12話 藪をつつかれて蛇が出る
俺の秘密基地もこれで完成という訳では無く。
最初こそテンションがちょっとだけ上がってしまって色々とやりすぎてしまった感はあるが・・・特に金を使いすぎた・・・が、ここからはゆっくりと育てていこうと思う。
端的に言うと今月使える金が完全に尽きた。
ただでさえ引っ越しで色々と物入りだったのに・・・。
「ふぅ~~~~~」
「今週は調子良さそうだな」
「え?今週?」
「先週はずっと上の空だったからな」
「マジですか・・・」
「おう。全く使いもんにならんかった」
「そ、そんなに・・・」
喫煙ブースにて先輩から知らされる俺のポンコツっぷり。
「何か良い事でもあったか?」
「え?いや、別に・・・どうだろ」
「先週はずっと定時になるなり速攻で帰ってたよな?」
「そ、そうでしたっけ・・・?」
「そうだよ・・・。で、一転、今週はガッツリと残業しまくり」
金が無いから働かないと・・・欲しい物も色々あるし。
「んで、お前ってかなり気分に左右されるだろ?」
「そうですか?」
「良い事あったら何でも頑張れるし、嫌な事あったら全てが嫌になる」
「いや、子供じゃないんですからそんな・・・」
「言ったな?」
「えっ」
「次から突っ込むからな?」
「そんな頻繁にやらかしてます?」
「そこそこ?」
「そこそこかー・・・リアルだ」
「まぁ、マジだからな」
マジかー。
であれば・・・いい加減に悔い改めないとな・・・。
「まぁ、そこそこ楽しませて貰ってるから。そのままのお前で居てくれ」
「えっ?」
「こないだも上の空で高中さんをガン無視してブチギレさせてたからなぁ」
「マジですか・・・あ、それでこないだ機嫌悪かったのか・・・」
「くっくっくっくっく」
「ちょ、笑い事じゃないですよ・・・」
高中さんはウチの部署で1番の古株のお局ババア・・・おっと・・・頼りになる姉御肌だけど気が短くてめちゃくちゃ気が強いから誰も逆らえなかったりする。
仕事もめちゃくちゃ出来るからお世話にはなりっぱなしで俺は一切頭が上がらない。
「マジか・・・何かお詫びを考えないと・・・」
「無駄に思い出させて怒らせるだけじゃね?」
「その可能性も否定出来ない・・・」
「バカが藪をつつくな。大人しく普通に仕事しとけ」
「デ、デスヨネー・・・」
若干、当たりが強すぎないか?とも思ったが・・・後輩が1週間も全く使えなかったら多少の小言は言いたくなるだろうし、このくらいなら全然優しい部類に入るだろう。
「さて・・・高中女史の機嫌を損ねない内に仕事に戻るか」
「はーい・・・」
と、タバコ休憩もそこそこに切り上げて仕事に戻った。
「よぉし。それじゃお先に失礼します」
「お?今日は定時上がりか」
「はい」
「ちょい待ち」
「??」
「俺も上がるから一緒に帰ろうぜ」
「あ、はい。って、先輩が定時上がりって珍しいですね」
「今日はちょっとな」
先輩はガッツリ残業タイプという訳でも無いが定時キッカリに我先にと帰るタイプでも無い。
「あ、先に下で待っててくれ」
「はい。お先に失礼しまーす」
外に出て先輩が来るまでの間スマホでお目当ての物をもう1度確認する。
と言っても今日買う訳では無く、近場の店舗に現物があるようなので実際に物を見て確認しようと思ったのだ。
「それ買うのか?」
「うわっ」
急に先輩の頭が目の前に現れた。
「買うのはネットで買おうと思ってるんですけど現物を見に行こうかと」
「ふーん。最近、妙に楽しそうなのは新居の模様替えにハマってんのか」
「いや、まぁ、そんなトコかもです」
「男なら1回はやるよなー」
「え?」
「アメリカンな雰囲気とかアジアンな感じとかコンセプト決めてやったり・・・しない?」
「あー、そこまではやらないですね・・・って、やったんですね」
「やったな・・・」
「結果は?」
「オシャレな家具ってさ」
「はい」
「使いにくい」
「あー、分かる気がします」
「値段もそこそこするし、作りもしっかりしてるから。物自体は良い物なんだよ」
「はいはい」
「でもやっぱ、使う事をメインに考えられてないっていうか」
「なるほど」
「っつーか・・・オシャレな部屋って暮らし辛い」
「あー・・・気分が上がるとかそういうのはありますよね」
「最初はな。オシャレな部屋ってさ」
「はい?」
「物が無い部屋なんだよ」
「あー・・・」
「頻繁に使う物が手の届く所に無くてちょっとづつストレスが積み重なる感じ」
「何か分かる気します」
「ってか、突っ立ってないで帰るか・・・」
「あ、ですね」
部屋のコンセプトは考えてなかったな。
過ごしやすく寝転んだまま手の届く所に欲しい物が全部ある感じ。
あ、小さい冷蔵庫とかも欲しくなってきた・・・。