4話 やっと。4話にしてようやく。
翌朝、慣れない引っ越し作業による疲れか、中々寝付けなかったからか眠い目をこすりながらの出社となった。
「っざいまーす」
「おう、おはよーさん」
「あ、昨日はありがとうございました」
「いやいや、お前のためじゃなく肉と酒のためだからなー」
「あ、もしかして・・・俺が気を使い過ぎない様に冗談っぽく言ってくれてるんですか?」
「優しいだろ?」
「はい!って事で合法なのか疑うくらいやっすい店探しておきますねっ!」
「おま、ふざけんなっ」
まぁ、本当に感謝しているからそんなド畜生な事をするつもりは無い。
「お前・・・そんな事やらかした日には・・・分かってんだろうな?」
「え、こわ・・・何する気ですか・・・」
「仕事帰りにお前ん家行って」
「え?はい」
「毎回、お前ん家で風呂入ってから帰る」
「ウザ・・・いや、でも・・・ウザいけど別にそんくらいなら・・・」
「ふんっ・・・甘いな」
「え?仕事明けに微妙に時間を奪われるのと水道代とガス代くらいですよね」
引っ越しの時のファーストトイレアタックとか絶妙な嫌がらせというかイタズラが好きな先輩だからなぁ。
「最低でも3手先を読めって言ってんだろ?」
「あー、また将棋ですか?」
「またって何だ、またって」
「いや、将棋とか分からないんで」
「例えだよ、例え。んで、俺がやりそうな事想像してみろ」
「え、はい・・・」
あー、シャンプーとかリンスの減りも早くなる?
「シャンプーとか・・・」
「違うっ!」
「えー・・・」
「だーかーらー。3手先だっつってんだろ?」
「3手・・・」
「普段、家で風呂入ってんのにお前ん家で入ったらどうなる?」
「家で入らなくなりますね」
「おう。んで?」
「そしたら・・・水道代とか安く済む?」
「なんでだよっ!」
「えー・・・」
「俺の置かれてる状態?環境?も考えてみろよ」
「んー・・・・・・ん???もうちょいヒントを・・・」
「おま・・・家には嫁さんと子供が居る訳だ」
「はい、そうですね」
「旦那が毎日余所で風呂入って帰って来たら嫁はどう思う?」
「後輩の家で風呂なんて入って何してんの?とか??」
「バーカ」
「えー・・・」
「ウチの嫁さんがそんな事信じる訳無いだろ」
「いや、俺、先輩の奥さんとは何回か挨拶したくらいしか面識無いんで」
「そうだっけか?」
「はい」
ちょっとゴツくて厳つい目の先輩とは違って小柄で大人しそうで控えめな感じの奥さんだった印象がある。
「まぁ、あれだ」
「はい?」
「確実に浮気を疑われる」
「あー・・・はいはい」
っても、そんな事実は無く。男の後輩の家に行ってるだけなんだから真相が分かれば問題無さそうな気がする。
「最初は女を疑われて」
「はいはい」
「お前ん家に行ってるのが分かるだろ?」
「はい」
で、軽く揉めはするけどそれで決着。
「嫁さんの中ではお前が俺の浮気相手で確定すんだろ?」
「はい。・・・はいぃ!?」
いやいやいやいやいや・・・。
「多分、会社にまで乗り込んで来るだろうなぁ」
「いやいやいや・・・」
「そしたら、俺は嫁さんも子供も居るから両刀って事が広まって」
「・・・・・・」
「お前はホモって会社で広まるんだろうなー」
「ちょっ!!!」
「多分っつーか、ほぼ確実にそんな感じになるんじゃねーかな?」
「そんなん俺の人生詰むじゃないですかっ」
「将棋分かんねーって言ってなかったか?」
「へ?」
「詰みは将棋用語だぞ?」
「いや、どうでも良いですよ・・・そんなの・・・」
「他にもあるぞ?高飛車とかも将棋が由来でな?他にも色々と将棋が由来の言葉が」
「いや、それはどうでも良くて・・・」
「で?」
「ん?」
「で?よ」
「はい?」
「1人当たりの予算は?」
「あぁ・・・食べ放題3500円に飲み放題が1500円で合わせて5000円くらいでどうですか・・・?」
「もう一声っ」
「えぇー・・・合わせて6000円・・・これが限界です」
「まぁ、そんなモンか。足が出た分は自腹って感じで行くか」
4人・・・いや、俺も入れて5人だから合わせて3万か・・・。
多分、業者に頼むよりは安く済んだかな・・・多分。
「次の土日のどっちかでどうだ?」
「俺は大丈夫ですけど。他のメンツはどうですかね?」
「それはこっちで調整しとくわ」
「はい。お願いします」
「よし・・・んじゃ、外回り行って来るわ」
「はーい」
昼には先輩がラインのグループを作成し。俺を含めて引っ越しの手伝いをしてくれたメンツ全員がグループに参加した。
そして、そのグループ名が「奏太の財布を空にする会」だった。恐ろしい・・・。
あぁ。申し遅れました。
私、田中奏太と申します。
これはブラック気味な会社に勤める地味なアラサーサラリーマンの俺が引っ越しをキッカケに。新居のクローゼットを中心に俺と俺の周りの人達を巻き込むちょっと不思議な物語。