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VSユキヒョウ2

 そのままユキヒョウの首を締め上げる。


 全身の力を腕に集中させ、ユキヒョウの首を千切るぐらいの気持ちで締めあげた。上腕二等筋が痛くなるほど力を入れると、ユキヒョウの反撃がはじまった。


 俺は背中に、鋭い爪の感触を感じると同時に腕を離して前転。


 ユキヒョウのふところからエスケープした。


 それでも背中には激痛が走り、生温かい感触が腰へと流れる。


 致命傷は食い止めたが、決して浅い怪我ではない。


 俺は、素手でユキヒョウに勝てるのか……


 一瞬、弱気な自分が顔を出す。


 でも、ユキヒョウ越しに俺は見た。


 仲間たちのなかで、アオイは泣きそうな表情で俺を見守っている。


 当然だろう。

 相手は白い魔獣ユキヒョウ。


 発見次第狩猟祭を中止にするような相手だ。

 いままで、ユキヒョウに勝てた人間はいない。


 そんな相手に、素手で挑むのだ。

 こんなものは、ただの自殺行為だ。


 それでも、俺の熱は治まらない。

 ここで俺が、他の誰でもない俺がユキヒョウを殺らねば仲間が、アオイがユキヒョウの牙にかかってしまう。


 それだけは、死んでもさせない。


「俺は、てめぇよりも強い!」


 今度は俺の方が先に仕掛ける。でもユキヒョウの瞬発力は、その有利を覆す。


 後から跳躍したユキヒョウの攻撃のほうが、先に俺へ届きそうだ。


 でも、俺は最初から攻撃する気なんてない。俺の狙いは最初からひとつ、ユキヒョウの前足だ。


 俺はユキヒョウの爪を封じるべく、両手で前足首をつかんだ。


 そして牙で噛みつかれる前に、最初からひざ蹴りを放っておく。


 俺の右ひざはユキヒョウの顎を直撃。しかし俺が両手首を押さえているので、ユキヒョウは後ろへ跳んで衝撃を逃がすこともできない。


 やったか。

 そう思ったのもつかのま、ユキヒョウは腕力で俺の手から逃げると、爪で俺の腹を素早く裂いた。


「がぁっ」


 そこからはユキヒョウの狩りタイムだ。

 ユキヒョウは俺を押し倒すと、そのまま俺に爪を突き立てて首筋に噛みつこうとしてくる。


 俺は爪を無視して、とにかく両手でユキヒョウの首と頭をつかんでそれを阻止する。


 目の前で牙が並ぶ口が開閉する。その迫力たるや、夢なら覚めて欲しいところだ。

 肩、胸、腕、はユキヒョウの爪で、皮膚がズル剥けだ。俺の上半身は俺の血で染まり、激痛が俺の集中力をかき乱す。


 なのに何故だろう。

 痛みが強くなればなるほど、全身の血液がより熱く、より加速していく。

 全身の血が沸騰して、背中が爆発しそうだ。


「お前は、俺に喰われろぉおおおおおおおおおおおおおおお!」


 世界から音が消えた。


 ユキヒョウの動きが、やけにゆっくり見える。


 俺は腹筋で状態を上げ、ユキヒョウをはね飛ばした。


 俺はユキヒョウを殴りつける。


 ユキヒョウが俺の腕に噛みついた直後に殴り飛ばす。

 ユキヒョウが俺の脚に噛みついた直後に踏み潰す。


 俺は拳が滾るままにユキヒョウを殴って殴って殴って殴り続け、足が求めるままにユキヒョウを蹴り飛ばした。


 殴って殴って蹴って殴って蹴って殴って蹴って殴って殴って蹴って。


 俺の体で、赤く染まっていない場所なんてない。


 ユキヒョウは俺の返り血で真っ赤に染まった。


 それでもなお、俺の拳は加速し、ユキヒョウの動きは鈍っていく。


 どれだけの時間が経ったかはわからない。


 だけど、俺は本能的に心のなかで叫んでいた。


 ユキヒョウ。


 てめぇマジで強かったぜ! でも、


「俺の方が強い!」


 右拳をユキヒョウの腹に叩きこんで、そのまま天へと拳を突き上げた。

 内臓を潰す確かな感触を味わいながら、俺の右腕は脱力した。

 ユキヒョウは地面に落ちて動かなくなり、俺の口から息が漏れる。

 俺はユキヒョウを見下ろしてから、世界に叫んだ。


「俺が! 平原最強の雄だぁああああああああああああああああああああ! あ?」


 視界が回って、そのまま俺は意識を失った。

  

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