともお前は臆病で軟弱者とでも言われたいのか」

 言いかけた言葉を王子はぐっとこらえる。(たった三人。しかも娘っ子と老人だ、戦力は自分一人ということではないか。一人で魔物と戦って勝つなんてことができるのだろうか。なぜだ、なぜこんな目にあわなくてはならないのか)

 椅子の上の王をにらみつける。しかし、言葉は出てこない。

(言えない。やっぱり僕は臆病者だ)王子は唇をかみしめる。

「無ければ直ちに出発の用意にかかるがよい」

 

 王子とモルドレッドが連れ立って広間を出る。

「王子殿、本当にこれでよろしいのですか」

 王の耳に入らないように、モルドレッドが小声で話しかける。

「僕は今、死を賜ったような気持ちだ」王子も小声で返す。

「なぜだ、こんな目に遭わなくてはならない理由がわからない」

 王子の握りしめられた拳が震えている。


「とはいえ王の命が下った以上は、この場は仕方がありませぬ。ひとまず、王子殿とランスロット殿で出発してください。私は王の命令の背後を探っておきます。私もなにか、不可解なものを感じます」

 モルドレッドの言葉に王子は頷く。

「ちょ、ちょっと、あたしはやっぱり行くことになるんですか? ここの牢屋に入れてください。魔物の巣だなんて勘弁して。あたしは何のお役にも立ちませんから!」

 エレインの言葉はまたも無視された。

「召喚状は王から預かりましたので、これで水や食料、馬の用意をいたしましょう。この旅が成功裏に終われば王とて王子殿をお認めになるはず。必ずや帰ってきましょうぞ」

 ランスロットの言葉で、王子は笑顔を浮かべる。

「エレイン、お前は馬には乗れるのか?」

「やっぱり連れて行かれるんですか。……いいえ、馬なんて乗ったことないです」

 エレインはブスッとした顔で答える。

「すまん、ランスロット。こいつのために用意を馬車に代えてくれ」

「足手まといなら置いてってください。喜んで残りますから!」

 エレインの悲痛な叫びは誰も聞いていなかった。



次回 「5.見捨てられた王子」


 ああ、やっぱり暗そう……。

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