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3.世間知らずのおぼっちゃま

 うん、本当にこの王子殿、世間知らずなんですよね。

そんなボワーとした感じ、出てないでしょうか。

ちなみに、王子の名前はアルスです。

(一応、第1話に出てますけど)

「人でなし、悪人、ろくでなし」

 兵士の肩に載せられた状態で、娘はぶつぶつ呟いている。

「うるさいぞ、お前。ろくでなしはお前の親だろう。遊び歩く母親に飲んだくれの父親か。助けてくれたと感謝するのが普通じゃないか」

 王子は眉間にしわを寄せて言った。

「うるさい。おかっちゃんが家を出ちまったのは、あたしの姉妹のことでおとっちゃんと喧嘩ばっかりしてたからだ。おかっちゃんだって生活がもう少し楽だったら、遊び歩かなくて、おとっちゃんだって、飲んでばかりにはならなかったんだ。飲むのは二人とも好きだったけど」

 娘は涙でいっぱいの瞳を王子に向けた。

「そもそも王宮でいい生活してる奴に、あたしの苦労がわかってたまるか。ちょっとの稼ぎですら税金だの軍のお金だのって持ってちまう奴らに。あたしだけじゃない。みんな言ってる。生活が楽にならないのは、王宮のせいだって!」

 王子は面食らった。今までそんなことを聞いたことがない。

「お前は何を言っているんだ?」

 その一言が娘の怒りをさらに増幅させたようだ。

「――あんた、バカだろう」

 娘の悪口に遠慮はない。

「あんたの食い物の代金はどっからきてると思ってるんだ? 服は? 武器は? みーんな、あたしたちが稼いだ金を横取りしてんだよ! なけなしの金でさえもってくんだ。払えなきゃ牢に入れるって。あたしもこれから牢屋に入れられちゃうんだ」

 自分の言葉に興奮した娘は、とうとう泣き始めた。

「あんたではない、王子と呼べ」

 そう言いながら、王子は考え込んだ。どっからきた金だって? そんなこと、考えたこともなかったぞ。確かに自然と湧いて出るものじゃないのは確かだけど、そうか、ランスロットが税金とか言ってたよな。そのことか。でも確か、庶民は税金を負担するが、その代わりに身を守ってるって言ってなかったか? だが、王子がそう言うと娘からは反撃が返ってきた。

「誰から守ってくれるのよ。どこに敵がいるのよ。うちの武具が売れなくなってきたのは敵がいなくなったからじゃないの。今じゃあ農具だの大工工具の方がよく売れるんだから。あんたの軍隊はあたし達を守るんじゃなくて、自分たちを守ってるだけじゃないの」

 王子は娘の顔をポカンと見つめた。考えもしていなかったことがポンポン飛び出してくる。いや、このままじゃまずい。口では勝てそうもない。


「娘、さっき、お前の姉妹っていってたな。でも、あの店には誰もいなかったぞ」

 王子の話題転換に娘はうまくひっかっかった。

「あそこにはあたしとおとっちゃんしかいないよ。あたしには姉と妹がいたんだ」

「いた……今はいないのか」

 王子の問いに娘は頷く。

「姉ちゃんはあたしがちっちゃいときにいなくなっちゃたんだ。だから顔も良く覚えていない。妹はある日急にいなくなった。それまで二人で遊んでいたはずなのに。魔物に誘拐されたとかいろんな話があって、何が本当なのか、あたしにもよくわかんないけど。でも、貧乏じゃなかったらきっと二人とも家にいて、おかっちゃんとおとっちゃんも仲良く暮らしていたんじゃないかって何度も何度も考えたんだ」

 王子は頷く。

「だから! あたしの不幸は、全部あんたのせいなんだ!」

「なんで、そうなる!?」

 せっかく話題を変えたはずだったのに、作戦に失敗した王子は首を振った。

「しかし、なぜだ。僕はこの街ではみな平和で安心して暮らしていると聞いている。お前の話だと、魔物だの誘拐だのが起きているということじゃないか。おかしいぞ、ウソをついているのか?」

「あんたにウソついたって、何の得にもならないわよ。どうせあたしは檻の中に入れられるんだから」

 娘は相変わらず怒って答える。

「あんたが単に世間知らずのおぼっちゃまなだけじゃないの。この街で今何が起こっているのか、自分で調べたことあるの? とっちゃんのこと、娘に稼がせるバカ親とか言ってたけど、あんたは自分で稼いだことあるの? 他人に稼がせて自分は楽してるのは、あんたもとっちゃんと違わないじゃない!」

 王子は絶句した。こいつに言わせれば、ぼくは飲んだくれて寝てる親と同じだってか? でも確かにあまり街に出たことはない。街の外なんか一回も行ったことがない。世間知らずは事実だ。でも、そうなら本当の街は誘拐が多発して、魔物が跋扈する危険な場所なのか。


 黙ってしまった王子を見て、娘はため息をついた。

「ごめん。ちょっと言い過ぎたかもしれない。けど、おとっちゃんが酒飲んでるのはほんとは嫌なの。一緒に汗出して働いてくれるとうれしいんだ。みんながそうやって暮らしていけるような街になってくれないかな……」

「お前……いや、いつまでもお前じゃないな。娘、名前を何という?」

 気を取り直して、王子は娘に問いかけた。


王子の次はヒロインの名前です。


次話 4.あたしはエレイン



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