知られるバグ
どれくらい知ってるんだ、か。
どこまで話すべきなのか。
そもそも表示される内容しかわからないのだ。
検証も足りないものが多い。
「わからないことの方が多いけど言えることはスキルには明示的に使える能力があるっていうのわかっているし、確認もしている。他人のスキルを見れるなんてのも今回の件でわかったくらいだ。逆にどんなことを知りたいんだ」
とりあえず、手札を出しつつ知りたいことを聞く。
「デバッグのスキルで見れるのかそれ以外の手順で見てるのか教えてくれ」
「直接的にはあるアイテムのおかげだがデバッグがないとこんなのことは出来ないと思う。それ以上は今は言えない」
いきなり核心を突いてきた。
探索者的には自分の能力の把握を自分で行いたいのだろう。
「何となくわかった。いつか公開するってことなら何も言わん。ってことでアドバイスよろしくな」
意外と追求されなかった。
それでいいならいいのだが、後で何かを公表しないといけないのか。
「スキル。探査の他は隠密、偵察、暗殺、風操作、音操作だな。とりあえず隠密を選んどくか」
一瞬見失いそうになったが恐らく、隠密が発動したのだろう。
「もう1回、スキル。次は影操作が出てきた。候補に出てるスキルの詳細はわかるのか」
「それはわからない。俺がやってたのは既存スキルの能力と相性の良さそうなスキルを勧めただけだからな」
「どうすっかな、ちょっと俺のスキルの能力を教えてくれ」
ソラが手を伸ばしてくる。
手をとり、ステータスを確認する。
レベル:27
スキル:探査[III]
-周辺探査
-広域探査
-詳細探査
-限定探査
-探査妨害
-脅威度探査
スキル:隠密
-存在希薄
-
-
手を離し、使える能力を素直に伝える。
「能力が6個ってことはレベルの2倍の能力なのか、レベル分増えていくのかどっちなんだ」
「多分レベルの2倍だな。レベルのないスキルは例外すぎてわからない」
「わかった。探査にしとくか。こんな風になるのか。ちょっと確認してくれ」
もう一度ソラのスキルを確認する。
スキル:探査[III]★
-周辺探査
-広域探査
-詳細探査
-限定探査
-探査妨害
-脅威度探査
-
-
-
スキルに星のマークが追加されていた。
想定通り、3つの枠が空いていた。
「星のマークが付いたな」
「能力の方はどうなってるんだ」
「3枠は空いたな。空いた枠はスキルを使っていくうちに埋まっていくものだと思うから今は空白だ」
「そうなのか。あとは初めから探査を選べば星2になるのか気になるな」
気になるが今は気にしても仕方ないだろう。
それからスキルについてわかっていることを話していった。
「ウイのやつ、遅いな。俺らで報告しに行くからここで解散でいいか」
「はい、ダンジョンに潜ってレベル上げをしてきます」
「またな」
夕焼けの雫は探協に向かいモニュメントの説明をするようだ。
モニュメントやスキルについては話したし、大丈夫だろう。
ダンジョンに入るとスマホを開く。
『探協アプリ』を開き、マップを見る。
スキルのお礼ということでこのアプリについてレクチャーを受けたのだ。
これだけじゃ釣り合わないからということで今度、レベル上げを手伝ってもらうことにもなった。
このアプリはオンライン時にデータを取得し、ダンジョン内でオフラインになっても使えるような設計になっている。
ダンジョン内は外から測った全体像よりも大きくなっており、空間が歪んでいるという説があるようだ。
マップは入口から自動で移動距離を計測し、アプリのマップを更新してくれるらしい。
マップ上を進み上層へ行く階段を目指す。
「ガルゥゥゥ」
数分歩くとブラックドッグに遭遇した。
結界を展開し、動きを観察する。
変鉄を棒状にして準備を整える。
全然、襲ってこない。
結界で匂いが漏れずに警戒しているのだろうか。
結界を解除してみるか。
変鉄を床に広げ、罠を張る。
「解除」
結界を解除すると同時にブラックドッグが飛びかかってきた。
床に広げた変鉄を浮かし、固定する。
「ギャウン」
変鉄に当たりブラックドッグが落ちる。
ブラックドッグの手足を固定するように変鉄を絡め硬度を上げる。
変鉄は硬度を設定していない状態であれば小さな衝撃で弾けてしまうがある程度硬度がある状態であれば弾けずに曲がったり、折れたりという挙動に変わっていく。
弾けたり欠けたりしても変鉄同士を当てることで結合する。
ブラックドッグは変鉄の沼に嵌った状態で抜け出すことが出来なくなった。
「スゴいですね。昨日の今日でどうやってそこまで」
突然、後ろから声がかかる。
聞いたことのある気がする声だが夕焼けの雫のメンバーの声ではない。
「誰ですか」
「探幻堂の河内です。大河の河に内陸の内で河内です。以後、よろしくお願いします」
「えーと、よろしくお願いします。タンゲンドウというパーティーの方でしょうか」
初めて会うはずだが、ソラ達が俺の行き先を伝えたのだろうか。
「えっ、パーティーとも言えなくはないのですが、あの、昨日、その指輪を買った店を忘れたのですか。探協の探に幻影の幻に御堂の堂と書いて探幻堂です」
「すみません、店名まで覚えていなくて」
気まずい空気が流れる。
昨日の店は探幻堂というのか。
少し雰囲気は違うが昨日の店員さんはこんな声だった気がする。
「店名くらい忘れてもいいけど私のことまで覚えていないなんて。まあ、いいでしょう。ダンジョン前の鑑定石の件で大変なことになります。あなたに手伝いをして貰いたいのだけれど、話だけでも聞いてほしいと思って追いかけて来ました」
「話くらいなら聞きますけど、俺が出来ることなんて何もないですよ」
「今回の第一発見者であり、他人のステータスを見れるって聞いているので期待してますよ。しかも、1層とはいえブラックドッグを生け捕りに出来るなんて戦力としても期待してもいいくらいですよ」
このまま倒す予定だったのだが生け捕りにすると何かあるのだろうか。
「あまり期待されても困りますが生け捕りにすると何かあるのですか」
「あれ、知らなくてやったの」
素が時々出てくるが生け捕りでは何かあるらしい。
「生け捕りでダンジョンの外に出すと懐きやすくなって従魔に出来るって言われてるのです。あとは確実にドロップが発生してレアの確率が高いとも言われていますね」
「ではダンジョンの外に行きましょうか」
従魔か、アイテムか。
まだ使役の腕輪のデバッグをやっていないので今回はアイテムになると思うがどんな風になるのかは見ておきたい。
変鉄を動かしブラックドッグを移動させる。
台車に乗ったような光景だ。
タイヤになっている変鉄を回転させ前進させる。
横になっているブラックドッグの腹を撫でる。
とても固い毛が邪魔で気持ちよくはなかったがステータスは見ることが出来た。
レベル:2
スキル:牙[II]
-硬化
-切断強化
-風牙生成
-自然治癒
その後、雑談しつつ入口までたどり着いた。
ダンジョンを出た途端、唸り声をあげていたブラックドッグの唸り声が小さくなった。
「ダンジョンから出ると大人しくなりましたね」
「そうですね。協幻堂で使うなら好きにしていいですよ」
「私たちはそんなのじゃないから。ダンジョンの外だとレベルは上がらないですし、私がやりましょうか」
「え、どうぞ」
ダンジョン外だとレベルが上がらないのか。
河内さんは持っていた棒で首を折り、ブラックドッグを倒す。
溶けるように消えていき、黒く透き通っている球が残った。
「レア素材ですね。久場さんはこれが何かわかりますか」
「わからないですよ」
苦笑混じりに答える。
新人に何を求めているのか。
変鉄を動かし、球を拾う。
ハートの結晶
スキル:黒犬の器[I]
-牙[II]
「えっ」
「どうかしましたか」
「いえ、行きましょう」
スキルにレベルがある。
牙というスキルは先程見た。
恐らく、この素材をどうにかすれば先程のブラックドッグを使役できるのか、その能力が使えるようになるのだろう。
「この球ってどこかで買えたりするんですか」
「魔球って呼んでるんですけど、この魔球の正体がわかりましたか。教えてくれたら取り引き出来るように店長を説得しますよ」
「キレイだからですよ。何かわかったら教えます」
探幻堂でも取り扱っているそうだ。
とりあえず、方向性はわかったがどの様に使うのか。
ケンゴ君の魔使いであれば使えそうだが、使役の腕輪でも使えることを期待したい。
スキルや素材、何か分かれば次の謎が出てくる。
これからの会議に集中したいが俺は必要なのだろうか。
検証したい気持ちで溢れているがまずは目の前のことを熟さなけばいけないのだ。