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鹿狩り

 しばらくして、俺らは素手でネズミとリスを、弓矢でウサギや狸、キツネを仕留めていった。とはいっても、俺ら初狩り組三人はただ見ているだけで、あとは獲物の荷物持ち。


 動物の毛皮で作った袋に獲物を詰めて背中に担ぐ。


 俺らがシカを見つけたのは、背中の袋がそれなりに重くなってきた頃だ。


 周りの大人たちが、一斉に弓を構えた。


 けれど、リーダーは俺を振り返ると少し考えて、左手を上げた。


「おいアギト。確かお前、投げ槍が得意だったな」

「え? おう」


 俺が返事をすると、リーダーは俺から毛皮袋を預かった。


「これも経験だ。一度本物のシカに槍投げてみろ」

「わかった」


 言われるがままに、俺は自分の槍を逆手に握り、投擲体勢に入った。いつもは木とか岩とか、動かないものを相手に練習していたせいか、生きたシカを狙うのは少し違和感があった。俺が投げてからシカが動いたらどうすればいいんだ。などと、岩相手には無用の不安があった。


 シカは木の芽を食べているようだ。鹿の意識が食事に向いているあいだに俺は狙いをつけ、振り被った槍を一気に投げ飛ばした。引いた右足で地面を踏みしめて、腰と肩を回し、最後に右手を思い切り振り抜く。


 すると練習通り、槍は綺麗な放物線を描いて、シカのわき腹、心臓に命中した。


 小さな泣き声をあげて、シカは転倒。


 必死にバタつかせる手足は徐々に力を失い、やがて動かなくなった。



 仕留めた。ごちそうであるシカを、俺は仕留めたのだ。


 大人たちは両手をあげ、地面を踏みならして喜んだ。


 俺と同じ初狩り組のふたりが、前後から俺に抱きついてくる。


 リーダーは口元で笑ってから、俺の頭をつかんだ。わしゃわしゃと俺の髪をかきまわしながら、リーダーは俺を褒める。


「初日に鹿を獲る奴なんて久しぶりに見たぜ」


「あ、ありがと」


 その場の空気を読んで、俺はそう言っておく。そっけない反応の俺のことを、まわりの大人たちは緊張しているとでも思っているんだろう。特になにもいわれなかった。


 でも、まわりの喜びようとは裏腹に、俺の胸には気持ちの悪い違和感がとぐろをまいていた。


 仕留めたのに。ごちそうであるシカを、俺のこの手で仕留めたのに。なのに俺は納得できなかった。


 ただ槍を投げて、それが当たって、一方的にシカが勝手に死んで、それで褒められても、なんだか嬉しくないのだ。


 何かが違う。俺の求めていたものとは、何かが違う。


 でも、その正体をつかめないまま、俺らは帰ることになってしまった。


 一応補足しておくと、俺以外の初狩り組の二人は帰る途中、素手でリスとネズミを運よく捕まえることができた。


 でも他には獲物がいなくて、今日の狩りが本格的に終了しようとしていた。


 もう少しで森の出口が見える。


 草むらからソレが飛び出したのは、その時だった。


 草木を大きく鳴らし飛び出る大きな影。


 その正体は、鹿の親子だった。


 立派な角を蓄えた牡鹿と、華奢な牝鹿、それに小鹿が二頭だ。


 距離が近い。


 俺の足でも二十歩と離れていない。


 なのに牡鹿は、子供を守ろうとしているのか、俺らに角を向けて突撃体制に入る。

 リーダーが叫ぶ。


「槍構え!」


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