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3.お茶会での出会い

 いよいよ今日が初めてのレイザリオンとの交流会だ。

 領地に引きこもっていたシアーナスは王宮に行くのも初めてだし、王族に会うのも初めてだった。

 多少のワクワクする気持ちは、「どさっと座ったら、ドレスがシワになります!」だとか、「いつもうっすら笑みを浮かべておくのです!」など、逐一シアーナスの行動に口を出すアイリーンにすっかり踏み潰された。

 

 王宮の庭園に設けられた丸いテーブルには、すでにレイザリオンが着席していた。レイザリオンの両隣に椅子が二脚ずつ置いてある。残りの席は椅子とりゲームだ。

 王太子から一つ離れた席をシアーナスは目指したが、


「まあ、シアーナス様はこちらへ」


 アイリーンがシアーナスの手をぐいと掴んでレイザリオンの横の席に座らせた。少し遅れて来たタニアとメイリーはタニアが反対側の王太子の横に座り、もう一つのベストポジションには、メイリーが腰を下ろした。


「すまないが、今日からしばらく僕に付き合ってもらう事になる。出来るだけ早めに婚約者を決めたいと思っている」


 レイザリオンが挨拶し令嬢達がそれぞれ名乗ると、しんとなった。

 時々聞こえる鳥の鳴き声にシアーナスが耳を傾けていると、

「んんっ」と小さな咳払いの声が聞こえた。

 タニアだ。

 シアーナスと目が合うと、目だけレイザリオンのいる方に動かした。器用だなとシアーナスが感心していると横からアイリーンに小突かれた。作戦を決行しろと言っているようだった。

 シアーナスは心でため息をついたが、何せ令嬢圧が強い。タニアの眼球横移動、アイリーンの小突き、それに加えメイリーは、小首を傾げ顎を動かしシアーナスを促す。知らない振りなど出来なかった。

 対人関係初心者のシアーナスに、レイザリオンの気を引くなど不可能に近いのに。

 

 仕方なくタニア直伝のうるうる瞳を作るため、瞬きせずにレイザリオンを見つめた。だんだんと瞳が潤んできた。

 レイザリオンはそんなシアーナスに気づいたようだ。青い切長の瞳が近づいてきた。レイザリオンのダークグレイの髪が風に揺れ、爽やかな香りがした。


「どうしたの?目が痛いの?」


 シアーナスは驚いた。

 こんな返しはタニアに教わっていなかった。タニアの顔を見ると無表情だったので仕方なくタニアに教わった『どうしたの?何か言いたい事があるの』の返しを応用する事にした。


「な、なんでもないです。ただ胸が苦しくて...」


 レイザリオンの表情が一瞬無くなった気がした。タニアの眉がヒクヒクと動いているのが目に入った。

 妙な間があった後、レイザリオンが心配顔で言った。


「それは大変だ。医務室で休むかい?」


 思っても見なかったレイザリオンの言葉に、シアーナスは嬉しくなった。


「休みます!医務室に行って来ます」


 この場を離れられる事に安堵し、さっと席を立ち、


「それでは行って来ます」と礼をとった。


「シアーナス様、医務室はどこか知ってますか?」


 アイリーンの冷たい声が聞こえた。


「あっ、いいえ..」


「だったら、私が案内しますわ」


 タニアが席を立った。眉に加え口元もピクピクしていた。

 どうも失敗したようだと感じて、シアーナスは身を縮こまらせた。


「いいよ。僕が案内して来るよ。君たちはお菓子を食べていてくれる?」


 レイザリオンのその声で、周りにいた侍女達が一斉にクローシュを取って中に入っている菓子をテーブルに並べ始めた。その菓子の華やかさに三令嬢は気を取られたようだった。シアーナスはレイザリオンに背を押され「行くよ」と耳元で(ささや)かれた。シアーナスは半歩前を行くレイザリオンについて行った。


「はぁぁ」


 茶会の席が見えなくなるとシアーナスは肩を落とし声を漏らした。


(なんとも疲れた)


 ふふっと小さい笑い声が聞こえて前を向くと、レイザリオンの笑顔が見えた。


「まだ何も始まってないのに、もう疲れたのかな、そうか、胸が苦しかったんだよね」


 ふと、そういう設定だった事をシアーナスは思い出した。レイザリオンはシアーナスにすっと手を差し出した。


「ごめんね。気が利かなくて。倒れてはいけないから手を貸して」


「えっ、は、はい..」


 シアーナスがおずおず手を出すと、レイザリオンはその手を取って並んで歩き始めた。三令嬢より圧を感じないレイザリオンの物言いに、シアーナスはほっとしていた。


(良かった。殿下が良い人のようで)


 家族や使用人以外の男性に触れられた事は初めてだったが、不快さはなかった。

 ふと、タニアの言葉を思い出す。『躓いた振りをして助けてもらう』

 機会は今だろうが、そんな高度な技はシアーナスには実践出来そうになかった。それに令嬢達が何と言おうと、レイザリオンには四人の令嬢の中から自ら婚約者を選ぶ権利があるのだ。


「シアーナス嬢はもしかして好きな人とかいるのかな?」


 シアーナスは急に尋ねられ驚いた。数日前のお茶会の再現のようだ。


「い、いいえ」


 シアーナスにはそもそも異性との接触がなかったので、初恋もまだだった。


「じゃあ、結婚するにあたっての条件はあるかな?」


「条件?」

 

 シアーナスは今まで真剣に結婚など考えた事がなかった。しかし家族として暮らすなら今の家族と同じような生活が出来る相手がいい。


「そうですね...カムワン家で一緒に暮らしてくれる人でしょうか。私が家族と一緒に研究しても許してくれる人?ですかね..」


「はは、そうか、それだと今のままでは、僕は希望に沿わないね」


 そう言われてはっと気づいた。婚約者候補で招かれているのに、お断りするような不躾(ぶしつけ)な事を言ってしまった。


「あ、あの...申し訳ありません」


 シアーナスは立ち止まり(うつむ)いて頭を下げた。


「気にしないで。ほら医務室はそこだよ」


 回廊の先にドアが見えた。後ろに付き添っていた侍女が先回りしてドアをノックするのが見えた。


「じゃあ、行ってらっしゃい。今度会うのは夜会だよ」


 そう言ってレイザリオンはにこやかに去って行った。レイザリアンの穏やかさと爽やかさが心地良かった。王都に来て一番親しみを感じた人と言ってもいいだろう。

 

 医務室の医師からはもちろん問題なしと太鼓判を押され、「戻りますか?」と侍女から問われたが、「せっかくここまで来たので」と言い訳し、シアーナスはアイリーンが迎えに来るまで、ぐっすり眠った。


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