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2.レイザリオンの秘密

 レイザリオンは、近衛兵のルイから渡された手紙を読んでいた。

 これは、アーカイアにいるカーサルが一度メンフィス伯爵家に送った手紙を、メンフィス家従者がルイに渡すという長い経路を経て来た手紙だ。しかも中は一見すると、近衛兵の訓練状況報告の内容になっていた。レイザリオンはカーサルに教えてもらった暗号で文を解読した。


『ウコナックの密偵がアーカイアで捕縛。自白した事をサリ殿下へ報告した。アーカイア軍は秋桜の日に出立』


(ここまで長かった)


 レイザリオンは婚約者候補達とのお茶会に行く準備をしながら、過去を振り返っていた。 



 国王が侍女を愛妾にしたのはレイザリオンが六歳の時、王妃がオルメリオンを出産した頃だった。王宮の中にも仕方ないと容認する空気があって、王妃も許すしかなかったのだろう。

 王妃が床上げしてからも王の愛は王妃に戻って来なかった。

 プライドの高かった王妃は、仕返しとばかりに自分も愛妾を抱えるようになった。

 そんな両親の事情をレイザリオンが知ったのはもっと大きくなってからだ。

 

 オルメリオンが生まれたばかりの頃、レイザリオンは母の部屋に毎日遊びに行った。


『可愛いでしょう。貴方もこんなに可愛かったのよ』


 母の言葉は今も胸の奥に残っている。

 乳母にオルメリオンの世話を任せるようになった頃から、だんだんと母の表情が暗くなっていった。

 レイザリオンが話しかけても、曖昧な返事しか返って来なくなった。

 そして、母がレイザリオンとオルメリオンを訪ねて来る回数が徐々に減っていった。


 いつの間にか、親しかった侍女や優しかった従者が周りからいなくなって行った。変化は少しずつで幼かったレイザリオンがおかしいと気づいた頃には、すっかり王宮の雰囲気が変わっていた。

 侍女達は質が悪くなり、新しい家庭教師はレイザリオンを愚鈍だと叱責した。

 徐々に、やる気が失せていった。一度そうなると何もかもがどうでも良いように思えてくる。

 そんなレイザリオンを支えたのは、オルメリオンとその乳母トリーの存在だった。屈託なく笑うオルメリオンはレイザリオンを癒し、『オルメリオン殿下を守れるのは、レイザイオン殿下だけです』『貴方が賢い事は私が知っています』という、トリーの言葉が力をくれた。


 

 レイザリオンは自分とオルメリオンを守るために、周りを注意深く観察するようになった。そして愚鈍な振りをした方が有利だと気付いた。それからは周りに合わせて演技をして生きてきた。その傍で、必要な知識を独学で身に着けて行った。

  

 長年演技していると演技している者に気づけるようになる。

 王と王妃の愛妾が密偵だと気づいたのは、いつの頃だったか。

 王族の分際で騙されるのが悪いのだろうが、その責任は王家の直系に重石のようにのし掛かった。


 


 転機はレイザリオンが十二歳の時、婚約締結の為にウコナックに行った時だった。

 ウコナックはアーカイアに次ぐ大国。ノーインはウコナックの王女との結びつきを、国の安定の為に願い出たのだった。

 その条件は、その頃カムワン家が発明した光石をウコナック以外の国に流通させない事。ウコナックの宰相フーガが出した条件だった。


 王宮の庭で侍女や護衛に囲まれて、レイザリオンはウコナックの王女サリと初対面した。同じ歳のサリは神妙に大人しくしていたが、レイザリオンはサリに自分と同じ空気を感じた。


「向こうの庭園を見たいです」


 無邪気さを装い、サリと二人で話せる機会を作った。 

 護衛達と距離を置き、花を見るふりをしながらレイザリオンは話しかけた。


「サリ殿下は、なぜ演技をしているのですか?」


 一瞬驚いた顔をしたが、すぐに薄い微笑みを顔に浮かべた。


「父が何か薬を飲まされている」


 その一言でレイザリオンは状況を察した。サリの父ウコナックの王は、数年前から床に伏せていた。


「うちも似たようなものなんだ。手を組んで欲しい」


「貴方には力がないわ」


「一番の力は知と情報。協力して力を作ろう」


 手を取り合う二人を、護衛や侍女達が温かく見守っていた。




 ウコナック宰相は密偵を組織し暗躍させていた。

 情報戦を制する為に、サリは信頼する者をアーカイアに送った。

 その伝手で、レイザリオンの側近候補のカーサルをアーカイアに留学させる事が出来た。

 アーカイアは、ウコナックの度重なる密偵活動やハニートラップにうんざりしていたので、サリから得られる密偵の情報に喜び、信頼を作って行った。

 

 しかし、一年前、突然婚約解消を願い出る通知がウコナックから届いた。

 サリとウコナックの侯爵令息の関係が公になったので、レイザリオンとの婚約を解消したいと言うものだった。

 しかもサリの相手の侯爵令息は、ノーインのサーザン公爵令嬢アイリーンの婚約者。彼らの結婚式でサーザン公爵がノーインを離れた隙に、事を起こす予定だったはずなのに。

 どうして筋書きが変わったのか知らされず、そんな筋書きではサリの有責になるので肩身が狭くないかと心配した。


『大丈夫か』手紙に暗号を書いてサリに送ると、

『一石二鳥。大丈夫』と返事が来た。


 その返事にレイザリオンは若干傷ついた。

 二人に恋愛感情はなかったが同志としての信頼は深かった。事が終わったらサリと本当に結婚しても良いと思っていたくらいに。

 計画を練り直さなければならない事にも苛立ちを覚えた。好きな人が出来たから計画を変更したいと、一言事前に伝えて欲しかった。


 しかし、刺客が度々やって来るようになり、日常に気を使わなければならなくなったので過去を振り返る余裕が無くなった。サリとは直接連絡出来なくなったので、こちらの計画の変更の事を詳しく伝えていなかったが、同志としての絆を信じて前に進んで来た。


(準備は整った)


 後は、カムワンの令嬢をこっちの手中に収めれば下準備完了。

 カムワンが光石の研究資金の為に領地を失ったのはもう十年程前の事だ。本来なら国をあげて保護すべき研究を行っているのに自費で研究費を払い、あげく領地を失くし資金的にサーザン公爵に頼らなければならないようにされた。

 困った事にカムワン家から苦情もなかった。

 彼らが賢く立ち回ってくれれば、サーザン公爵がこれほどのさばることはなかったのにと、レイザリオンは内心カムワン家を侮蔑していた。


(引っ掛かってもらうよ)


 レイザリオンは心の中で(つぶや)きお茶会の会場に向かった。



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