蝶~呪われた少女~
「蝶~呪われた少女・登場人物紹介」
1.「カイト=ノースダリア」19歳 男性 天の一族
背中に翼を持つ空に浮かぶ島ヘヴンに住む。
天の一族の青年。蝶の神を信仰している一族の一人で
家族の命を奪った一族を恨んでいる。
地上に降りた日にマリアと出逢い恋に落ちる。
2, 「マリア=シルク―ド」 16歳 女性 地の一族
地に住む、蜘蛛の神を信仰する一族の銀髪の少女。
カイトが地上に降りた日に出逢い恋に落ちた。
3.「天の一族の長・地の一族の長」
呪いで愛し合うふたりを引き裂こうとする。
4.「蝶の神・蜘蛛の神」
天と地の一族に信仰されている神々。
僕の名は、カイト。カイト=ノースダリア。19歳。背に翼を持つ天の一族という、
蝶の神を信仰する一族の末裔だ。空に浮かぶ島、天の国ヘヴンは穏やかで平和な国だ。
だが、それは表面上だけ、裏は掟という鎖で住人達を縛る牢獄だ。厳しい掟が僕の身を縛る。
そして、家族を奪った。僕は天の一族というもの自体が許せなかった。
そんなある日、僕は地上に出かけた時に地に住む地の一族。クモの神を信仰する
一族の少女のマリア=シルク―ドと出会ったんだ。
彼女は16歳で、銀髪の長いロングヘア―が良く似合うとても、綺麗な女の子だった。
僕は一目惚れをしてしまった。しかし彼女も一族の掟に苦しんでいた。
それは、天の一族と恋愛をしてはならない。結ばれてはいけないという掟だった。
僕と同じだ。僕の父さんも地の一族の母さんに一目惚れして僕が生まれて…
そして、13になる春に一族の長に囚われ両親共、獄中で病気になって死んでしまった。
マリアは僕の境遇を聞いて涙を流してくれた。僕はマリアと愛し合い一線を越えた。
「私はあなたが大切なの」彼女は、そう言って僕に身をゆだねてくれた。
愛し合う僕たちは、将来のために話し合った。だが、天の一族と地の一族の長は
それを決して許さなかった。
「掟を破った少女に報いを!」
そう告げると、天の長と地の長はマリアに子供が生まれない呪いを掛けた。
嘆き悲しむマリア。僕は怒り狂い一族に戦いを挑んだ。
だが、実力は歴然。翼を奪われた僕は地に堕とされ、天へと帰れなくなった。
「ごめんなさい…カイト。私のせいで」
悲しむマリアに僕は慰めるようにキスをした。
「僕の方こそごめん。僕が掟を破って君と契ってしまったから…」
マリアは首を振り、涙をいっぱいに溜めた瞳で僕を見つめる。
僕は自分のふがいなさで胸が張り裂けそうになったが、マリアの方が呪いを受けたんだ。
その心の辛さは計り知れない。本当にごめん。君と生まれて来るはずだった赤ん坊にも
本当に申し訳ない。僕は自分と、両一族の長達に恨みと殺意を抱き始めていた。
そうだ。僕は突然、天の島、ヘヴンの図書館で読んだ魔導書の一文を思い出していた。
地の者が呪いを受けし時、天の者が魂振りの舞いを舞うべし。
さすれば、忌々しきその呪いから解放され、地の者は救われる…誰が書いたのかは不明だが。おそらく、天の一族を良く思っていない者なのだろう。
本は大事な部分が無造作に破られていた。だが、これだけ分かればマリアは助けられる。
「たとえ、どんな運命が待ち受けていようとも、マリアだけは救って見せる!」
突然、声を張り上げた僕にマリアは驚いたが。悲しげな表情を浮かべている。
「カイト…何をしようとしているの?お願いだから、危険なことはやめて」
「大丈夫だ。マリア!何も危険なことなんてない。君は、何も心配することはないんだよ」
僕は、マリアに心配を掛けないために優しく言い聞かせた。大丈夫だ、マリア。
君だけは守って見せるから。
次の日、僕とマリアは儀式に臨むため身を清めてひとけの無い森の中を選んだ。
僕は魔導書に書かれている通りに、魂振りの舞いを始めた。
「僕の救い」
「私の救い」
「「さあ、魂振りの舞いを舞おう」」
僕とマリアは高らかに魂振りの言霊を唱えた。
僕が舞いを始めると、マリアの身体からクモの糸が噴出して僕を襲ってきた。
邪悪な呪いが舞いを止めさせようとしている。
僕は、この呪いにからめとられて命を落とすかもしれない。
「やめて! カイト、あなたが死んでしまうわ!」
マリアが悲痛に泣き叫ぶ。だけど、止めるわけにはいかない!
君を失うぐらいなら、僕という存在もまた、無意味なのだから。
ああ、天の呪いを受けた君。それを解くのは僕しかいない。
天の者と地の者。結ばれないのなら、何のための力だろう。
何のための愛だろう。
カイトは、それでも止めずに舞いを舞っている。
呪いの糸はあなたを蝕むかもしれない。
それでも、あなたは笑いかけてくれる。
「君を助けたい!必ず、救ってみせる!」
私はあなたが大切なの。お願い。私はどうなっても良い…あなたに生きて欲しいの。
朝つゆが落ちる頃、きっと僕は絶命してしまうだろう。
呪いの糸に生命が奪われていくのが、まざまざとわかる。
それが運命なら、マリア、君に僕の命をささげよう。
僕がいなくなっても、君は生きてくれ。
舞いが終盤に差し掛かった時。空から突然、光の束が降り注いだ。
光は僕とマリアを包み、マリアの呪いの糸が溶けてゆく…
「祝福の光だ…!」
「呪いが解けていくわ」
僕達はふたりで、光の中で抱き合って喜んだ。
呪いを掛けた天の長と地の長は、呪いが跳ね返って死んだらしい。
僕とマリアは新しい長に任命された。
それから数日経ち、陽だまりの丘で僕達は弁当を食べながら話し合っていた。
「マリア、聞いてもらいたいことがある。」
真剣な僕にマリアは、少し不安そうな表情を浮かべている。
「……なあに?カイト。もしかして、呪いのこと?」
勘が鋭い彼女は、気が付いているようだ。
「ああ、呪いのことだ。落ち着いて聞いてくれ」
「うん…」マリアはうなずく。
「僕は、呪いの糸に命を吸われた。寿命の長さは分からないが、
君より生きられないかもしれない……」
「カイト!ごめんなさいっ。私のせいで…」
泣きながら謝るマリアの額にキスをして、僕は軽く唇にキスを落とした。
「君のせいじゃないから、呪いを掛けたあいつらが、全部悪いんだから」
「でも、カイトが早くいなくなるなんて。嫌よ!私も一緒に死ぬわ」
優しいマリアからこんな言葉を言わせるなんて、ごめんな。でも…
「死ぬなんて言わないでくれ…僕は君だけには、生きていて欲しい」
「いやっ!このお腹には、あなたの子供が宿っているのに!」
「何だって…?子供だって!?子供は呪いの力で、死んでしまったはずじゃ」
僕は驚き彼女のお腹に耳をあててみた。
とくん、とくんと鼓動が聞こえてきて彼女のお腹を蹴った感触が僕の頬に当たる。
まぎれもなく何かが、彼女のお腹にはいた。
「マリア!」
「うん、そうよ。あの光が降り注いだ日に、命の鼓動が聞こえてきたの。
呪いに殺められたと思っていたのに。この子は、懸命に生きていてくれたっ……」
マリアは嬉しそうに泣き崩れた。
おそらく呪いを解いたから。いや、神がくれた奇跡かもしれない。
「地の一族に伝わる秘法で、呪いによる寿命を取り戻す物があるみたい…
私、調べていたの。大丈夫よ、カイト。今度は私が、あなたを助けるから!」
なんてことだ。彼女はこんなにも、強かったのか。これまでの弱気なマリアじゃない。
子を持つ母の顔だ。
「分かった。僕も諦めないよ。マリアと、生まれて来る子供のために生きる!」
「ありがとう。カイト…私、嬉しいっ」
マリアは僕に抱き着いてきて、暖かな温もりと香りが僕を包んだ。
僕はマリアを抱きしめ返して、彼女の柔らかい唇にキスをした。
その後の天と地は、僕とマリアの尽力で徐々に良い国になっていった。
僕の寿命は秘法により、元通りに戻りマリアと娘のレナと幸せに暮らしている。
あの呪いを解いた光は、天の神の蝶と地の神のクモの加護だったと僕は今でもそう信じている。
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最後までお読みいただきありがとうございます。