11話 男の子の夢
休み明けの月曜日で仕事が山積みだったにも関わらず全く集中出来ずにぼーっとして1日過ごしてしまった。
俺は完全にシングルタスクで同時にあれやこれやとやるのが苦手だ・・・。
まぁ・・・明日からは仕事に集中して。少なくとも・・・今日、皆に迷惑掛けた分は取り返さないとだ。
そんな事を考えつつした買い物は中々に楽しかった。
一瞬で皆への罪悪感なんてものは吹っ飛んで買い物に集中していたから。シングルタスクなので。
普段、買い物はネットで済ませる事が多いが。今回、店舗に行ったのは理由がある。
そこそこお高い買い物なので現物をしっかりと確かめてから買いたかった。そして・・・設置した姿を想像するとテンションが上がってしまって居ても立っても居られなくなってしまったからだ。仕事中にも関わらず。
とはいえ、いくつか買い物はしたが手で持って帰るには大きな物ばかりだったので実際に現物が配達されるのは週末になる。
そして、時は流れて念願の週末となった。
ピンポーン───。
「お、来たか。はーい」
ガチャ───。
「お届け物です。タナカ様でお間違えないですか?」
「はい」
「ではこちらにハンコかサインを」
「あ、じゃあ、サインで」
「こちらの荷物はどちらに置かせて頂ければよろしいでしょうか?」
「えっと、中までお願い出来ますか?」
「かしこまりました」
そう言うと配達員さんは後ろに居るもう1人の配達員さんに目配せをした。
「それでは失礼します」
「はい。お願いします」
サイズも重量もあるのでこれを俺1人で運び入れるのは無理だ。
「えっと・・・」
「あ、ここで大丈夫です」
「えっと・・・」
「あー、ここに立てて壁にもたれさせて貰っても良いですか?」
「わ、分かりました」
配達員さんが困惑するのも分かる。
大人1人が寝そべれるサイズの3人掛け用のソファを買ったんだけど。どう見てもこの部屋にそんな物を置くスペースは無い。
「ご苦労さまでした」
「はい。ありがとうございました」
きっと次の配達に向かうトラックの中であの2人はこの謎の配達について議論するんじゃないかと思う。
置く場所も考えずにデカいソファを買ったバカな男について。
「よし・・・」
実はこの1週間の間にいくつか買った物がある。
その1つがこの台車だっ!
配達員さんにクローゼットの中にある謎の部屋まで運んで貰えば良いんだけど・・・なんかこの部屋は内緒にした方が良い気がしてこんな要らない出費をしている。
クローゼットを開け、ソファに台車を噛ましてゆっくりと倒す。
「ぐっ・・・思った以上に重い・・・」
ゆっくりと台車を滑らせクローゼットの中に入って行く。
安物の台車なので台車本体から悲鳴が聞こえるがもうちょっとだけ我慢してくれ。
慎重に台車を進める。石畳だから段差で台車が悲鳴を上げまくっているがなんとか無事に謎の部屋までソファを持って来る事が出来た。
ピッ───。
明かりを点ける。
そう。わざわざ延長コードでこの部屋まで明かりを持って来た。
ピンポーン───。
「はーい」
次の荷物が来た。
今度は空気清浄機だったので玄関で受け取り謎の部屋に設置する。
そして、ソファを設置し終えたタイミングでまたしてもインターホンが鳴った。
次はサイドテーブル。
これもソファと同じ店で買ったから同時に配達されると思ったのに別々の配送だった様だ。
ちなみに配達員さんはさっきの人とは違った。
サイドテーブルをソファの横に置きゆっくりとソファに腰を下ろす。
「ふぃ~~~~~。イイネッ!」
さっきから動きっぱなしだったのでこのまましばらく動きたくない気持ちはかなり大きいが・・・まだ完成ではない。
「よっ・・・とぉ・・・」
果てしなく重くなりそうだった腰を上げてタバコと灰皿を取りに行き。ついでに冷蔵庫からビール・・・と思ったが流石にまだ午前中だし朝ご飯もまだだったのでギリギリ踏み止まりコーヒーにしておいた。
この1週間、何度も確認をした。
最初に通路に出た時に遭遇した謎の生き物。ヤツは通路の角を曲がった先でしか存在を確認出来なかったのでこの部屋付近には来ないのだと思う。
ただ、希望的観測過ぎるので買ってきたベニヤ板でこの謎の部屋から通路に通じる入口を封鎖している。
一応の安全を確保し。この1週間、念入りに掃除をした。
ソファがあり、サイドテーブルにはコーヒー。
シュボッ───。
「ふぅ~~~~~」
タバコに火を付けた途端に空気清浄機がゴォォォォと唸り声を上げだした。
店頭で確認した時よりもうるさい気がしないでもないが・・・店員さんに「換気出来ない部屋で使うので音は大きくても良いから強力なヤツを」とリクエストして勧めてくれたヤツなので音が大きいのは仕方ない。
やっぱり店頭と家での印象の差異はどうしようもない。
ソファも思ってたよりも遥かにデカかったし・・・。
と、想定外の事は多少あったが謎の部屋改め秘密基地が爆誕した。