「ある意味怖い話」部分
はい、間違いありません。
それがあの日、僕と彼女の間に起こったことです。
「不幸な事故だった」とか「思い込みの生んだ悲劇だ」なんて言うつもりは、一切ありません。
僕は、間違いなく自分の意志で彼女の首を絞め、殺しました。
彼女のご家族には、本当に申し訳ないことをしました。
どうか僕を、凶悪な殺人犯として裁いてください。
ただ……もし、もしも耳を貸してもらえるのなら、これだけは分かってほしい。
僕にとって、彼女のお母さん……サクラさんとの思い出は、つらく苦しいことばかりだった僕の20代の思い出の中で、本当に得がたく尊いものだった。
暗く冷たい、牢獄にとらわれていた僕の気持ちを唯一慰め、暖めてくれる、ろうそくのともしびのような記憶だったんです。
彼女は、その思い出の中から抜け出してきたとしか思えなかった。
20年経っても変わらぬ若さを保ったその姿を見て、お母さんそっくりに育った娘さんだったとは、全く思い至らなかったんです。
もし、病気を経験していなければ……妄想と格闘した、つらい記憶がなければ、きっと、自然に「娘さんだ」と思ったんでしょうね。
あるいは、娘さんがお母さん譲りのいたずら好きでなく、最初に「サクラの娘です」と言ってくださっていたら。
いや、やめましょう。
いくらこんなことを言ったところで、彼女の命が戻りはしません。
本当に、本当に申し訳ないことをしました。
後からお聞きしましたが……彼女は、「お母さんが昔好きだった人に、こっそり会いに行く」とお友達に話していたんだとか。
それを聞いて……僕はどれほど後悔したか。
あの部室に差し向かいで座って過ごしたかけがえのない時間は、妄想でもなんでもない、正真正銘の「幸福な時間」だった。
僕は……僕は、自分の不安と弱さに負けて、その大切な思い出までも、穢してしまった。
本当に、どうしようもない人間です、僕は。
しでかした罪の大きさを思えば、僕には生きる権利など、もはやひとかけらもあるとは思えません。
そして、最後の希望の灯火さえ自分の手でもみ消してしまった今、生きていたいとも思えません。
どうか、僕を死刑にしてください。
裁判長。どうか、お願いします。
「ある意味怖い話」部分投稿。以上で完結。




