講習のバグ
ピピッピピッ
「朝か」
昨夜、家に着くと開示石で表示されるアイテムがないか探しいくつか見つけることが出来た。
その中の1つをデバックしているといつの間にか寝落ちしていた。
デバックも終わっているのでステータスを確認してみる。
羽兎の枕
スキル:安眠補助
-変形
-睡眠深化
ダンジョンで採れた羽毛を使った枕ということで買ったのだが羽兎という魔物の羽毛を使った枕らしい。
頭の形にフィットするからお気に入りだったのだが睡眠が深くなる効果も付いたらしい。
夜に並列走査を1つの対象に複数回使用し、一気にデバックを進めることが出来るかを確かめたのだ。
結果は見ての通り、完了することが出来た。
スキルのレベルが上がったことで鑑定石も2,3日で完了すると思うがこの方法を使えば一晩で終わらせることが出来るかもしれない。
副作用として気絶してしまったらしいがこの枕があれば気にしなくてもいいと思う。
それはさておき、今日は初心者講習の日だ。
準備を行い、家を出る。
探協の東京支部はダンジョンを囲む形で西側に探協、南側に病院、北側にダンジョン用品を扱うショッピングモール、東側にカプセルホテルが建っている。
東京ダンジョンは塔型のダンジョンだ。
ダンジョンの出入口は1箇所のみ、塔の南西にある。
一般人の侵入をさせない為に探協にのみ入り口を作り、すぐに救助を行えるように病院を隣接させているらしい。
ショッピングモールにはダンジョン産のアイテムが多く販売されており、今日は講習後にデバック用のアイテムを探したいと思っている。
時間は9:50になっている。
依頼受付の入り口から入り、申請機にカードを読み込ませる。
ピッピッ
A01という会議室番号が書かれた紙が出てきた。天井に『講習→』と書かれた案内板があるのでそちらに行けば会議室があるのだろう。
すぐにA01と書かれた会議室が見えた。
扉が開いていたのでそのまま中へと入っていく
「冊子が置いてある席にどうぞ」
会議室には探索者であろう男性と制服を着た男性がいた。
部屋の前の方にはホワイトボードがあり、長机が2列で6台並んでいた。
前2台と中央左の机の上に冊子が置いてある。
左前の席に着き、荷物を足元に置く。
冊子をめくると目次が書いてある。
1.探索者法令について
2.ダンジョンでの素材について
3.探索者協会について
4.ダンジョンでの心得
5.探索者の活動
冊子を眺めていると2人の男性が入室してきた。
着席を促され席が埋まる。
「揃いましたので少し早いですが始めたいと思います」
自己紹介が終わり、早速講習に入っていく。
「では冊子の2ページ目を開いてください」
法律周りの説明から始まりダンジョン産の素材の売買について、探索者の活動とざっくりと説明された。
まとめるとこんな感じだ。
・銃刀法や暴行罪についての注意(武器の携帯やレベルの上昇によって暴力性が出る人がいるらしい)
・素材の売買や税金について(不正な持ち出しは禁止で持ち出す場合も一度売り、買い取る形になるらしい。買取時に税金がかかるため、非課税の収入として扱うようだ)
・申請機の使用方法や武具申請について
・ダンジョン内のマナーやダンジョンの危険性について(素材の横取り隣らないように注意するとか魔物と戦うのは命のやり取りだから無理しないようにといった基本的なことが説明された)
あっという間に2時間経ち、12時になった。
「時間の都合上、今回説明出来なかったこともありますのでお時間のある時に冊子をお読みください。午後は探索者の方に担当していただきます。13時になりましたらこの会議室にお集まりください」
説明担当者と探索者が部屋から出ていき、会議室の空気が緩む。
2人の参加者が席を立ち、談笑しながら部屋から出ていく。
「1人か」
「よっ、久場」
1人になったと思ったら声をかけられた。
聞き覚えのある声だった。
「大学ぶりじゃないか。変わってないな」
「そりゃあな、勝手に入ってきていいのか」
「いいに決まってるだろ。今日の午後に担当する探索者だからな」
大学時代の友人、上野ソラがいた。
同じ学部で遊んだりしていたのだが卒業後は会社勤めと探索者に進路が別れたため、交流がなかったのだが偶然出会ったみたいだ。
「午後の担当はソラなのか。よろしくな」
「さっきも後ろに居たけどな。俺が所属するパーティー、夕焼けの雫っていうパーティーが今回は担当なんだ」
「ふーん、パーティーっていうのはよくあるパーティーってやつでいいのか」
「ゲームとかでよくあるパーティーと同じだよ。せっかくだし飯行こうぜ」
「そうだな」
俺たちは探協を出てすぐにあるラーメン屋へと入っていった。
少し並んだのだがすぐに注文することが出来た。
「やっぱり4月からの法改正で来たのか」
「そうだよ。なんかレベル5にしないといけないらしいからな」
「まだダンジョンに潜ったことないっていうのが驚きだよ。まだレベル1だよな」
「そうだよ。非戦闘スキルなのになんで危険なとこに行かなきゃならないんだよ」
俺たちの大学時代にはダンジョン同好会や探索クラブといったものが全国の大学に出来始めており、ダンジョンが近いということもあり多くの同級生が探索者になっていた。
一度、ダンジョンに入って命のやり取りに嫌悪感を抱いた人もいた。
「4月か5月からレベル上げツアーをやるとか聞いたな。それに参加すればいいじゃん」
「うちの会社的に補助金が出るから3月か4月までに上げとけってことで今日来てんだよ」
「そういうことか」
レベル上げツアーという戦わなくてもレベルを上げれるツアーが企画されているとニュースであったが来月くらいに実施されるらしい。
レベル上げは戦闘に参加しなくても同じ空間に居るだけでレベルを上げることが出来る。
いわゆるパワーレベリングってやつだ。
効率は悪いが戦わなくてもいいということが実証されている。
魔物や命のやり取りに対して嫌悪感がある人でもVR技術を用いてダンジョンと探索者しか見えないようにすることで心的ハードルを下げる試みが実施されるはずだ。
少し前にVR関連のデバックを行っていたから多少は概要を知っているがもう少しで導入されると考えると自分には関係なくとも楽しみである。
「プロの探索者様のレベルはどれくらいなんだ」
「27くらいだな、スキルは3くらいだしそこそこ優秀なんだぜ」
「俺の27倍だな。今日は頼りにしてるよ」
「頼りにしたまえ」
東京ダンジョンはレベルの±5くらいの階層が適正と言われているのでかなりの安全マージンが取られているようだ。
日本には東京ダンジョンの他に北海道ダンジョンと福岡ダンジョンがある。
北海道ダンジョンでは±7、福岡ダンジョンでは±9が適正と言われている。
「で、スキルレベルはどれくらいなんだ」
「5だな」
「え、は、もう1回言ってくれ」
「5だよ、昨日上がったんだ」
「マジか、軍と一緒に探索してるトップ探索者がそのくらいって聞いたことあるしヤバいな」
スキルレベルだけで言えばトップクラスらしいことが判明してしまった。
「色々気になることもあるし、講習終わって時間あるか」
「あるぞ、買い物しておきたいしその後でもいいか」
「夕焼けの雫総出で買い出しに付き合ってもいいぜ」
「いやいや、そんな権限ないだろ」
「そんな権限はないがスキルレベル5っていうのはそれだけヤバいんだよ」
「そうなのか」
20層後半を探索できる探索者がどれくらい凄いのかわからないのだが有望株に見られているということなのだろうか。
ダンジョン産のアイテムに影響を与えれるって考えると我ながら利用価値がありすぎる気がするな。
気をつけないといけないのかもしれない。
「もうこんな時間か」
「また後でな」
休憩時間が終わりに近づいていることに気付き急いで会議室に戻る。
ソラはパーティーの方に集まるということで途中で別れたのだった。
午前の講習が終わり、探索者側と受講者側のスキルレベルが逆転っていることが発覚した。
午後は実戦ということでどうなるのだろうか。
午後の開始を1人です待つのだった。