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これが俺の求めた戦いだ!

「槍構え!」


 大人たちが、槍を構えようとして、でも、俺と同じ初狩り組のふたりは完全に慌てふためき、何故か弓を構えた。


 牡鹿が蹄を地面に突き立て、まっすぐ突撃してきた。その牡鹿に、ふたりが矢を放った。


 狙いも何もない、不細工な矢を、牡鹿は横っ跳びでかわした。その横っ跳びが、俺らには致命的となる。


 大人たちは全員、前に槍を構えていた。いきなり俺らの横へ移動した牡鹿は、そのまま俺らの横っ腹を責める形となる。


 牡鹿の動きに合わせて、冷静に槍を方向転換させられる大人はリーダーを含めて数人。それも、近くの仲間の体が邪魔してすぐには槍を横に向けられない。


 そんな危機的状況で俺が何をしていたかというと……


「おおおおおおりゃあああああああ!」


 槍を手に走っていた。


 牡鹿が俺らの横に回り込んだとき、すでに俺は駆けだしていた。


 大人たちの悲鳴を背に受けながら、俺は牡鹿と得物と交えた。


 俺の石槍と、牡鹿の角が激突。肩に走る激痛と衝撃に耐えながら、俺は一歩も引かない。


 それでも体重差か筋力差か、押し込まれたのは俺だ。


 俺が横に跳んでかわすと、牡鹿は再び俺を狙って突進してくる。


 俺は、振り回される牡鹿の角を必死に槍で受け止めながら、隙を見て槍を突き出す。


 今まで、俺が目にした牡鹿はすべて死体だった。


 牝鹿よりも体が大きく、力強い牡鹿も、死体になればただの肉だ。


 でも、生きている牡鹿は凄かった。


 目に宿る光が、体から伝わる熱が、躍動する角が、牡鹿の全てが俺を魅了した。


 徐々に俺の息が荒れ、槍に重みを感じてくる。


 そんな俺の消耗を感じ取ったのか、牡鹿は渾身の突撃を仕掛けてくる。


 でも俺は、消耗しているからこそ、そのチャンスを逃さなかったんだと思う。


 真っ直ぐ突っ込んで来る牡鹿の額に、槍を真っ直ぐ真っ直ぐ突き立てた。


 牡鹿の角は二本、左右から伸びた角の中央を縫うように、俺は槍を突き出していた。


 石の穂先と牡鹿の頭蓋骨が衝突し、牡鹿はよろめいた。


 俺は反射的に、何も考えず、本当だけで歯を食いしばり、全体重を乗せて、牡鹿にしがみつくような勢いで槍を伸ばした。


 牡鹿の喉に、石の穂先が深く突き刺さる。流れ出す血は、槍を引き抜くと勢いを増して辺りを血に染めた。


 牡鹿は無音の鳴き声をあげ転倒。地面にその身を預けた。


「ッッッ!」


 俺の足下から、背中から、胸の内から、熱い高揚感が駆けあがって来る。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」


 その時、俺は叫んだ。


 腹の底から叫んだ。



 産まれて十三年。今まで味わったことのない充実感が、口から溢れて止まらない。


 槍を突き上げ、俺は勝利の咆哮を上げていた。


 これだ。


 これが俺の望んでいた狩りだ。


 大きくて、立派で、力強くて、そして美しい牡鹿。でも、だけど、




 俺は、こいつよりも強い。

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