プロローグ
システムは入力通りの動作を行う
入力した動作が意図したものかはわからない
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「ここにバグがありました」
「そうか、いつものとこによろしく」
いつものようにバグの報告を行う。
東京のオフィス街にあるこの会社では探索者の管理システムを請負っている。
当時、webシステム系のベンチャー企業だったのだが探索者管理システムの一部を委託され、その関係が今も続いているのだ。
5年前地球の各所にダンジョンが出現し、命あるものにスキルというものが与えられた。
各国は突如現れたダンジョンに対して軍を派遣し、確認の末、ダンジョンに多くの資源があることを確認した。
しかし、ダンジョンには資源があると同時に危険も存在した。
魔物と呼ばれる生物がダンジョンに巣食っており、軍だけでは手が回らなくなるのも時間の問題だった。
そこでダンジョン探索を民間に委託することが進められ、探索者というものが誕生したのだ。
「久場くん、ちょっといいかい」
「大丈夫です」
社長に呼ばれ、社長の元へ向かう。
「4月からのことは知ってるかい」
「4月…何かありましたっけ、新入社員でも来るんですか」
「はぁ、違うよ。法改正でレベル5未満だと医療保険の適用外になるんだよ。来月から来年の4月いっぱいまでレベル上げ補助金が出るから3月中までにレベル上げできるようにスケジュール調整よろしく」
民間人が探索者として活動するようになって少しした頃、どこかの軍が初級ダンジョンを踏破したことを契機にステータスの閲覧が出来るようになった。
今まではダンジョン入り口にある不思議な石やダンジョンで採れる不思議な石でスキルの確認を行えていた。
踏破後には本人のスキル以外に本人のレベルとスキルのレベルが確認出来るようになったのだ。
魔物を倒すことで強くなっていくと言われていたがレベルという形で証明されたのだ。
そして、ガンのステージ3患者がレベル10程で治療もそこそこに完治したことで医療分野にも日の目が当たったのだ。
「そんな話もありましたね。4月からって早いですね。先輩と相談しておきます」
「補助金もたんまりだから週2くらいの出勤でもいいぞ」
「あはは、スケジュール確認してきます」
日数で補助金が支給されるということだろうか。
先輩と相談し、3月は月火の出勤で水木金はダンジョン探索票の提出でいいということになった。
先輩曰く、「ダンジョン休みなんて羨ましい」とのこと。
ダンジョン探索票とは登山届のようなものでダンジョン入場時に登録し、退場時にチェックすることで探索者の安否を確認するものだ。
退場時刻を過ぎると捜索隊が編成され救助される仕組みなのだ。
クルッポ、クルッポ
18時の音が鳴る。
社長の趣味で始業時刻と終業時刻、昼休憩時に鳩時計が鳴るのだ。
「お疲れ様です。探索者登録してくるんであがります」
「おいおい、登録すらしてなかったのかよ。3月の初めのダンジョン休みに講習予約しとけよ」
「はい、わかりました。では、お疲れ様です」
「おつかれ」
先輩とあいさつを交わし、会社からそのまま探索者協会東京支部へと向かう。
日本には3つのダンジョンがあり、それぞれのダンジョンに探索者協会、通称、探協の支部が置かれている。
探索者登録は市役所でも可能だが時間的に閉まっているため、探協で登録を行う。
探協はダンジョンから帰還した人で溢れていた。
探協の主な入り口は3つあり、総合受付、依頼受付、買取受付がある。
総合受付では探索者登録や探索者への依頼、ダンジョンに関する会議など一般人や企業関係者などが利用している。
この受付には俺もシステムの説明や点検で来ることがあるのだ。
依頼受付では探索者が依頼の受注や探索票の受付が出来る。
買取受付はダンジョンで得たものを申告し、買取を行っている。
探協の構造上、買取受付を外から見ることは出来ない。
探協は地上4階建ての建物なのだがダンジョンを背にして表側には総合受付と依頼受付の入り口があり、裏に買取受付があるのだ。
探索者登録のために総合受付の方に入っていくとエスカレーターがあり、2階へ進む。
役所のような椅子と受付が目に入る。
多少人はいるが数も少ないため、すぐに受付を行うことが出来るだろう。
受付の隣には探索者登録用と書かれた専用の発券機があり、ボタンを押して発券する。
ピコン
「お待ちの方どうぞ」
「探索者登録お願いします」
待ち時間なく順番はすぐに来た。
「マイナンバーカードはお持ちでしょうか。お持ちでない場合、身分証明証とこちらの書類の記載を行う必要があります」
「カードあります」
財布を取り出し、マイナンバーカードを渡す。
住民票の他にも運転免許や年金手帳などの行政関連の連携を行うことも出来るようになったため、マイナンバーカードは広く普及している。
「確認します。こちらに手を置いてお待ちください」
「はい」
ケーブルが繋がった黒い物体が出された。
手のひらのマークが描かれているのでマークに沿って手を置く。
個人情報の照合をするのだろうか。
黒い物体が薄ら光る。
「スキルはデバッグで合っていますか」
「えっ、あ、はい。これってスキルを読み取る機械ですか」
「はい、そうです。ダンジョンに潜ると危険と隣り合わせなのでスキルの把握を行っております。見たところ非戦闘スキルですし、4月からのために登録でしょうか」
「そうです。レベルとかも見れるんですか」
「レベルはこの装置では確認出来ません。鑑定石の結果を機械が読み取る時にスキルしか読み取れないらしいです」
「便利ですね」
「レベルが気になるなら真ん中の鑑定石を触れば確認できますよ」
手のひらのマークの真ん中辺りに四角い石がハマっている。
不思議な石もとい、鑑定石に指を触れてみる。
少し違和感が脳裏を過ぎる。
レベル:1
スキル:デバッグ[Ⅳ]
フワッと目の前にステータス画面が現れる。
2年ほど前に見た以来、久しぶりにステータスを確認した。
この画面は自分にしか見ることが出来ないがしっかりとステータスを確認できた。
「どうでした」
「レベル1でしたね」
「これからですね。あ、探索者登録出来たみたいなのでお待ちください」
「わかりました」
おそらく探索者カードを取りに行ったのだろう。
探索者カードはダンジョン関連の申請をスムーズに進めるための機能の他、電子決済や身分証としても使用出来る。
「お待たせしました。まず、こちらがお預かりしていたマイナンバーカードです」
「はい」
「続きまして、探索者カードの説明です」
探索者カードで出来ることをまとめるとこんな感じだ。
・探索票申請(依頼受付にある機械で行うらしい)
・武具申請(銃刀法違反にならないように武器や防具は申請する必要があるが依頼受付の窓口で申請をするらしい)
・買取申請(買取受付にてダンジョンの取得物の売買や税管理を行えるらしい)
・ランク確認(依頼の受注で達成可能かの判断基準になるらしい)
・電子決済(買取受付では全て電子決済のため、現金化出来ないが全国の加盟店で使える)
・身分証(マイナンバーと連携しているので身分証としても使用可能)
「そうです。武器や防具は持参しないといけませんがグローブやプロテクターは貸し出ししているのでご活用ください」
「わかりました」
「ご質問はございますか」
「ランクってどんな風に決まるんですか」
「レベルとスキルと依頼達成の実績で決まります。無理な依頼を受けて事故が起きると問題ですからね」
ダンジョンでは毎月死傷事故が起きているため、ランクを過信するのは辞めておいた方がいいと思うが目安にはなると思う。
依頼を受ける時は注意しておこう。
「そうですね。あと1ついいですか」
「どうぞ」
「講習って受けれますかね」
「ここで申請しましょうか。初心者講習で良かったですか。使う武器がありましたら武具講習もあるのでそちらもご参加ください」
「初心者講習だけで大丈夫です」
「いつにしましょうか」
「3月の第1水曜日でお願いします」
「確認しますね。確認できました。では探索者カードを読み取りますね」
ピッという音が鳴る。
「これで申請が終わりました。講習は10時からですので5分前には来てください。講習の申請は1階の申請機でも出来ますのでそちらもご確認ください」
「ありがとうございます」
「ご利用ありがとうございました」
申請も終わり、帰宅する。
講習まであと10日程度、初のダンジョン、初の探索、俺は探索者として活動出来るのだろうか。