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三題噺もどき3

さんぽ

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくごじゅうなな。

 


 柔らかな日差しが降り注いでいる。


 ようやく晴れの日が続くようになってきた。

 道沿いに植えられた木々は、瑞々しい緑をたっぷりと蓄え、一身に太陽の光を浴びている。

 時折風に揺られ、葉擦れの音が心地よく響く。

「……」

 交通量の多い大通りから少し外れた住宅街。

 車の喧しい音や、人々の忙しない足音なんてものは聞こえない。

 時折すれ違う犬の鳴き声や、洗濯を広げる音が聞こえるぐらい。

「……」

 今日はきっと、良い洗濯日和なんだろう。

 並ぶアパートやマンションのベランダに、洗濯ものや布団がたくさん並んでいる。

 数週間前まではこの並びにこいのぼりとか並んでいたんだろうか。

 今は、並ぶ洗濯物がこいのぼりに見えなくもない気がする。

 風にゆられて、ふわふわと。

「……」

 そういえば、私もそろそろ布団を干そうと思っていたんだ。

 最近夜も暑くなってきたし、寝具を夏用に変更していかないとなぁとぼんやりと思っていたのだ。

 冬場のあの、寒さゆえに布団に縋りたくなる気持ちを抑えながら起きるなんてことはもうない。暑すぎて布団をはぎ取りたくなることが増えてきた。

 それでも、雨が降ったりすると、少し冷えるので片付けるのが少々惜しい気はしている。

 まぁ、たたんで、とりあえずは置いておくのがいいかもしれないなぁ。

 押し入れに入れるのは、完全に夏になってからでいいかもな。

「……」

 衣服に関しては、必要最低限しか持っていないので、全部クローゼットにかけられている。

 夏物冬物関係なく。薄いTシャツ類はたたんで置いてあるし、気合を入れて衣替えなんてことはここ何年かやっていない。

 服に興味がないのもあるが、気に入ったものはそれなりに大切に使い古していくので、そうそう買い足すことはないのだ。

「……」

 その辺の美意識というのを、妹に問い詰められたこともあるが。

 まあ、そこは今に始まったことではないので、問い詰められただけでどうこうなるものでもなかった。

 ……だって、社会人になっていきなりメイクをしろなんて言われても無理に決まってるだろう。それまで興味もなかったやつなんてとくにだ。学生の頃から化粧をしていた女性はそうでもないだろうが。私は、全くもって興味も関心もなかったのだ。そんな奴がいきなり化粧なんてしてうまくいくわけはない。

「……」

 うんまあ。

 そんなことはどうだっていいのだ。

 今は、もう関係ない。

 社会人とか、大人とか、そんなしがらみは忘れる。

 今日は。

「……」

 しかし……。

 見慣れた街並みではるが、目的もなくこの辺りを歩くのは久しぶりだ。

 外出は何かしらの予定があったし、なくともこの辺りは歩かなかったから。

「……」

 意識して避けていたわけでもないのだが……なんとなくこの辺りはそそくさと通り過ぎていた気がする。

 ご近所づきあいなんてものは、もうないのだけど。

 なんとなく……ないものと分かっていても意識してしまうものというものはあるだろう。

「……」

 まぁ、たいしたものでもないので、こうして今日、自分の住む住宅街を歩いているんだけど。

 気にしすぎだったと言うだけだ。

 その「気にしすぎ」は、他人に言われると少々刺さるのだけど、自分で思う分にはさして問題ないあたり、自分の自己中さが現れて少々嫌気がさす。

「……」

 そんな自己嫌悪はあとでするとして。

 今はただ。

 のんびりと歩くことにしよう。

「……」

 ふと視線が横にそれる。

 コンクリートの隙間から、小さな野の花が覗いていた。

 他の花々から離れ、一人静かに風に揺れている。

「……」

 その時、ふいに頭の中に流れたのは。

「野に咲く花のように」という有名な曲。

 なんだか久しぶりに思いだした曲だ。

 のんびりとした曲調と、柔らかな歌声。

 どれだけ辛い人生でも、必ず晴れはくると。

 静かに、確かに、歌う。

「……」

 まだ、そんな風には。

 生きていける自信はないし。

 そんな風に。

 考えられる勇気はないが。

「……」

 帰ったら久しぶりに聞いてみよう。

 少しは。

 何かが。

 変わるかもしれない。





 お題:布団・野・縋る

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