2 身の回りの動物たち
2 身の回りの動物たち
生まれて間もない頃は、ワシやタカなどの猛禽類が空から襲ってくるので、親がぼくたち子供に十分気を配る必要がありました。
猛禽類に輪をかけてたちが悪いのがカラスです。猛禽類は数が少なく単独行動するのですが、カラスはやたらめったらたくさんいて、集団行動をとることもしばしばです。カラスは獲物を捕まえてもすぐに殺さずに嘴や爪でいたぶります。さらに他人の獲物を横取りまでします。相手がずっと体の大きなトビであったとしても怯むことがありません。勇気があると言えばそうも言えるのですが、気性が荒いのです。トビも少しのろまでドジなところがあるので、カラスにしてやられても仕方のないところがあります。
はっきり言います。ぼくはカラスが嫌いです。カラスにはカラスの事情があるのかもしれませんが、獲物を狙いすました時のあのしつこさはなんとかならないのでしょうか。粘着気質そのものです。どこか底意地が悪いようにさえ思えてならないのです。
そもそも真っ黒い姿が不気味ではないですか。同じ黒でもテカテカ光らずに、艶消しの黒にでもしてくれたら、少しは上品に見えてよかったのにと思います。低い声でクワァーと鳴く声も不吉なものがあります。もう少し高い声で明るく鳴けないものでしょうか。あれでは他の鳥や動物と仲良くやっていくことは難しいと思います。カラスは他の鳥たちから嫌われているので、自分たちで群れを作るしかないのかもしれません。ぼくもクワァーという声が聞こえたらすぐに藪の中に潜って、かれらに見つからないようにじっとしています。
カラスに捕まって食べられるくらいなら、ワシの方が断然いいです。ワシの方が豪快に食べてくれると思えるからです。死者にも尊厳というものがあると思えるのです。こんなことを母さんに言うと、カラスにはカラスの事情があって、カラスは黒い羽やクワァーという鳴き声を好きで生まれてきたのではないかもしれないし、生まれた後に変えたくても変えられないのだから、無理なことは言わないようにと注意されました。きっと、ぼくたちが捕まえて餌にしているウサギやネズミも、ぼくたちキツネの口の大きさや鳴き声、吊り上がった目つきを気に入らないのだと思います。生まれ持った姿かたちや習性は、いくら努力しても変えることはできないのだから、そのことを敵だからと言って非難してはいけないということを母さんは教えてくれているのです。
地上にはイタチやオオカミなどの敵がいます。でも、ぼくたちの体が大きくなると、そうした動物が襲ってくることは少なくなりました。ぼくたちも成長するにつれて、行動も慎重になり警戒を怠らなくなりましたし、敵の動きが読めるようにもなりました。親に迷惑をかけるような軽はずみな行動はまずしません。それにかれらに反撃することもそれなりにできるようになりました。身体の大きさからいって、今ではイタチには勝てると思います。幸か不幸か、まだ戦ったことはありません。オオカミには負けるでしょうが、かれらよりも体が小さいぼくたちだっておめおめと食べられるわけではありません。牙や爪で抵抗するので、かれらだって少しは傷つくはずです。その傷がもとでオオカミは破傷風に罹って、高熱が出て死ぬことだってあるのです。よっぽど腹が減らない限り、ぼくたちを襲ってきたりはしないはずです。もちろん用心にこしたことはありませんが・・・。
ぼくたちキツネを食べる動物たちは決して悪者ではありません。かれらも食べて行かなければ飢え死にしてしまうからです。我々キツネだってウサギやネズミ、小鳥の雛を食べて生きているのですから、お互い様なのです。それでも食べるために追いかけ、食べられないように逃げているのです。生き死にがかかったゲームのようですが、一度死んでしまえばゲームのようにリセットはできません。それでもこれは世の常なのですから、いちいち感傷に浸って、落ち込んではいられません。
この前、イノシシと出くわした時はびっくりしました。体が大きいのです。その上、かれらは突進力が凄く、いくら強い父さんでもかれらにはかなわないのではないかと思ってしまいます。でも、かれらは本当は気性が穏やかで、他の動物を襲ったり食べたりすることはありません。かれらが好きなのは地中の芋なのです。いきものを見かけで判断してはいけないのです。
身体の大きさと強さといったら、やっぱりクマが一番です。クマが山の王様です。ですが、不思議に思われるかも知れませんが、ぼくはこれまでクマを見たことがありません。ぼくだけでなく母さんたちもクマを見たことがないそうです。そんな会ったこともないクマのことを教えてくれたのは、我が家の隣に住むキツネのお婆さんです。お婆さんは子供の頃に一度クマに会ったことがあるそうです。その時のクマは、立ち上がると雲の上から頭を出すほど大きく、ガオーと叫ぶと山が崩れたそうです。少し誇張が入っているかも知れませんが、とてつもなく大きいのは間違いないようです。
クマは山の奥のそのまた奥に住んでいるので、ぼくたちキツネと遭遇する機会はほとんどないのです。万が一クマと会ったらどうするかって? 死んだ振りをしたらいいというキツネもいますが、やっぱり逃げるのが一番らしいです。でも、普通は出合ってもぼくたちを襲うことはないそうです。かれらは普通ブナの実を食べているそうなのです。どれだけたくさんの実を食べるのでしょう。でも、ブナの実がならない年は、シカや人間を食べることもあるそうです。そんな年はぼくたちもクマには気をつけなければなりません。ブナの実が多く実る頃に、一度森の王者のクマを見てみたいものです。
サルはいたずら好きです。突然ぼくたちの背中に跨って、ぼくたちを驚かせます。背後から忍び寄って尻を押してちょっかいをかけたりもします。かれらは毎日退屈にしているのでしょうか? いえ、どうも好奇心旺盛のようなのです。ぼくたちもかれらと一緒になって遊んでやればいいのでしょうが、どうも波長が合わないのです。かれらはキャッコラキャッコラ騒がしいのです。物静かな我々とはリズムが違いすぎます。サルもある意味カラスに似ているのかもしれません。
サルたちは群れをなして暮らしています。サルは好奇心旺盛な生き物ですが、キーキーキーキーとうるさい動物です。もっと静かに生活できないものでしょうか。ぼくたちはサルがいたらちょっかいをかけられないように、目をあわせないようにして避けて通ることにしています。
つづく