3話 稀に多々ある凡ミス
引っ越しの所為なのか、珍しく同僚達とプライベートで会った所為なのか。
それとも、クローゼットの中に謎の扉を発見し。更には、その中に謎の部屋を発見して少年の様な冒険心をくすぐられた結果。隠せているつもりでは居るがテンションがブチ上がっているのか。
その理由は明白だった。
「ま、まぁ・・・別に急ぐ必要も無いし?明日は普通に仕事だし?大家さんにも言われたし?まずはベッドからやりますか」
そこからは無言で黙々と家具の細かい位置調整や干してあった布団を取り込んだりと着々と事を済ませていった。
とは言え、気付けばもう夜の19時を回り。流石に家具の移動といった音や振動が気になる事は出来なくなり・・・一段落付く事にした。
「ふぅ・・・」
文字通り一息つき。何かに追われる様に必死に動き回り全身から滝のような汗が吹き出している事に気付いた。
「風呂に入・・・る前にアレ気になるよなぁ・・・」
あの謎の部屋。
ドアを開けた時にちょっと埃っぽい匂いがしたから調べるなら風呂に入る前だ。
「ま、まぁ、そんな気になってる訳じゃないけど?風呂に入る前に?ちょっとだけ調べるかな?まぁ、ついでだし」
と、誰に対しての言い訳なのか分からない。謎の部屋よりも謎な自尊心を持っている様だった。
今直ぐ使いますとばかりに机の上に置いてあった懐中電灯を手に取りクローゼットを開け。更にクローゼットの中のドアも開ける。
「あれ?ん?あれ?」
謎の部屋を照らそうと懐中電灯を向けスイッチを入れるが一向に反応しない。
「ん?あ、電池かっ・・・」
と、踵を返し懐中電灯をスマホに持ち替えた。
「えっとぉ・・・ライトはどうやって点けるんだ・・・?あ、こうか、よしっ・・・」
いや、待てよ?
埃っぽいって事は床が汚れてるはず。
「くそっ・・・」
と、またしても中には入れず。玄関からサンダルを持って来た。
「グダグダ過ぎんだろ・・・」
何度目かの溜め息と共にスマホのライトを向けて謎の部屋へとようやく1歩を踏み出した。
すると・・・。
「うおっ」
石畳の部屋にはランプの様な物が壁に設置してあり、部屋に入ると同時に灯りが点いた。
「人感センサーかよ・・・」
スマホが要らないどころか懐中電灯が無駄な出費になってしまった。
「10畳くらい?めちゃくちゃデカい倉庫付き物件って事か?」
中に入り部屋の中を見回す。
「お?」
入って来たドアの直ぐ横に扉は付いていないが同じサイズの入口がある。
「いやいやいや・・・流石にそこはクローゼッ・・・」
覗き込むとそこにあったのはクローゼットではなく長い石畳の廊下。
流石に物理法則を無視している。
石畳の部屋から出てクローゼット側から入口のあるであろう位置を手で触って確かめる。
「いやいやいや・・・普通に壁・・・まぁ、そりゃそうか・・・」
再び石畳の部屋に戻り謎の入口をくぐると。また人感センサーに反応したのか長い廊下に等間隔に設置されたランプに火が灯った。
試しに少し進んでみたが振り返った時に入口が消えていたらどうしようという恐怖から1歩進んでは振り返りまた1歩進んではまた振り返るというとてつもない牛歩で歩みを進めた。
「いや・・・やっぱ普通に怖いっ」
そう言うと、脱兎の如く石畳の部屋へと駆け込んだ。
「いや、そう考えたら・・・この部屋もじゃんっ!」
今度は石畳の部屋からクローゼットへと這う様に転げて飛び出した。
「いや、これ何なんだよ・・・」
今どきのマンションのクローゼットにはこんな謎スペースも完備されてるのが普通なのか?
俺が今まで住んだ事があるのは実家と前のボロアパートだけだから知らないだけで時代はこんなにも進んでたって事?
空間を拡張出来るような技術が確立されてるって事だろ?
もしかして・・・猫型ロボットも既に実装済みだったり・・・?
「ふぅ・・・」
現実逃避はここまでにするか。
アレは一体何だ?何でクローゼットの中に?大家さんは本当に知らない?
異世界に繋がってたり?
まさかな・・・。
浮かんでは消えていく疑問に誰かが答えてくれるはずもなく。何も解決しないまま時間だけが過ぎていった。
「よし、風呂入るか」
うん。こういう時は切り替えが大事。
ボロアパートのユニットバスとは違って単体のお風呂。しかも、スイッチ1つで給湯やら色々と自動でやてくれる。
なるほど、こんな未来の技術が実装されているのなら空間を拡張させる技術があっても不思議じゃないか・・・。
なんて事を考えながらいつもならシャワーだけで済ませるところを引っ越し作業で疲れた身体を労る意味と自動のお湯はり機能を使ってみたいという思いで浴槽にお湯を張りしっかりと疲れを取ってから布団へと入った。
「明日にはあの謎のドアも消えてるかもだし・・・」
なるべく考えないようにしているだけで片時も頭からは離れていなかった。
そして、その所為でいつもは布団に入って5分で寝れていたはずが30分以上も寝付けずにいた。