思うこと
「おまっ……めっちゃ腹膨れてる」
「大満足です」
高校生だから、とおばちゃんは鳥の唐揚げを作ってくれていた。
その他には真っ白い炊きたてご飯に、シシトウとナスの味噌炒め、人参とひじきの煮物、温かいワカメと豆腐の味噌汁、そして漬物を少々。
素朴で優しい味付けだった。
凄く美味しかった。
賢翁もご飯を大盛りで2杯食べていて……お陰で2階に戻って見たら賢翁の腹がぽっこり膨れているのである。
相当食ってたもんな。
それで光も思わず自分の腹を見下ろすが、案外そんなに膨れてはいなかった。
「光も結構食べてたよね」
「お前程は食ってねぇよ」
「ちょ、お腹叩かないでっ。戻すっ……」
時刻は6時半を過ぎたところ。
そろそろ風呂に入った方が、おばちゃん達に迷惑が掛からないだろう。
光はリュックから大判タオルを取り出した。
「先風呂入ってくる」
「待って、俺も行くー!」
「はっ?」
言った途端、賢翁が纏わりつきてきた。
「馬鹿、狭いっつの」
「修学旅行で皆一緒に風呂入るのとか1回やってみたかったんだよね!」
物凄く笑顔で言われて、うっと光は言葉を詰まらせた。
そう、賢翁は家がアレな為に修学旅行にも行けなかった典型的に可哀想な少年なのである。
こんな風に言われてしまうと……でも。
「……マジで狭いと思うんだけど」
「いいじゃん別にー」
狭いはメインだが、もしもあっち系のカップルと疑われたらそれはそれで困るのだ。
……いや、そこまでは考え過ぎか。
無いか。
……無いことを祈ろう。
「……分かった。一緒に来い」
「やったー」
賢翁は光から離れると、嬉々として自分のリュックからタオルを漁り始める。
なんつーか……ホント小学生みたいだな。
無意識に溜息を吐きかけて──寸でのところで飲み込んだ。
まぁ、いいか。
嬉しげに喋る賢翁を連れて、光は1階へ降りた。
──────
脱衣所は洗面台と洗濯機が所狭しと置かれていて、男子2人が居る上に彼らの服を置いたりすれば、それこそぎゅうぎゅうに狭い。
更に浴室へ入ると──
「せまっ」
「だから言ったろ」
2人が一緒の場で身体を洗うのは難しい程の狭いスペースだった。
交代交代で風呂に入って身体を洗うしかない。
先に光から身体を洗うことにした。
シャワーのコックをひねり、調節して熱めの湯を出す。
賢翁は軽く湯を浴びてから風呂に浸かった。
「あっつ。あっついぃ……けど、いける」
ゆっくり、ゆっくりと湯に沈めていく賢翁の身体は熱さに縮こまっていて、何だか面白かった。
「そんな熱いか?」
「うーん……入ったら慣れてきた」
光は風呂の湯に手を入れて、シャワーの湯と温度を比べてみた。
……いや、多分シャワーの方が熱いな。
「………」
「何だよ」
「ん?んー」
全身湯に浸かって慣れたらしい賢翁が顔をこちらに向けている。
目を見てるとか、そういうことではなく下を見ている。
曖昧に返事をしても視線を外さない賢翁。
何だか不審に思って、彼の視線をゆっくり辿って見た。
……この野郎。
光は察するとすぐ様シャワーを賢翁の顔に向けて湯を放った。
「わっぷ!あっつ!あっっつ!」
「見んじゃねぇ馬鹿」
まさか”これ”もデッサンの対象にする気じゃねぇだろうな。
髪までびっしょり濡れた賢翁は「ごめんって!やめてー!」とシャワーの湯をから逃れようとジタバタしている。
風呂の湯がけたたましい音を立てて大きく跳ねた。
これ以上やって息が出来なくなったら可哀想だから、シャワーの湯を向けるのを止めてやった。
「まじまじと見るもんじゃねぇっつの」
「すみませんでした……」
全く……。
光は溜息を吐いて今度こそ身体を洗い始めた。




