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9.婚約者決定

 会議場から帰って来て放心していたら、いつの間にか眠っていたようで、侍女から声をかけられシアーナスは目を覚ました。


「殿下が来られました」


 辺りは、もう陽が傾く頃だった。いつの間にかサイナスもいなくなっていた。


「遅くなったけど、約束してたから来たよ」


 いつも通りの穏やかなレイザリオンだった。

 後ろにコーエンが控えていたが、いつもの自信満々の渋面がなく自信なげな表情だった。

 会議場で、側近のコーエンも下位貴族達に攻められたのかもしれない。

 コーエンでも落ち込む程の会議だったのに、いつも通り振る舞うレイザリオンが神々しく思えてきた。


「殿下お疲れでしょう。申し訳ありません。わざわざ」


 心から労いの言葉が出てくる。


「いや、良いんだ。だけど、僕はシアーナス嬢に謝らなければならない」


「はい.....。どのような...謝罪でしょうか?」


『カムワン家に公費を補助するなんて』シアーナスの頭の中には、立ち聞きの声が蘇った。


(カムワンの公費補助がなくなってしまう?)


「申し訳ないのだけど、約束を履行(りこう)してもらう事になった」


「んん..ん?..では、約束通り公費は補助して頂けるのですか!?」


「ん?ああ、それはもちろん。だけど、今僕が言ってるのは僕の婚約者にしばらくなってもらう事だよ」


「あっ」


 立ち聞きの衝撃で、レイザリオンの提案を忘れていた。

けれど、あの場で殿下が婚約者の事を言っても、一瞬で却下されたであろう事は想像がついた。


「駄目だろうか?」


 困った様子でレイザリオンはシアーナスを見つめ訴えている。

 あの糾弾の始まりは、新たな婚約者候補の話をしたせいだったのかもしれない。余計な事を言ってしまったと反省した。このような状態でレイザリオンの提案を断る事などとても出来ない。

 王太子妃など自分に務まるとは思えないが、とりあえず今を乗り切る事がシアーナスにもレイザリオンにも必要だと思った。


「はい..約束ですから。私で良ければしばらくの間よろしくお願いします。あの場で、婚約者の事を言うのは大変だったでしょう。余計な事を言って申し訳ありませんでした」


 レザリオンの表情が急に固まった。


「なぜ、話し合いの事を知っているの?」


 しまったとシアーナスは思い、思わず両手で口を覆った。


「あ、あの...」


 シアーナスがアワアワしていると、


「大丈夫だよ。シアーナス嬢に聞かれて困るような内容ではないから。ただ治安上なぜ知っているのか確認したくてね」


 レイザリオンがいつもの表情と優しい調子で尋ねて来た。


「ごめんなさい。その...兄が王宮の中に、塔の上に出る秘密の通路があるのを見つけて..。行ってみたら会議室の二階の裏に出て、そこで荒々しい声を聞いてしまったんです。話し合いがあっているのを忘れて...すみません。でも直ぐに引き返しました」


 シアーナスは必死で言い訳をした。よく考えたらこれは色々まずい気がした。

 ちらりとコーエンを見ると、さっきまでの沈んだ様子はどこにもなく、いつもの鋭い眼光を取り戻していた。それは魔王と言って良いほど。


「そうか....秘密の通路があるんだね。今度僕にも教えて欲しいな。だけどこれは王家の秘密だろうから黙っていてね」


 レイザリオンがほっとしたような、軽い感じで言ったのでシアーナスは安堵した。


「はい。分かりました」


「よろしくね。婚約者の事も助かったよ。明日の話し合いで発表しよう。明日は午前中から今日の続きだ。それが終わってカムワンの公費補助の書類の件と、以前話していた他国への技術供与の話を出来たらと思っている」


「殿下、話し合いはいつ終わるか分かりません。午後まで続くかもしれません」


 コーエンが渋い顔で口を挟んだ。


「遅くなってもいいかな?」


「は、はい」


「金額はサイナスには提示しているが、おそらくそれで大丈夫だろうと思う。ちなみに百万ゴールドだ」


「ヒャ、百万!?」


 シアーナスは驚いた。お金に疎いシアーナスでも百万ゴールドは大金だと分かる。確か王都に来る前に買った靴が二十ゴールドだったと聞いた。その五万倍!

 ちなみに光石の原料は掌に収まるサイズで二ゴールドだ。


「わ、私はお金の事はよく分からないので、兄に任せます」


 それだけ言うのが精一杯だった。だから下位貴族達が騒いでいたのかと納得した。王宮の夜会でレイザリオンは十分な光石が準備出来なかったと言っていた。そんな予算のない中で大丈夫かと思ったが、レイザリオンの後ろに立つコーエンの魔王顔が目に入り口をつぐんだ。


(これ以上、余計な事は言わないでおこう)


「では明日、遅くなるようなら夕食をしながら話をしよう」


 コーエンの魔王顔と百万ゴールドの衝撃で、婚約者に選定された事はシアーナスの記憶の後方に追いやられた。






 翌日、サイナスは塔への未練をシアーナスに語った。


「滞在中にもう一度行ってみたいな。それか、この研究が終わったら調査させてもらえないかな」


 一度火がついた知的情熱が消えないようだ。


「お兄様、秘密の通路は王家の秘密だから見つからないようにして下さいね」


 コーエンの魔王顔が頭に浮かぶ。


「だけど、こんなに簡単に見つかるんじゃ秘密にならないだろうけどね。それにしても、話し合いにカムワン家は呼ばれなかったな。今回呼ばれたのは、どんな基準なんだろう?」


「補助金の事があるから当事者はいない方がいいのでは?お兄様、百万ゴールドって大金ですよね?」


「大金だよ!サーザン公爵家からの毎月もらうのは五千ゴールドだよ」


「約二百倍!年に換算すると十六年と八ヶ月分ですね。

 国からそんなにもらっていいのでしょうか?確かに予算の制限がなければ、もっと色々な材料を使えますけど、材料が高くなれば価格も高くなって使う人が限られますよね?」


「そうだな。でも国に必要な大きな物を作れるかもしれない」


 そういうと、サイナスは塔の可能性について話し始めた。シアーナスも話を聞いているうちにサイナスのペースに巻き込まれ、二人はいつものように議論を交わした。


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