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「おかしいですねぇ」
言いながらハートのクィーンを持ち上げた光。
やがてニコリと笑った。
「恥ずかしがって隠れたみたいです」
束を置いて空いた手が、トランプの絵柄の表面を覆うように撫でた。
拭うようにして手が離れて行くと……絵柄はスペードの7に変わっていた。
おばちゃんが仰天した様子で声を上げる。
「えーっ!?何でぇ!?」
「中々の恥ずかしがり屋さんですね」
もう一度、カードの表面を大きく撫でる。
今度は……スペードのエース。
「でね、良子さん。こうしてる間にも」
光はカードの束を一文字に拡げて、端から華麗に全て表返す。
良子さんとおばちゃんは、あっと息を飲んだ。
先程数字も柄もバラバラだったはずのカードは、エースからキングまで綺麗に順を揃えて整列していた。
しかも、赤から始まって黒の列で終わっている。
「捜索に協力してくれるみたいです。……良子さんのカードもここには入ってないみたいですし」
そうなのである。
よくよく見るとクラブの列の2が飛んでいる。
スペードのエースは光の手にあるのだが……。
「丁度色も分かれてるので、半分にしますね」
光は赤と黒でそれぞれカードをまとめて2つの束を作ると、黒の方を裏返した。
赤のハートのエースを一番上にした束と、渋い赤裏地の束。
光は2つを突き合わせると、表も裏も無くリフルシャッフルしてしまった。
捜索どころか更に紛れ込んでしまうような暴挙に、良子さんとおばちゃんは展開に追いつくので一杯一杯な様子。
「あら……あらあらあら……」
「これだけごちゃ混ぜにしてしまえば、油断して出てくるかもしれませんよ。何処に居るんでしょうね」
光の手は適当にカードを6つの山に分けた。
それらはやはり表裏バラバラになっていて、やはりクラブの2は見当たらない。
光はそれらをまた回収して1つの束に戻して行き──
テーブルに置くと、パチンと指を鳴らした。
また滑らかにカードが扇状に広げられる。
「あ!」
おばちゃんが声を上げた。
光はそれにただ笑みを返すばかりである。
テーブルの上に広がったカードは、今度は全て赤色に裏返されていたのだ。
……いや、真ん中に白が一筋。
おばちゃんも良子さんも、まさかという顔で光を見つめる。
光は「取ってみて下さい」と良子さんを促した。
良子さんがそろりとたった1枚だけ表に返されていたカードを引き抜く。
やはりそれは「隈元 良子」と書かれたクラブの2であった。
「やーっ、凄い!これどうやってやるのー!?」
感極まって興奮を抑えきれない様子のおばちゃんと、言葉も無く感嘆の吐息を吐く良子さん。
喜んで貰えたみたいだ。
光はそれを見て、どっと緊張から解放されて脱力していくのを感じた。




