Ⅰ.旅立ちの街 1.目覚めれば召喚状
平和な、のんびりとした王宮って感じを出したかったです。
ちょっと太目の王子と、鼻提灯の爺やのコンビで。
(ああ、そうか。こいつに起こされたんだ)
ようやく、王子は身を起こした。部屋の入り口には召使いの姿がある。
「父上がお呼びなのか」
「さようでございます。すぐにお連れしろとのご命令でございます」
(すぐにこいというのか、また何か、おいしい物でも手に入ったのかな)
王子はやっと立ち上がると、身繕いをする。
「わかった。すぐに駆けつけると父上には報告してくれ」
その言葉を聞いて、召使いは姿を消す。早足で消えていく足音。
「おい、ランスロット。父上がお呼びだ。いくぞ」
その声で目を覚ましたランスロットの鼻提灯がはじけた。白髪、白髭のランスロットもゆっくり立ち上がる。そんな様子を見ながら、王子はふと考えた。
(ランスロットはいったいいくつだろう)
王子が物心ついたときにはランスロットはもう老人だった。80才、90才? 老人は何年経っても老人だ。教育係だなんて名前ばっかりで、いつも居眠りばかりしている。昔は武勇伝も恋話もあったんですよと言って笑ってたこともあったっけ、ふと王子は思い出した。少なくとも今は頼りないご老人だ。
大きな窓の外からは親衛隊の声が聞こえてくる。隊長のモルドレッドが号令をかけているようだ。煌びやかな親衛隊は王国の軍隊の中でも実力、人気ともに高い。特に隊長のモルドレッドは王国一の剣士と評判だ。目的を達成するためならば、情け容赦なく剣を振るう冷酷さも持っていると言われている。とはいえ、王子にとっては武術指南役であり、小さい頃からの遊び相手として、親密な仲だ。その親衛隊も最近は出番がない。周りの敵はあらかた片付けられてしまったからだ。
「親衛隊も戦う相手がいないようでは、宝の持ち腐れだなあ」
王子は大きなあくびをしながら、やっと部屋を出た。
「アルス王子、あなたに召喚状がまいっております」
煌びやかな王宮の広間に王子が入っていくなり、これまた豪華な椅子に座った王子の母親、ジェニファー王妃が叫んだ。その大きな声に相応しく、体のサイズも大きい。立派な椅子が窮屈そうにみえるぐらいに。王妃の前には果物の山が皿に盛られている。
国王の方は、大きすぎる椅子に腰掛けている。その表情はしかめっ面だ。
「舞踏会ですか? それともお見合いでしょうか。この前のお見合いは参りましたなあ。紹介とはまったく似ても似つかぬ本人でございました。あれでは騙しもいいところではないかと……」
「招待状ではございません。召喚状です」
王妃が吠える。
「……なんですか?それは」
王様が口を開いた。
「魔物の都、魔宮からの召喚状である。読むぞ。”魔宮には街の少女が囚われの身となっている。この娘を助けるために王子を差し向け、魔物と対決すること。最後まで勝てば、少女は自由の身となるであろう。武器や人員は自由。ただし、王子がこない場合には、王としてふさわしくない臆病者と街中にいいふらす。それがいやなら、素直に王子をよこすこと”」
「兄者たちと同じですわ。アルス王子も召喚状がくるなんて」
王妃が大げさな身振りで嘆いている。
「兄者たちにもこの召喚状がきたのですか」王子には初耳だった。
「そうじゃ。そして魔宮に乗り込んでいったのだが、それっきり音信不通となってしまったのだ」
王も両手で顔を覆っている。
「再び、王子を失うかも知れないと言う不安はある。しかし、王子を出さなければ臆病者と街中でそしられる。臆病者などと行く評判は、それこそ街を護るヴァロン王家としての大問題じゃ。王子よ、魔物をうち破れ。お前の勇気だけが頼りじゃ」
「そうです。王子、我らを救って下され」
両陛下に懇願されては王子も悪い気はしない。にこにこ顔で了解するその裏には、こんな魂胆があった。
(武器も人員も自由なら、僕の指揮で遠征軍を編成して、勝つだけじゃないか。近頃は軍隊も暇をもてあましているし、みんな喜んで同行してくれるんじゃないか。もしかするとボードゲームで勝つより簡単かも知れないぞ)
「おお、そうか。行ってくれるのか。有り難い。これから直ちに出発の支度をするがよい。王子の武具一式は街の鍛冶屋にあるはずじゃ。これを受け取ってまいれ。それから直ちに出発じゃ」
王の言葉に肯く王子。王子と一緒に広間を出ようとしたランスロットは王に呼び止められた。
「ランスロットよ。そちに話がある。ここに残れ。王子よ。モルドレッドと一緒に鍛冶屋に行ってまいれ。街一番の腕の良い鍛冶屋じゃ。気に入った武具を持ってくるがよい」
王子は一礼して広間を出ると、中庭にいるモルドレッドのところへのそのそと歩いた。
いよいよヒロイン登場――かな。
次の話 2.鍛冶屋の娘
でも、なんて貧相なヒロインなんだろう?
書いてて初めてだ(笑。