6話 アイ
クローゼットの中のドアを開け、中の部屋に入り、ドアの横にある出入り口を通り通路へと出る。
ホームセンターで買ってきたロープはとりあえず30mある。
一応の為として予備にもう1つ同じ物を買ってきてあるが・・・屋外でならまだしも屋内での30mはかなりの距離だから出番は無いかもしれない。とりあえず今回は。
通路へと足を踏み入れると前回同様に通路に設置されたランプにも火が灯った。
「ふぅ~・・・」
正面に真っ直ぐ進む通路とはいえ、閉鎖空間であり慣れないランプの明かりの所為もあって距離感が狂う。
「あ、そうか」
ランプとランプの距離を測ればパッと見でどのくらいの距離なのか分かるはずだ。
「えっと・・・」
メジャーを取りに戻っても良いが・・・面倒臭いのとこの恐怖空間に再び足を踏み入れるのに抵抗が出るのも嫌なのでザックリと目算で済ませてしまう。
「4?5?メートルに1個ペースくらい?」
視線を先に送り、ランプの数を数えていく。
「1、2、3、4,5、6、7、8・・・この時点で既に4mとしてもロープの長さ足りないな」
8つ目のランプの先にもまだランプはあるので確実にロープの長さが足りない。
「折角だし・・・行けるトコまで行くか・・・」
ロープがある事に依り、多少恐怖感が薄れたとはいえ・・・本当に多少はマシになったという程度なので今回も頻繁に振り返りながらゆっくりと進んでいく。
カタン───。
「い、い、い、い、今、何か、お、お、お、お、お、音したっ」
脱兎の如く。否、光の速度で謎の部屋から脱出した。
この速度のまま100m走に出走すれば・・・タイムは18秒を切れるかもしれない。
期待させてしまったかもしれないが、如何せんアラサーのおっさんなのでそれが限界だった。
「あ・・・」
音の正体は、ロープが買い物袋に引っかかり中から色々と溢れたせいで鳴った音だったようだ。
心が折れかけたが・・・懐中電灯代にロープ代にと投資もしているし、この謎の空間の正体を明らかにしない事には安心して生活出来ない。
そう自分に言い聞かせ再び中へと足を向けた。
「ま、まぁ、何回も来れば?慣れてもくるし?こ、こんなのは怖いと思うから怖いだけで?実際は大した事なヒィィィ・・・はぁはぁはぁ・・・か、影か・・・」
ランプの明かりに照らされ揺れる自分の影に怯えながらも歩を進めた結果。
「曲がり角・・・っと、ロープはここまでか・・・」
相変わらずグダグダと逡巡した後、ベルトに結びつけたロープを解いた。
「大丈夫・・・大丈夫・・・。直ぐ戻れば何て事は無い・・・」
何故か・・・少し腰を落とし、片足を引き摺る様に摺り足で進んでいく。
そして、曲がり角では特殊部隊がこれから突入するかの如く壁を背にして微妙に上がった息を整えてから勢いよく角を曲がった。
すると、最初に通路に出た時同様にランプが順番に点灯していった。
「お、おぉ・・・」
また同じような距離の通路が目の前に伸びていた。
「もしかしてずっとこんな感じ?」
次の角を曲がってもまた同じ通路が続く無限回廊の様な存在なのだろうか?
それとも、次にはどこかに辿り着いたりどこかのタイミングで変化があるものなのだろうか?
それもいくら考えた所で実際に進んでみない事には答えは出ない。
「ま、まぁ、今日はこんな所で満足かな」
と、来た道を戻り途中で置いてきたロープを掴み上げようとした瞬間。
「ん?へ?んん??」
何となく違和感はあった。
「んん??」
違和感はあったが早く自分の部屋に戻りたいという気持ちもあり気が逸った所為で無視したのかもしれない。
ビチャ───。
妙に重いロープからボトリと垂れ落ちた水っぽいナニカ。
「な?え?え??」
水たまりでもあったのか?と、辺りを見回し。壁に水の跡は無い。天井から水が滴っているという事も無い。
それでは今のは?
足元に目をやると、そこには水たまりではなくモゾモゾと微妙に動いている無色透明のナニカ。
「ヒイッ」
ロープを取り上げられたナニカは次の標的として俺の足に纏わり付こうとモゾモゾと擦り寄ってきた。
あまりの恐怖に短い悲鳴と共に手に持っていたロープを食べるならそっちを食べろとでも言わんばかりに投げ捨てて走り出した。
テーブルに結んでいたロープを解き、勢いそのままに石畳の部屋にロープを投げ入れ。そして、クローゼットの中のドアを閉め。そのドアの前に未開封のダンボールを積み上げ更にクローゼットの前にもダンボールやテーブルを持ってきて封鎖した。
二重の封をする事で多少の安心を得る事が出来。更に現実逃避するべく風呂へと向かった。
シャワーで軽く汗を流し部屋着に着替え。冷蔵庫から取り出したストロングなヤツをキメて早々に布団へと入った。