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復縁

作者: 咲花 茉莉

 最悪な一日が始まりそうだ。


 起きて早々、顔を顰める。スマホ依存症の私は、朝からInstagramを開いていた。そこに表示される一件の通知。


 kento_4683があなたをフォローしました。


 その名前を、たった今、嫌な記憶とともに思い出した。元カレの名前だった。


 今さら何でフォローするんだ。いや、今さらだからか。ソイツの魂胆が分からず、眉間のシワがさらに深くなる。


 ソイツとの縁は、4年以上前、別れた瞬間に切った。Instagramも、LINEも、写真も、プレゼントも、ソイツに関わるもの全てを別れとともに消し去った。4年も経てば、記憶も薄れ、もうほとんど覚えてなどいなかった。


 所詮ソイツへの想いはそれくらいのものだった。


 ソイツも、別れた直後こそは定期的にInstagramで連絡を取ろうとしてきた。それも無視をし続け、徐々に連絡頻度を落としたソイツに、私は何の未練も抱かなかった。


 今さらフォローしてきた理由はなんなのか。特にないのだとしたら、朝からソイツのことを考えてしまう私が馬鹿みたいだ。未練などないとはっきり言っているのに、心のどこかでまだ私のことを好きなんじゃないかと甘い考えが浮かぶ。くそ、最悪だ。


 ソイツの私へのフォローを外してやろうかと考えたが、思いとどまった。今私は幸せですよと、ストーリーでソイツに思い知らせてやろうかと、そのままにしてやった。




 「…っていうことがあってさあ。」


 大学の食堂で友達に愚痴る。


 「今さらフォローしてどうするん!」


 まるで居酒屋にでもいるかのように、水の入ったコップを机に叩くように置く。


 「狙ってるんじゃない?ワンチャン」


 「それか、俺こんなに可愛い彼女いたんだよね〜みたいな自慢するためとか?」


 「たまたま見つけたとか」


 言葉の通り、三者三様の返事。


 「いやでも、たまたま見つけた元カノフォローする?」


 話のネタにするのはありそうだと、納得する。私は人より可愛い自覚があった。中学時代も高校時代も、告白されることは多かったし、それなりの数付き合ってきたと思っている。


 以前も別の元カレからInstagramでフォローされ、それを何となくフォロバしたら何度もDMを送って来られたことがあった。いわゆるだる絡み。何度ハートで終わらせても、私がストーリーをあげる度に反応してくるのだ。それに嫌気がさした私は、結局彼のフォローを切った。


 もともと人間関係をすぐに断ちたがる傾向にあった私に、友人関係にしても恋人関係にしても、復縁などは到底無理だった。


 「うーむ、フォロー消そっかな」


 ぽつりと呟く私の言葉を、隣に座っていた友人だけは聞き逃さなかった。


 「えーでもさ、なんかあるかも知んないからフォロバしてみなよ〜」


 その言葉が、彼女の暇つぶし解消のためであることは何となく理解出来た。フォロバして、その後面白いことが起きるなら万々歳だ、そんな他人事だから言える言葉に、「じゃあフォロバしとこっかな。」と言いソイツをフォロバする私も、たいがいだった。だって暇だし。なんて言い訳をして、スマホを閉じた。




 「あーやっぱり…」


 大学から家に帰りベッドに転がる。普段外でスマホを触りすぎないように切っている通知を、またつけ直してInstagramを開く。すると通知が何件か。うち一通がソイツからのDMだった。


 “久しぶり!元気してた?”


 そのメッセージに、またもや顔を顰め一度アプリを落とす。数分前に来ていたメッセージに今すぐ返すのも癪だと、別のアプリを開いた。


 しばらくTwitterを眺めながらも、考えているのは彼への返信。イイ女ならなんて返すんだろうか、そもそも返信しないのか。考えるのはソイツへの八方美人な返信の仕方。4年以上も前に別れたのに何を今さら。好きでもなんでもない相手にさえ、好印象を与えようとする自分に嫌気がさしながらも、いつの間にか開いたInstagramのDMに、“久しぶり”の言葉を手のひらの絵文字とともに、ぶっきらぼうに返信していた。


 その後続いたDM。


 “ストーリーのメンションでいたからついフォローしちゃったんだよね。今実家暮らし?”


 “あーね。今一人暮らししてるよ〜”


 “俺も!どこ大?”


 個人情報を詮索されるのは好かない。特に用事もないのであろうDMにすぐに嫌気がさし、“さあ。”とはぐらかす。


 結局、その後もめげずにくるDMに全部ハートだけで終わらせていれば、そのうちDMが来なくなった。やめたがっていたのは私なのに、いざ会話が終わるとどこか胸に穴が空いたような感覚を覚える。我儘な自分に嫌気がさした。




 またある日のことだった。大学の友達と京都旅行に出かけた際、ソイツに会った。ソイツは京都にある大学に進学していたようで、出くわしてしまった。


 「あれ、久しぶり!何、旅行?」


 馴れ馴れしく話しかけるソイツに、「…誰?」と呟く。あなたのことなんて知りませんよ、という嘘にソイツは気づいたのか知らないが、「ケントだよ、最近DMしてたじゃん。」とケラケラ笑う。


 ああ、そういう風に笑ってたっけかなと懐かしくなり、顔が緩みそうになるのを必死に引き締める。


 「旅行。そっちは誰と来てんの?」


 「ん?一人で。この辺に家あるから、散歩。」


 落ち着いた声で話すケント。ああ、この声が好きだったんだっけ。


 その後数分話し込み、何事もないかのようにお互い手を振り別れる。ケントの行く先には、一人の女の子がいて、その女の子とケントは手を繋いで歩いていった。


 ああ、なんだ。過去に囚われてるのは私の方で、ケントの中に私はもういなかった。


 すでに彼女がいるのに、元カノをフォローするのは良くないよ。


 彼女と来てるのに、一人で来たなんて嘘つくのは良くないよ。


 以前私にしてたのと同じじゃん。


 そういう所が、嫌いだったんだよ。それに耐えられなくて、別れたんだよ。


 彼との毎日が途端に浮かび上がり、目に溜めきれなかった涙が零れたのをすぐに拭う。


 今日はなんて最悪な日だ。やっぱり復縁なんてするもんじゃないよな。


 Instagramを開き、彼のプロフィールへむかう。


 彼女の存在を見せない投稿の数々。それを見て薄ら笑う。嫌な男。


 はぁ、早く新しく彼氏作ろ。今度は私をちゃんと愛してくれる人。


 ソイツの投稿を一通り見た後、ブロックをした。


 またご縁がありましたら、その時はまた話してやってもいいかな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当にありそうなシチュエーションだなぁと思いながら読ませていただきました。 面白かったのです。 ヒロインに新しい恋人ができますように^_^
2022/08/22 22:50 退会済み
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