7話 なんでもは知らない。本当になにも知らない。
時は流れ・・・といっても週末になっただけ。
「ほれ、これ良い感じだから食え」
「はい、ありがとうございます」
「あー、それはまだだから勝手に触んなっ」
「す、すいません」
引っ越しのお礼である焼き肉の食べ放題に来ている。
が・・・先輩がここまでの焼肉奉行だとは思わなかった。
「いや、先輩も食べて下さいよ」
「食ってる食ってる。おっさんになると量食えんから良いのをちょっとで良いんだよ」
「言うて変わらないでしょ・・・」
「アラサーとアラフォーは違うぞ」
「そうなんでしょうけど」
「気分が」
「気持ちの問題だったっ!」
「ぶっちゃけ29と30程の差は無いな」
「へー、まぁ、流石にそこは違いますよね」
「「へー」」と若手組2人からも声が上がる。
今更だけどこの焼き肉に参加しているメンツの紹介をしようと思う。
まずは俺。田中奏太32才のサラリーマンで比較的オタク趣味。まぁ、普通の地味リーマンだ。
続いて先輩。先輩といっても学生時代に一切関係は無く。入社して俺の指導係になったとかですらなく・・・先輩の名字が田中で被っているから呼び辛くて先輩に落ち着いただけだったりする。
その所為で俺は社内で名前呼びされる事が多い。家族以外から名前で呼ばれる事がほぼ無かったから最初はかなり照れ臭かった。流石にもう慣れたが。
そして、この集まりでは唯一の妻帯者で1児のパパでもある。
次は俺と同期の小鳥遊奏多。タカナシソウタ・・・俺と名字は音が似てて名前は字面が似てる。
タナカとタカナシ。奏太と奏多。この2人を同時に採用して同じ部署に配置させるとか遊んでる?
ちなみに名前は似てるけど性格は似ていない。
俺とは違っておモテになる様で・・・下手すれば毎週。基本的には月替り。保って3ヶ月といった感じで彼女が替わっている。
モテはするけど何かしら問題があるのだろう。そして、そこまでいくとあまり羨ましくは・・・いや、羨ましいな。めちゃくちゃ・・・。
そして、後輩ズ。後輩の2人は同期で25くらいだったはず。
2人の名字は中田と中田。ナカタとナカダ。
ここまで来ると100%確定で人事は遊んでいる。
この2人も名前が被ってややこしいので特殊は呼び方をされている。
「ダ」と「タ」だったり「濁点」と「じゃない方」だったり「濁ってる方」と「濁って無い方」だったりと先輩と名字被りで名前呼びされる俺は幸せなんだと気付かされた。
但し・・・その場のノリで俺もイジられまくる時は往々にしてある。
全員が箸を置き、並べられた皿もほぼ空いている。
そんなタイミングで。
「ちょっとデザートにアイス取って来ます」
この店は肉以外の食べ放題や飲み放題はセルフになっている。
「俺のも頼むわ」
「はい。他には居ませんか?デザート以外でも」
「んじゃ俺はビールのおかわり頼む」
「はい」
と、ダが立つと先輩がアイスをタカナシがビールを頼んだ。
「んじゃ僕も手伝うよ」
と、濁って無い方のタも立ち上がった。
「頼む。カタナさんは良いんですか?」
「あぁ、俺はもう大丈夫・・・って、カタナじゃなくてカナタなっ!」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ」
「噛みまみた」
「わざとじゃ・・・いや、やめとこう。著作権的なのに引っかかりそうだ」
「いや、ほぼほぼやりましたけどね」
と、ダの方は趣味も合って何かと楽しい。
先輩もタカナシも「また何かやってる」とばかりにスルーしているし、タは真面目な子だからこのしょうもないやりとりをじっと待っている。
「んじゃ行くか」
「もう良いのか?」
「うん、カナナナナタさんも満足したみたいだし」
「ナ」が多いわっ!と、ツッコミそうになったがそうなると終わりが見えなくなるのでスルーしておいた。
すると、それを見越していたのかダは既に歩きだしていて、タは律儀に待っていた。
「行ってるぞ?」
「え?あれ?良いんですか?」
「いい、いい」
そう、いい。どうでも。
「そういや、新居はどうなんだ?」
「良い感じですよ」
「キレイだったし、広いのに家賃も安いんだろ?」
「前のボロアパートが取り壊しで強制の立ち退きだったからってのと大家さんとの付き合いも長いからって感じで安くしてくれたみたいです」
「ほーん。でも、いつまで住むんだろうな?今回の部屋は」
「どうなんでしょうね?前より快適なんで長く住めればとは思いますけどね」
「お前なぁ・・・タナカさんが言ってんのは・・・」
「なに?」
「お前らどっちにも言える事だけどなー」
「??」
「あの部屋ってどう見ても単身者用だろ?」
「そうですよ?」
「2人で住むには狭い」
「え?でも、俺は・・・あぁ・・・」
なるほど・・・。
早く彼女でも作って同棲する為にもうちょっと広い部屋に引っ越せ。と・・・。
そして、早いトコ結婚しろって話なのかもしれない。