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「本当に凄いわぁ!こういうのって自分で覚えるものなの?」

「独学から始めて、最近はそういうバーで実践がてらに教えて貰ってます」

「えっ」


その言葉に驚いて顔を上げたのは賢翁である。


「初耳なんだけど!」

「……そうだったか?」


内緒にしていたつもりは無かったが……

半年前から、光はコンビニのバイトは日数を減らして所謂マジック・バーと呼ばれる店に働きに行っている。

以前通っていたマジック教室にて繋がった縁で──というか、バーのマスターがその教室の主催者で、「光君なら」とありがたい引き抜き話を頂いたのだ。

新しいマジックやテクニックは勿論、話し方やギャラリーへの魅せ方もバーで教わったのである。

最近では光がバーのマジック・ショーに出る機会もある。

……それでも学校の中では、何だか気恥ずかしくて賢翁にしか見せれないのだ。


「場慣れしてて話し方も本物のプロみたいだったわ!引き込まれちゃった…」

「ありがとうございます」


ニコリと浮かぶ微笑みも、今やバー仕込みと言って過言では無い。


「……で、お前出来たのか?」

「あ、うん」


光は聞きながら、カードをまとめに掛かった。

その横で賢翁は椅子から立ち上がると、おばちゃんと良子さんの前にスケッチブックを差し出した。


「光に比べたらあんまパッとしないけど……」

「えーっ!?これっ……これ今描いたのよね!?」


おばちゃんは仰天した声を上げた。

良子さんはスケッチブックを覗き込むと、やはり驚いた表情でおばちゃんを見上げた。

スケッチブックの中には、光のマジックを見て驚きの表情を見せるおばちゃんと良子さんが描かれていた。

鉛筆1本の15分そこらで描いたものだから、いつものデッサンに比べたらまだまだ不明瞭で”習作の様なデッサン”でしかない。

だがこの似顔絵にも既に賢翁の丁寧さとずば抜けた観察力が表れているのだ。


「凄く上手ねー!ねぇ、おばあちゃん。とっても上手よね」

「本当ねぇ。本当に上手」

「これもっと描き込んでから、明日あげます」

「えっ」


やっぱりそうか、と密かに思った光。

奴のことだから15分では満足しないだろう。

人に渡す物だし、ただの雑草にだって2時間3時間と平気で向き合うのだから、もっと描き込みたいはずだ。


「だから、また明日見せます」

「そう。楽しみにしておくわね。おばあちゃん、良かったわねえ。マジックも見れて、似顔絵も貰えるなんて」

「ふふふ」


笑い合うおばちゃんと良子さんはこの通り、何だか嬉しそうである。

気を遣ってのリアクションとか、そういった様子はやはりなさそうだ。

本当に、良かった。

おばちゃんがいそいそと立ち上がった。


「さてと。お夕飯にしましょうか。お腹空いたでしょう?あなた達育ち盛りだから、ご飯は遠慮無くお代わりして頂戴ね」

「ありがとうございます」

「えっ、いいんですか!?」

「マジックと似顔絵のお礼。おばあちゃんも私もとっても嬉しかった。ありがとうね」


光と賢翁は顔を見合わせ、やがて擽ったいような気持ちに駆られて互いにくすりと笑った。

そうして、2人はおばちゃんと夕飯の支度を手伝ったのである。


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