1話 トマソン
久々の投稿となります。お久しぶりの方はお久しぶりです。初めましての方は初めまして。
リハビリ感覚でまったり投稿の予定です。
お読み頂ければ幸いです┏◯
「ありがとうございましたー!」
全力で頭を下げ先輩含む同僚達の乗った車を見送った。
この度、長年住み慣れたボロアパートが取り壊される事になり、引っ越しをしなければならない事を会社で零した所。有志が集い、焼き肉食べ放題+飲み放題で引っ越しを手伝ってくれる事になった。
4人に焼き肉か・・・思ってたよりも高くついたけど、引っ越し業者に頼む事を考えればまだ多少はマシなのかもしれない。
大学に通う為に住み始めた部屋だから14年もの長い間住んでいた事になる。
そう思うと感慨深いものがある。
そして、それだけ長く住んだからこそ。大家さんの計らいで次の部屋の契約も簡単に出来た。
職場への距離もほぼ同じくらいで、部屋も広くなり、ユニットバスから風呂とトイレも別になり、敷金礼金も免除され、家賃も前の部屋と同じで良いとの事だった。
まさに至れり尽くせり。
近所に住む大家さんであるおばあちゃんと仲良くしていた甲斐があったというものだ。
ここ最近は仕事が忙しくて挨拶程度しか交わしていなかったが。大学時代は大家さんの家のテレビの配線を頼まれたり、予約録画のやり方を教えたりしていた。
真夏に庭の雑草抜きをやらされて熱中症になりかけたのも今となっては良い思い出だ。
頼まれ事の度にちょっとしたバイト代とお礼にと晩ご飯にお呼ばれしたりしていて、それも今思うと懐かしい。
そんな縁もあって、大家さんの持つ別のマンションを格安で紹介して貰う事が出来た。
というのがこの引っ越しのあらましだ。
そして・・・実はこの部屋に来るのは今回が初めてだったりする。
仕事が忙しかったのもある。大家さんを信用していたのもある。言われてから引っ越しまでの期間が短かったのもある。
まぁ・・・出不精で休日は寝ていたかったという自堕落さが最大の理由ではあるが・・・。
自業自得ではあるが・・・今、その所為で途轍もなく困惑している。
「なんだ?このドア・・・」
クローゼットの中にドアがある。
「この向こうって・・・トイレだよな?」
まさかクローゼットからもトイレにいける謎仕様なのか?
「っても、先輩なにも言ってなかったしなぁ」
そう。
引っ越しの手伝いをして貰い前の部屋から今の部屋に着いた瞬間に・・・。
「トイレ借りるなー?」
「どうぞー」
「ふふん」
「??」
「家主よりも先にトイレを使うのが俺の趣味だっ!」
そう言ってトイレに入り。しばらくして・・・。
「やべぇ!」
「どうしました?」
「紙が無ぇ!」
まさかの大きい方だった。
そして、前の部屋でタイミング良く使い切ってまだ買っていない。
トイレットペーパーだけじゃなくティッシュも。
「すいません。今、切らしてて」
「うん、ティッシュでも良いからくれ」
「いや、ティッシュも・・・」
「なんでも良いから拭くもんくれ」
「えっと・・・あっ!制汗シートならあります!」
「え、えー・・・?」
「ど、どうします・・・?」
「スースーするやつ?」
「です」
「えー・・・どうなん?それ」
「さぁ・・・?まぁ、でも結構ガッツリとスースーするやつですっ」
「え、えー・・・?ま、まぁ・・・それしか無いなら仕方ないか・・・」
そう言うとトイレのドアを少し開けたので隙間から制汗シートを手渡した。
しばらくしてトイレから出てきた先輩は妙に晴れやかな表情をしていたので「あ、意外と良かったんだ?」と思ったが・・・。
「はうっ・・・」
と、時折、奇声を発し謎のポーズを取っていた。
「あのな?」
「え、はい」
「ケツ穴に制汗シートは・・・」
「え・・・はい・・・」
「最初の一瞬は。あれ?これちょっと良いかも?ってなるけどぉ~~~~うっ・・・」
「は、はい・・・」
「そ、その後に地獄が待ってるから。もしやる時は気をつけろ」
「いや、やらないですよっ」
「いーや、きっとお前も選択を迫られる時がきっと来るはずだ。いや、むしろお前ら全員俺と同じ目に遭えっ」
と、呪詛を振りまいていたがトイレの中に扉が2つあるなんて言ってなかった。
まぁ、別にそんなに考える必要なんて無くて。ただただこのドアを開ければ直ぐに答えが出る。
でも、何故か嫌な予感がして・・・クローゼットから出て一旦トイレを見に行った。
ガチャ───。
「まぁ、だよな」
当然、トイレの中にはドアなんて無かった。
となると、あのドアは一体どこに繋がっているのか?
何て言ったか・・・改装や建物の一部取り壊しやらで取り残された階段や扉等・・・そんな今となっては使い道の無い建造物を何とかって言った気がするけど・・・まぁ、このドアも設計ミスとかそんな感じなんだろうと思う。
謎のドアにビビり散らかしていたが幽霊の正体見たりなんとやら。
ただのミスかー。と、思いながらドアを開けると、そこには石畳の部屋があった。